yahhoi's novel.

私ことやっほいの小説置場です。オリジナル小説に加えレギオンズの皆様との小説、堕華さんとの提携小説や東方二次創作等を書いていきます。

東方修行僧 59

「マズいな・・・」

パリンッ!と空間が割れた。

木や小動物、森羅万象が一点に収束する。それらの波はヒューマノイドを巻き込んでいった。

「おっ!?」

まさに超常現象だった。ビック・バンですら軽く凌駕するであろうその力に、人間であるヒューマノイドが抗う術は無かった。

どんどん飲み込まれ、物質が消滅しているであろう所に迫るヒューマノイド。その中で何かを悟ったのか、ヒューマノイドは目を瞑り、全身を破壊の流れに任せた。

 

 

シュウンッ!

「ふぅ・・・」

一方のレイルは、一足先に崩壊する世界から抜け出して幻想郷に戻っていた。

改めて見ると、その場は凄惨なものだった。あらゆる植物は破壊され、至る所で動物達の血肉が飛び散っている。その中には恐らく、自身やヒューマノイド霊夢達の血も流れているのであろう。

だが、レイルはそんな事に目もくれない。ヒューマノイドが辺りに居ない事を確認すると、その場に腰を下ろした。

(流石に、疲れたな・・・)

それはレイルにとっていつぶりだろうか。いや、初めてなのかもしれない、ここまで追い詰められたのは。

人間は愚か、妖怪ですらも皆彼の前にひれ伏した。殺めていった。そんな彼が、ヒューマノイドという‘‘人間’’にここまで苦戦した。これが人間の可能性。最凶最悪の能力を持ってから、失ってしまったものをヒューマノイドは持っていた。

「俺にはもう・・・無いな・・・」

レイルは自分の手を見た。彼もまた、人間である。しかしレイルがその手を見る目は、人間を見る目ではなかった。それは獣、いや、この世のものではないものを見るような目だ。

能力と引き換えに、彼は人間を捨てた。

「ッ!!?」

突如、レイルの右腕が一人でに動いた。

「くそ、勝手に来んな・・・」

レイルは左腕で必死に抑えた。

ーー暫くすると、右腕は暴走を止めた。

「まだだ・・・まだお前らの好きにはさせないーー」

 

その後ヒューマノイドが現れる事は無かった。

レイルは体を持ち上げ、一人何処かへ飛び立った。

 

ーー目指すは、博麗神社。

 

 

*****

 

 

「洞窟とか、なるべく外の景色が見えない所に避難するんだ!」

「早くしろー!」

人里では、霖之助魔理沙が避難を呼びかけていた。

「急いで!事は一刻を争う!」

「こっちに良い所がある!こっちだ!」

「・・・よし、着々と進んでいるな」

「ああ、人里は問題無さそうだぜ」

人々は魔理沙が示した場所へ向かっていく。

「おかしい。妖怪が襲ってくると思ったんだが」

「この非常事態で紫がそんな事させる筈無いよ。幻想郷のバランスが崩れかねない」

「それもそうか」

人ごみは段々無くなり、見晴らしも良くなってきた。

「ん?あれは・・・って、魔理沙?」

魔理沙は突然、青ざめた顔をした。

その訳は霖之助も分かっていた。何故なら霖之助の視線の先には、『道具屋 霧雨店』の店主、つまり魔理沙の父親がいたからだ。

魔理沙とその父親は、昔いざこざがあって絶縁状態にあった。

(やばい・・・まさかこんな所で会うなんて・・・)

魔理沙は焦った。見つかったら何を言われるか分かったものじゃない・・・。

「っ!」

すると霖之助魔理沙を父親から見えない所に、自身の背後に身を隠させた。

「ん?霖之助じゃないか!」

魔理沙の父は霖之助に声を掛けてきた。霖之助魔理沙の父親と師弟関係にあるので、大層仲が良かった。

幸い、父親は魔理沙に気付いてない様子だった。

「どうだ、最近は上手くやってるか」

「ぼちぼち、といった所です。客が来る日もあれば、客じゃない人が来る日もあって、まあ圧倒的に後者の方が多いんですが・・・」

「そうか、せいぜい頑張れよ。俺ももう先は長くねえんだ、これからは香霖堂に代わって貰わねえと」

「ですが、親父さん・・・」

「はっはっ!冗談だ、だがもう霧雨店は畳まにゃならねえな・・・」

「親父さん・・・」

その問題も今霖之助の背後にいる少女がいれば、難なく解決出来る。しかし今更和解する事など出来るだろうかーー。

霖之助がちらっと魔理沙を見ると、魔理沙はわざとらしく下を向いていた。

「そういえば、魔理沙は最近どうしてんだ?」

‘‘魔理沙’’。その言葉を口にした瞬間魔理沙の肩がぶるっと震えた。

魔理沙がどうかしましたか?」

「あいつは俺に似て頑固だからな、人様に迷惑かけてねえか心配なんだぜ」

「あはは・・・(本人後ろにいるんだよなあ・・・)」

「それにしても、あいつには悪い事したからな・・・」

また魔理沙の肩が震えた。

「お世継ぎやら店の切り盛りやら、昔っからまるで人生を強制させちまってたからな・・・。本当に不甲斐ねえ・・・」

「いえ、そんな事は・・・」

「おっと、慰めは無用だぜ。弟子に諭されたんじゃ、師としての面子がもたねえからな」

「・・・」

霖之助言葉を失った。いや、今は言葉を発するべきではなかった。無駄に言葉を発して、魔理沙が出てくるタイミングを消してはいけないと判断した。

・・・が、魔理沙は一向に姿を現す気配は無かった。

「じゃあ霖之助、またな。魔理沙にはよろしく言っといてくれ。もしこんなダメ親父を許してくれんなら、いつでも家に帰って来いってな・・・

何処か悲しげな表情で、魔理沙の父親は手を振って踵を返して歩いていった。やはり魔理沙にそんな決心がつく筈はなかった。しょうがない事だ、自分が同じ立場だったら・・・。そう割り切り、手を振り返した。

 

 

 

「親父ッ!」

 

 

 

「なっ、魔理沙!?」

霖之助の考えは外れた。何か意を決した魔理沙は、霖之助の背中から飛び出した。

「・・・っ!?魔理沙!!!」

「さっきから聞いてりゃ好き勝手言いやがって。私はあんたを許したりしないぜ!」

魔理沙・・・」

驚きと悲壮の表情を浮かべる魔理沙の父親。周りからすれば、目も当てられないだろう。

ーーだが、魔理沙はもっと目も当てられなかった。

「早ぐ何処か行げ!私の前に現れんな!」

魔理沙は涙で濡れていた。

「・・・」

「親父さん、早く避難するんだ」

「ああ・・・。魔理沙、元気でな・・・」

「うるぜえ・・・余計なお世話だ・・・」

魔理沙の父親は、それ以上踏み込んではこなかった。たった一人の、最愛の娘に背を向け、去っていった。

それを涙ぐみながら睨む魔理沙を、霖之助はただ見ている事しか出来なかった。

「・・・」

「親父・・・」

 

 

「これで全員かな」

人里はもぬけの空となった。

「親父さんの事はいいのか魔理沙?」

「ああ、もう気が済んだ!」

目を真っ赤にしながらも、魔理沙の表情は晴れやかだった。魔理沙は今後も暫くは実家に帰る気などないだろう。

だがそれでも、魔理沙が父親に対しての考え方が少しでも良くなったのは事実だ。

「せめて死ぬ前には顔を出すんだぞ・・・」

「ん?何か言ったか」

「何でもないさ」

その事は長い間霧雨家のお世話になっていた霖之助とっても喜ばしい事だった。

霖之助は不意に空を見上げた。

 

「・・・ん?何だあれは?」

見上げた空には、白く光ながら猛スピードで移動する物体が在った。

向かっている方角には、博麗神社がある。そして今博麗神社には、先程の戦いで負傷した霊夢達を休ませていた。

魔理沙!あれ!」

「ああ、私も確認したぜ。」

魔理沙はそう言うや否や箒に跨った。

「香霖も来てくれ!

魔理沙霖之助を乗せると、ミニ八卦炉を箒の後ろに付け全速力で博麗神社へ向かった。