東方修行僧 69
「ぶはぁっ!!」
ヒューマは凄まじいスピードで吹っ飛びながら地面を転がる。一転、二転としてようやく静止したが、蓄積されたダメージは立ち上がるのを妨げる。
(くそ、動かないか・・・)
その隙にレイルはヒューマに接近する。ヒューマもそれを予測していた。予測していたが、瞬時に対応する力は残っていなかった。
レイルはヒューマを上空へ蹴り上げた。腹部から全身にかけ、衝撃が走る。ヒューマは宙へ舞った。
そして既にその先にはレイルが待ち構えていた。
「ッ!!」
今度は、背中。両拳を噛み合わせて振り下ろされたそれはヒューマの体を貫くかのような衝撃を与え、今度は地面に叩きつける。
その勢いでヒューマの体は、三メートル程地面にめり込む。
しかし痛みを感じる暇などヒューマには無かった。
(すぐに動かないと・・・やられるな)
痛覚などをかなぐり捨て、ヒューマは横に転がる。するとそれから一秒もしない内にレイルが彗星の如く降りかかり、地面を抉る。
直撃は避けたヒューマだったが、その衝撃は空気を伝ってヒューマの体を押し上げる。ヒューマは木に叩きつけられた。
「うぐっ・・・、がっ!」
ヒューマは酷く咳き込む。度重なる攻撃で、呼吸器官に炎症を起こしたようだ。
「どうした?ギブアップか?」
「ああ、すぐにでもそうしたいさ・・・」
「そうか。なら・・・ッ」
レイルは手を槍の先端部分のような形にすると、ヒューマに向けてそれを突立てた。
「俺がギブアップさせてやるよ」
「はぁ・・・や、やっと着いたわね」
霊夢達は博麗神社の階段下にいた。そこから見える鳥居は上部の端が欠けていて、修復するのにかなりの時間を要する事が、十分に窺えた。
「後で鬼達を連れて来て修復させよう・・・。後、ヒューマも」
「被害総額の見積もりをしてる場合じゃないんだぜ。まだ上では紫とヒューマが戦ってるんだ」
先程自分達を襲った荒れ狂う竜巻は、もう消え去っていたようだ。二人はそれを確認すると、少し安心した様子だった。
「あそこにボスも・・・」
一方ヴァルドは、対照的に心配そうな表情で憂いていた。ボスは確実に自分の命を投げ出すそうとしている。幼い頃から彼に育てられてたヴァルドにとってそれは、家族の死を意味するものだった。あまりにも受け容れがたい事実。しかしヴァルドは、それを受け容れる事にした。本人が決めた事を周りが心配するのは杞憂である。しかし、ヴァルドは心配だったーー。
レイルは宇宙生物に支配されようとも、心は人間である。彼は本当に最後まで自分の意志を貫けるのだろうか?きっと心の内には生きたいと願っているのではないのか?そういった疑念が、ヴァルドの心を曇らせていった。
(俺は・・・俺はどうすれば・・・?ボス・・・・・・)
一人俯く彼に、誰かが肩に手を置いた。
その人物は、魔理沙であった。
「あいつはそんな弱くない。いや、弱くなかったぜ」
ヴァルドは一瞬、この人に何が分かるんだろうと思ったに違いない。しかし魔理沙は、一度レイルと対峙している。味方としてではなく敵であったからこそ、分かるものがあった。
敵だったからこそ、レイルの芯の強さには驚かされた。
「・・・!そうか・・・・・・」
ヴァルドもそれを、魔理沙の顔付きから察した。
「とにかく、あんたは彼の最後を見届けなさい。あんたにはその義務がある」
霊夢も元気付けるかのようにそう言った。
「ありがとう・・・」
「ま、何にせよ私達が勝たないとね。行くわよ魔理沙!!」
「了解だぜ!」
二人はヴァルドを置いて階段を駆けていった。その先で見たものは・・・。
「紫!ヒューマ!あんたら無事・・・」
グサッ。
「え・・・嘘・・・」
二人は見た。
まるでボロ雑巾のように地面に伏している紫の姿。
そして、
・・・脳天からうなじにかけて槍で貫かれた、変わり果てたヒューマの姿を。
先程やられたばかりなのか、今でも額から血が流れ続けている。
「あ・・・、」
「霊夢・・・これって・・・」
「どうかしたのか二人とも!」
遅れてヴァルドが階段を上がってきた。そしてヴァルドにも同じような光景が目に入る。
「な、何だこれは・・・」
ヴァルドにとっては見慣れた光景だったが、それでも荒らされた神社とヒューマから飛び散る鮮血には戦慄した。
「一体何が・・・、ッ!」
ヴァルドはヒューマの近くの人影に気付いた。
「ボスッ!」
そしてそれがレイルだということに気付いた。
「おお、ヴァルドか。残念だがヒューマは駄目だった。他を当たるぞ」
酷く冷めた声で、レイルはそう告げた。
・・・ヒューマ同様、額から血を流しながら。
「ボスッ!その傷・・・ッ!」
ヴァルドにとってそれは、何よりも異様な光景だった。それもレイルが、あそこまで傷を負うような事は無かったからだ。
「ヒューマにしてやられたよ。こいつ、自分の体を犠牲にしてまで俺に傷を負わせやがった」
何を言ってるんだ?三人はそう疑問に思い、ヒューマの方に目をやった。
そして三人は気付いたのだ。その槍がカルビンで出来ている事、そしてその先端部分がヒューマの後ろでは無く、前にあった事を。
「まさか・・・ヒューマ!」
「自分の体ごと・・・レイルを貫いたって事・・・っ!!?」
ヒューマは一ミリも動かない。策を悟られない為、わざと体を硬化しなかったのだ。
「これがあいつの覚悟・・・。正直ビビったよ。まあ、結局功は奏さなかったけどな」
「ボス・・・」
「ここを去るぞ、支度をしろ。直にここは滅びる、また新しい世界を・・・」
よろめきながらも、博麗神社を後にするレイル。
・・・しかし、目の前の人物がそれを阻んだ。