レギオンズ支部の仕事初め その15
・・・不気味な程の静寂。
不気味な程何も無い、暗闇。
ここは天国なのだろうか?いや、天国はもっと明るいイメージがある。するとここは・・・地獄か?
無理も無い。俺は色んな過ちを犯した。
人を殺した。人を殺させた。誰かが殺されるのを防げなかった。
これはきっと、神が俺に与えた贖罪の機会なのだろう。
・・・いや、そもそも天国や地獄などは人間の妄想の産物だ。実在するのかしないのか、砂上の楼閣だ。
本当はそんなものはなく、今目の前に広がってる光景こそが死後の世界なのかもしれない。
・・・それにしても体が痛い。
死後の世界では痛みなどは存在しないものと思っていたが、それも間違いだったのか。
何かこう、掠り傷程度の軽い痛みや骨が折れたぐらいの重い痛み、背中には何かが当たってる感触が・・・。
・・・あれ?
そこでやっと俺は、この暗闇がただ目を瞑ってただけのものという事に気付いた。
光。
先程まで見ていたにも関わらず、それはとてつもなく眩かった。
段々目が慣れてきたので周囲を見渡すと、足があった。
そのまま膝、腰、胸と這う様に視線を移す。そのがたいから見るに男のようだ。
そして顔に目が行った時、俺は目を見開いた。
「おはようヴァルド。遅れてごめん」
見覚えのある顔、聞き覚えのある声。長身だが子供のようにあどけない表情。
マクロだった。
「ふふふ・・・はは・・・」
突如として鳴り響く笑い声。
「まだ残っていたのですか。さしずめ私達の部下を足止めしていたのでしょう。おや、とするとあの人数をあしらっていたのでしょうか。これはまた面白そうな方がおいでなさったものですね・・・」
フリートは瓦礫を掻き分け、砂埃を払い立ち上がった。
「まあ、あのような弱い方達千も万もあしらったところで関係ありません。私なりに歓迎しましょう」
フリートはそう言い、構えを取った。
それだけでおぞましいオーラが漂い、俺は少し戦慄した。
「気を付けろマクロ・・・お前の能力が奴に通用するか分からん内は用心しろ」
マクロは人間相手にはその奇抜な能力を奮えていたが、今対峙しているのは悪魔という未知の敵。起こり得る可能性は危惧しておかねば・・・。
「大丈夫!僕はナイフなんか怖くないから!」
が、マクロは根本的に話を理解出来ていなかった。
「違うマクロ!奴は俺らと種族が違う、悪魔なんだ!ナイフはただ俺達を仕留める時に使ってただけで、本当に恐ろしいのはそこじゃない!」
「種族?悪魔?それって可愛いの?」
ああ、駄目だ。こいつの脳内メモリは一キロバイトも無いのか。
「だから・・・」
が、そこで言葉が遮断された。
「立てない者は無理して喋らなくて結構です」
「うが・・・あっ!!」
フリートがいつの間にか距離を詰め、まず俺を蹴り飛ばした。
そして間髪入れず、マクロに迫る。
「!!マク・・・ロッ!」
吹き飛ばされつつもマクロにそれを伝えるが、届く筈も無く、マクロも俺と同様に蹴り飛ばされた。
「うぐっ!」
「うぎゃっ!」
俺が壁に激突して、一拍おいてマクロが壁に激突した。
背中に痛みが走る。
「ぐ・・・大丈夫かマクロ?」
と、この心配は杞憂である事を瞬時に悟った。
「痛いじゃないか!何するんだ!」
マクロは無傷だった。そのギャグ染みた防御力は十分に理解できていたが、まさか悪魔でも無駄だったとは思わなかった。
俺は腕が骨折してめっちゃ痛いのに。
「ほう!そんな飄々と立ち上がるとは!」
フリートは何やら嬉しそうだ。
「しかも全くの無傷!これは素晴らしい方にお会いしました」
「・・・ねえヴァルド。あの人って変人なの?」
「ああ、かなりな」
戦闘狂。まさにフリートはそんな感じだ。
「ふーん、まあいいや」
マクロは投げやりにそう答えると、フリートを見た。
「とにかく君が僕の友達を傷付けたんだよね?なら許さないよ」
「勿論承知しています。ふふ・・・」
フリートが微笑む。と同時に、ただならぬ気が辺りを包む。
瓦礫が謎の干渉を加えられ宙に浮き、大地は不規則に揺れ始めた。
それだけ見れば分かる。
フリートは、全力だ。
「くふふ・・・ふんっ!」
次の瞬間フリートの姿が消えた。俺に理解できたのはそれだけで、それからフリートの行動は目視出来ていない。
俺が次にフリートの姿を見た時には、フリートの体は爆散していた。