yahhoi's novel.

私ことやっほいの小説置場です。オリジナル小説に加えレギオンズの皆様との小説、堕華さんとの提携小説や東方二次創作等を書いていきます。

東方修行僧 66

「あっ・・・」

紫は嵐に飲み込まれた。

「妖怪の賢者も、情には抗えないか」

いざ嵐の渦中に入ってしまうと、そこからは地獄が待っていた。先程立っていた場所とは比べ物にならない程の風力は全身を切り刻み、そして生命力を吸い取る力の影響は格段に上がり紫の命を急速に奪い取る。

紫は一瞬にして苦しみ悶える力すら奪い取られた。ただただ、荒れ狂う風の波に漂っているだけだった。

「紫は堕ちた、か・・・。さあヒューマノイド、次はお前・・・」

レイルは紫から視線を外しヒューマへと目を向ける。

だが既にそこにヒューマの姿は無かった。

「ああ?何処行った?」

レイルは大して動揺しなかった。というのも、例えヒューマが此方の視界から外れようとそこから考えうる攻撃パターンは少ないからだ。

まず、ヒューマが『虚を衝いて』背後に来るか。光の速度をも凌駕するこの能力を使えば嵐を突っ切るなど容易だろう。しかし一撃で仕留められないと縺れ合いになって最悪嵐に放り投げられる。ヒューマがニャルラトテップの肉体を持つレイルに、そのような策をとるとは思えない。

すると可能性は、上空から襲ってくるか地面を掘って襲ってくるか。台風の目は風速ゼロ。嵐に巻き込まれる危険性は無く、近接戦闘をする必要も無い。ヒューマが選ぶのはこの二択の内どちらかだとレイルは考えた。

そして答えはすぐ見つかった。周辺には一切、地面が掘られた形跡は無かった。

「上か・・・!」

レイルは上を見た。

(さあ、どこからでも撃ってこい!全て弾き返す!)

レイルは攻撃に備えて身構えた。

 

「・・・何故だ」

しかし、一向に攻撃される気配が無い。

(まさか地面か・・・っ!)

とも思ったが、レイルが下を見ても誰もいない。

(ヒューマは何をしているんだ?まさか怖気付いて逃げたんじゃあるまいし)

ガサッ。

「ッ!」

暴風が吹き荒れる中で、レイルは確かにその音を聞いた。

その方向を向くと、ヒューマが現れた。

(茂みから出てきて・・・一体何を?)

だが、ヒューマはレイルに対し何をするでもなく、

 

一目散に逃げ始めた。

「・・・はっ!!?」

「流石に活路が無い、逃げる!」

ヒューマは勢い良く博麗神社の階段を降り、消えていった。

「いやまさかが当たっちまったよ!見損なったぞヒューマノイドッ!」

かんかんに怒ったレイルは、嵐を操りヒューマを追いかけた。

「バカな野郎だ!歴戦の戦士に値しない!」

レイルが階段に差し掛かった。そしてレイルは、発言の撤回を余儀なくされる。

ヒューマは、階段の一段目で匍匐していた。

「なっ!」

「これを待っていたッ!」

レイルが視認した時には既に、ヒューマは台風の目のど真ん中にいた。

「まさかお前ッ!」

「階段の高低差を利用すれば穴を掘らなくても嵐の下に入れるッ!そして丁度一段の高さに体を収めれば、風の影響を軽減出来るッ!」

ヒューマは両手を構え、力を込めた。

「この世界のやり方で裁くッ!」

‘‘乱射「マシンガンファイア」’’

ヒューマの手から次々と銃弾型の弾幕が形成され、機銃掃射のように次々撃ちだされた。

乱雑のようで正確に発射された数々の弾幕は、一発も漏れる事なくレイルに当たった。

「ぐっ、あぁぁぁぁぁああッッ!!!」

「本当はもっと無駄な弾使って美しくしたいけど・・・しょうがないよね」

ーーこれは本当の殺し合いだから。

「精密射撃『ワンショットワンキル』」

先程よりも遥かに大きい、特大サイズの銃弾型弾幕がヒューマの手元で形成される。

「君の苦しみも、この無益な戦いも、全部、終わりにしよう」

弾幕は急速に回転し、一閃を描いた。

その閃光に、レイルは貫かれた。

「ワン、キルだ」

「が・・・・・・っ、」

レイルは仰け反り、動かなくなった。

「疲れただろうレイル。永遠に眠れ」

 

 

 

 

 

「はは・・・・・・」

「っ!」

動かなくなった筈のレイルの体が二回、小刻みに揺れた。

「はっはっはっはっ!!!」

レイルはゆっくり、上体を起こした。その体に弾幕の傷は一切無かった。

「どうしたヒューマ?俺はまだ動けるぞ?」

「・・・タフな奴だ」

「伊達にニャルラトテップの体じゃないんだぜ」

ヒューマは一度気持ちを落ち着かせ、構え直した。

「流石だヒューマノイド。予想外の事態が起きてもすぐに冷静になり、また対処する」

「伊達に仙人の下で修行してないからね」

「ではそんな伊達男君に質問しよう。この生命エネルギーの塊である嵐は、この後どうなると思う?」

「・・・」

「答えはこうだ」

それまで渦巻くように流れていた風は一変。向きを変えてレイルの元へと収束していく。

レイルはそれらを口を開けて待機した。

「・・・成る程、君に食べられると」

レイルは息を吐き、思いっきりまた吸った。レイルの腹はたちまち膨らみ、どんどん風を体内に吸い込んでいった。

そして風は止んだ。

「ごちそうさま」

「お味は如何程かな?」

口に何か付着している訳では無いが、レイルは口元を拭った。

「大層上品なお味で」

「そうだろうな。何しろ周辺の命という命全てを奪ったんだからな」

そこでヒューマは何かを思い出したように後ろを振り返り、走った。

「何しに行くんだ?」

「紳士たるもの、女性は大事にしないとね」

暫く走るとヒューマは止まり、両手を前に突き出して待機した。

上から紫が落ちてくる。ヒューマはそのまま紫を抱きかかえた。

「上から落ちてくる系ヒロインになった感想は?」

「最高の気分ね。ボロボロじゃなければもっと良かったわ」

紫の言う通り、紫は衣服のあらゆる所が切れて肌蹴ていた。その様は非常に妖艶で、男性が見たら思わず見とれてしまうような・・・。

「ちょっと、そんなに物色しないでくださる?」

「バレた?」

「バレバレよ。ま、悪い気はしないけどね」

「もっと恥じらいながら言ってくれれば最高なんだが」

「真顔でセクハラはよしてよ?」

ヒューマはゆっくり、紫の腰の部分から地面に降ろした。

「気を付けなさい。今の彼は他の生物の生命力を吸い取ってより強力になっているわ。あれは確実に、私より強い」

「紫より強い奴を私が倒せるのか?」

「純粋な力では勝てないかもしれないけど、あなたには今まで培った戦場での知恵があるでしょう?こういった時にそれを活かすんじゃなくて?」

「無茶言うな。まあやってみるさ」

ヒューマは少し笑みを浮かべると、すぐに真剣な表情になってレイルを凝視した。

「紫の言う通りだ、今の俺は手強いぞ?」

「いいさ。何とかして倒して幻想郷(この世界)を救う」

ヒューマは全身を硬化し、構えをとった。