東方修行僧 56
「『砲哮‘‘超振動崩壊’’』」
レイルが発した大音量の咆哮は大きな振動を伴い、周りの物を一つ残らず粉砕していく。
それはヒューマノイドのロンズデーライトですら例外では無かった。
「ぬおっ!!?」
全身を硬化させていたヒューマノイドの体がボロボロ崩れ始める。
隙あり、とも言わんばかりにヒューマノイドに接近するレイル。一秒も経たない内にヒューマノイドの目前まで接近していた。
「ふんっ!」
「ぐっ!!」
レイルの拳はヒューマノイドの顔面に命中し、仰け反るヒューマノイド。
追撃を加えようとするレイル。
「させるかっ!」
ヒューマノイドはまたもレイルの背後に回った。体はいつのまに再生している。
それに気付いていない無防備なレイルを、ヒューマノイドは背後から殴り飛ばした。
「ぐぁッ!!」
「もう一発・・・」
とはならず、レイルは後方に瞬間移動して難を逃れた。
「流石アザトースの眷属、といった所か」
「お前も人間ながら中々やるじゃないか。俺の組織に入れば、それなりに優遇してやるぞ?」
「やれやれ、最近は勧誘ばかりだ。私はもう異動先が決まっているんだ」
「そうか、それは残念だな」
レイルが手を突き出すとそこからどす黒い光線が発射される。そのスピードはさしずめ光と同等といった所か。
・・・が、それを超すスピードでレイルが迫ってきた。肉眼では、姿を捉える事もままならない。
ドガガガガガッ!!!
二人が取っ組み合う。
機会が擦れ合う様な鈍い音と、
巻き上がる粉塵。
「オラァッ!」
「おっと!」
正面から拳を打ち合ったら負けるので、ヒューマノイドはレイルの拳を迎え撃つのではなく避ける事に専念した。
上半身を俊敏に動かし、レイルの拳を一つ一つ華麗に避ける。圧倒的な体幹が無いと出来ない業だ。
ならば、とレイルは足を狙った。一瞬下を見たそれは大きな‘‘隙’’だった。
「チャンス!」
「しまっ!」
例のごとくレイルは背後から殴打を受ける。
「くそっ、ちょこまかと」
「そんなにダメージになっていないか・・・こりゃ消耗戦だな」
「本当に、そうか?」
レイルは空を指した。
「後十分。十分でアザトースは現れる」
「っ!」
「その間にお前は俺を倒し、幻想郷の住人を避難させなきゃいけない。だがこの調子だと間に合わないだろうなぁ」
「成る程・・・悠長にしてはいられないか」
ヒューマノイドは覚悟を決めたように、全身を硬化させた。
「本当に容赦はしない」
「お前がその気なら、此方も奥の手を使おう」
ーー‘‘神光の加護’’!
レイル先程以上に強い光に包まれ、背後には菩薩のように後光が出現する。が、それが発する色は白や黄金等ではなく、真っ黒な深い闇だった。
「どこまでも光るんだね」
「ふん」
そこから始まったのは、無残な殲滅だった。
「・・・っ!?」
突如ヒューマノイドを背後から強い衝撃が襲った。
頭が、弾け飛び、ニット帽が地面に落ちる。
「くっ!」
すぐに再生するヒューマノイド。後ろを見るとそこにいたのはレイルだった。
「なっ・・・!」
次に見えたのは指だった。レイルの人差し指。
だが、それだけでロンズデーライトが貫かれた。
左胸部分に大穴が開く。
「うぐっ!?」
今度は両足がばっさり切断されていた。手で殴ったのか足払いをかけたのか、それすらも視認出来なかった。
激しい痛みがヒューマノイドを襲う。
終いには両腕を引き千切られた。本領を発揮したレイルには、ロンズデーライトなど無意味だった。
「があああッ!!?」
痛みに絶叫するヒューマノイド。
達磨のようになったヒューマノイドにレイルは蹴りを入れた。それだけで胴体部分は砕け散り、首だけになって地面を転がった。
「くっ!」
一転二転するとヒューマノイドの頭から体が生えた。新しい体なので外傷は癒えている。痛みの感覚だけが残り、ヒューマノイドの体力と精神力を削り取っていった。
服も腹の部分と肩から先、そして膝から先が無くなっていた。
(ロンズデーライトがまるで歯が立たない・・・!これは本当にアザトースと戦ってるようだ・・・)
「世界一硬い物質だか何だか知らないが、所詮その程度か」
このままでは負ける、そう直感した。
だが、その現状をどうにかする打開策ももう無かった。
(強すぎる・・・)
弁慶の立ち往生という諺があるが、ヒューマノイドにとってこの状況はまさにそれだった。自分は絶対に幻想郷を魔の手から守らなければならない。だがどう足掻いても目の前の相手には勝てない。だからといって諦める訳にもいかない。もうどうする事も出来なかった。
だが、陰で見ていた男には一計があった。
「こっちを向くんだ!ヒューマ!」
救いの手を差し伸べるように投げかけられた声。
ヒューマノイドは成すがままにそちらを向いた。