World travel episode 2 ~クトゥルフ神話編 part 17~
しかし、聞こえてくる筈の鈍器で殴ったような音はしなかった。
その代わり、
「グゥ・・・ガァ・・・」
「おい・・・優綺?」
「ガアァァァアアア!!」
優綺ちゃんが雄叫びをあげた。
その姿は、那奈ちゃんと殆ど変わらなかった。
「ひぃっ!!優綺!?」
「・・・岳大君、水谷君、麗香ちゃん、今すぐ山を降りて」
「っ!?しかし・・・」
「これはもう素人が関われる問題じゃない。これ以上は本当に君達の身が危険だ」
「そんなものとっくに覚悟は出来」
「・・・死ぬかもしれないよ?」
「っ!?」
「『怪物』状態になるだけでもめんどくさいのに、それが更に2匹もいるんだ。俺でもキツいかもしれない」
「し、しかし!!友を置いていける訳がっ!今目の前で苦しんでる友を置いてのこのこ帰れる筈がっ!!」
「うるっっせぇなぁ!!」
「!」
「2人は、絶対俺が連れて帰る。俺を信じろ」
「・・・くっ」
「漢太」
「・・・何だ、岳大」
「残念だけど、確かに僕達に出来ることは今はもうない」
「な、何を言って」
「そうよ。私達に出来ることなんてもう・・・悔しいけど、無いんだよっ!」
麗香の目には涙が浮かんでいる。
「お前ら・・・」
「水谷君」
「?」
「無茶してまで友達を助けようとする気持ちは、俺にも痛い程分かる。俺にもそういう友が沢山いるからな。でも、相手も同じ気持ちなんだよ。例えば君があの2人みたいなことになって、それでやっと戻った時に友達皆がもうこの世にいなかったら、どう思うよ?」
「っ!」
「君の勇気は確かに頼れるものだ。もしかしなくても、俺なんかよりも良い物を持ってる。でもだからこそただ突っ走るんじゃなくて、友達のことも今よりもっと考えてほしい」
「・・・」
「今ここで君達が死んじゃったら、優綺と那奈ちゃんに合わせる顔が無い。でも、強要したりはしない。君がそれでもここに残りたいのなら、俺も協力するよ」
「・・・くそが」
「・・・行くぞ。岳大、麗香」
「漢太!」
「水谷!」
「・・・いいんだね?」
「ああ。その代わり、優綺と那奈を・・・頼む」
水谷君たち3人は走ってさっき来た道を戻っていった。
「「ガァァァァアアアアアァァア」」
雄叫びがした方を向いてみると暴走した2人はお互いを仲間と認識したのか、もうどちらも襲うような事はしなかった。
「・・・つまりは、あんなもんが連携までとって俺に襲いかかってくるわけだ・・・メンドくせぇ」
こちらが身構えると、2人は容赦無く襲いかかってきた。
「ちょこっと、本気出させて貰おうかな」