東方修行僧 48
「本っっ当にすいませんっ!」
頭を下げる大妖精。
「ほらっ、チルノちゃんも!」
「え~、やだ」
ヴァルドが気が付いたとき、何故か自身の体が氷に包まれていた。それはもう凍死してもおかしくないんじゃないかという程に。
そしてそれは目の前で駄々をこねている青い妖精の仕業である事は流石に理解できた。
「チルノちゃん!すいませんこの子はちょっと常識が無くて・・・」
また頭を下げる大妖精。チルノの為に頭を下げるのはもう何回目だろうか。
「謝らなくても大丈夫ですよ。こんな子供に本気で怒るほど自分は短気じゃありませんから」
「子供だとお前!このあたいを子供扱いしたな!もっかい凍らせてやる!」
暴れだすチルノを全力で抑え付ける大妖精。
説得する事数十分。
「なんだ、大ちゃんに助けて貰ったのか。てっきり大ちゃんをナンパしてると思ったよ~」
「何度もそういったじゃないか・・・」
「チルノちゃんはいつもこうなんです」
「大変なんですね・・・」
がっくりと肩を落とす二人を余所にチルノはニカニカ笑っている。この状況じゃなければあどけない少女の純粋な笑顔に見えるだろう。この状況じゃなければ。
「それでヴァルドだっけ?何でお前この湖で倒れてたんだ」
「ああ、実は・・・・・・」
その時だった。西の方から豪快な爆発音と共に眩い光が三人を襲った。
「うわっ!何だこれ!」
「眩しい・・・!」
「これは・・・ボス!?」
ヴァルドはこの現象に見覚えがあった。それは戦争孤児として拾われてから何回も見た、レイルが戦っている時のものだ。そしてこの光と音が出るとそこには大抵死体が転がっている。
「ボスをあそこまでさせているなんて・・・いや、そいつももしかしたら・・・」
「あ!霊夢だ!」
「え?」
チルノが指す方向を見るとそこには赤と白の一風変わった巫女装束を着た少女が目に映った。
「あの服装、その名前、つまりあれが博麗の巫女か・・・」
ヴァルドは暫く戦況を見ていた。先程からレーザーのようなものが一箇所から出ているが、恐らくそこにレイルがいるのであろう。あの技もヴァルドには見覚えがあった。あのレーザーは一見通常攻撃の一種にも見えるが実際は桁違いの威力を誇り、人間は愚か宇宙生物ですら喰らったら肉が粉砕する程の威力だ。
だがそのレーザーは一向に当たる気配が無い。少女は圧倒的な動体視力でも持っているのか、レーザーのコースを完全に見切っている様子で悉く回避していく。
「凄い・・・!」
あそこまでレイルの技をあしらう者は今まで見た事が無かった。平和の楽園と称されながら、この地には見た事のない実力者が沢山居る。
「ボス、だからアンタはこの地を選んだのか・・・」
「おかしい・・・」
ヴァルドが霊夢の戦いっぷりに心酔している横では、大妖精が頭にクエスチョンマークを浮かべていた。
「え?おかしいって、何が?」
「ヒューマさんが同行している筈ですが、全く見当たりませんね・・・。後魔理沙さんも。アリスさんと早苗さんは見えるのに・・・」
ヴァルドは驚いて再度戦地の方を見た。確かにもう二人少女がいたが、ヒューマノイドの姿は何処にも見当たらなかった。
「一体どうしたんでしょうか・・・」
ヴァルドは直ぐに直感した。ヒューマノイドは死んだという事を。一度直に会ってその実力は彼自身も痛いほど分かっている。だがそんなヒューマノイドでもレイルには敵わなかった。
そしてレイルは人を殺すのを躊躇うような人物ではない。だがそれはレイルが人の命を粗末にするからという訳では無い事はヴァルドは知っていた。
「ボス・・・、あんた・・・」
ヴァルドは物言いたげな目でレイルがいるであろう方向を見た。
「そこまでしてあの男に賭けてるのか・・・」
その言葉が何を意味するのか。それは恐らくヴァルドとレイルにしか理解できないだろう。
「大妖精さんでしたっけ?貴方達はこの湖の近くで隠れていて下さい。じきに最悪の絶望が襲ってきます」
「最悪の・・・絶望?」
大妖精にその意味は分からなかった。
「そうです。最悪の絶望です。奴の姿を見てはいけません。見てしまえばたちまち発狂して自我を失うでしょう」
「は、はあ・・・」
「チルノさんと一緒に洞穴か何かに隠れて待機していて下さい」
「貴方は・・・どうするんです?」
大妖精が上目遣いでヴァルドに近寄った。小さい子だ。この子にあんな思いはさせたくない、かつて自分も経験した奴の恐怖を・・・。
「俺は最期を見届けに行きます」
それだけ告げた。大妖精が何か言っているようだったが、ヴァルドは気にせず百八十度方向転換をして走り出した。