北方貴族鎮圧補助、補給路寸断作戦 その6
「ッラア!!」
アイアスが跳躍した瞬間、周りの大地に亀裂が走る。アイアスはそのまま、瞬間移動にも匹敵するスピードで団員達に接近してきた。
これに対し団員達は、フリートに接近するかに思われた。だが、
「来い!」
団員達の一歩前に出て壁となったのはグロウだった。
「雑魚がァ!」
アイアスは微塵もその事を気にせず、一心に己が拳を叩き込んだ。グロウは防御の構えを取るが、パワーでは到底敵わない。
「ぐうっ!!」
グロウは拳を食らった瞬間に吹き飛び、壁にめり込んだ。
「次はどいつだァ!?」
「ふんっ!」
次にアランが襲い掛かる。しかしその背後はガラ空きだった。
「馬鹿がッ!」
すかさずアイアスが背後へと回る。
「貰った!」
「させますか!」
しかしここはフリートの予測範囲内。アランとアイアスの間に入って自ら肉壁となった。
だがそれは、あまりにも無謀な策だった。
「やっぱりな。来ると思ったぜ!」
「なっ!」
知能が良くないとはいえ流石のアイアスでも同じ手は喰らわない。アイアスは足元の大地を拳で砕き、瓦礫を舞わせた。周囲の足場が不安定になり、フリートはまともに立っていられなくなった。
「おらよっ!」
「くっ!」
アイアスの拳に対し真っ向から拳で対抗するが、パワーではアイアスが若干上か。フリートの拳が押し負け、そのまま地面を転がった。
「次はてめえだ女ァ!」
アイアスがアランに標的を向けると、アランは鉄のドームを生成し自身を守っていた。確かにアイアスに背後を取られる事は無いが、アイアスのパワーの前では無意味であった。
「そんなんで守れるわけねえだろビビリがあ!!」
アイアスの拳を前に鉄のドームは消し飛び、アランが無防備な姿でーー。
否、中にいたのはアランでは無かった。
「ん?」
「このドーム狭かったんだよね。助かったよ♪」
中から現れたのはアシッドだった。
「この僕特製の酸を喰らいな!」
アシッドが手を振ると、無数の酸の槍が発射されアイアスに襲いかかる。
「クソがっ!」
アイアスは身を翻してかわそうとするも、酸の槍の内一本がアイアスの左腕を抉り取った。
「ぐああっ!」
苦痛に顔が歪みながらも、更に怒り狂ったアイアスは右腕でフリートを潰しにかかる。
「クッソがああああ!!」
当たれば即死。誰から見てもそれは一目瞭然だった。
だがその時、ヴァルドがアシッドの前に出た。
「っ!」
「介渡直伝の体術だ。たんと堪能しろ」
ヴァルドは深く腰を下ろし、目を瞑った。
アイアスの拳がヴァルドへと襲い掛かる。するとヴァルドは軟体動物のように手を動かし始めた。
とてつもなく奇妙だったが、どこか優雅な動きだった。
「ドラアアァァァァア!!・・・あ?」
全力をその拳に込めたアイアスだったが、次の瞬間には地面に仰向けになっていた。
(まさか、この俺のパワーを受け流した・・・!?)
アイアスが急いで立ち上がろうとした頃にはもう遅い。ヴァルドが視線を上に促すと、アイアスの目の前でグロウが攻撃態勢に入っていた。
「気絶させられた分と、さっきの一撃の分。きっちりお返しするぜ」
何も成すことが出来ないままその拳を貰った瞬間に、アイアスの意識が途絶えた。
「終わったな」
ヴァルドがアイアスの意識を確認したが、まだ脈こそあるものの、どれだけ瞳孔に光を当てても反応は無かった。
ふとヴァルドは、無くなった右腕を見た。
「この腕無くなっちゃったけど大丈夫かな?」
「彼はガーゴイルです。治癒能力は高くありませんが、一週間程で治るでしょう」
「なら心配ないな」
「それにしても良い戦略でした。序盤は敢えて相手にペースを握らせ、終盤で一気に畳み掛ける。グロウさんを初めに盾にして力を溜めさせたのも大きいですね」
「俺達人間は妖怪程パワーも無いし、持久力も無いからな。特に俺達の仕事上、最小限の力で勝たなきゃならん」
「最小限の力、ですか」
「まだ敵は残ってる。それを殲滅したら今度は物資を奪って補給路を断つ。やることはまだいっぱいあるぞ」
「ええ、指揮官も残ってる可能性もありますしね」
「我を呼んだかね?」
「・・・え?」
白いローブをきた不気味な男が、奥の部屋から現れた。