yahhoi's novel.

私ことやっほいの小説置場です。オリジナル小説に加えレギオンズの皆様との小説、堕華さんとの提携小説や東方二次創作等を書いていきます。

北方貴族鎮圧補助、補給路寸断作戦 その3

その男は岩石のようにゴツゴツとした肉体をしていた。それが宙を舞い、鋼をぶち破る様はさながら大砲の砲弾と言えよう。

「うぐっ!」

一番男に近かったアシッドが、一瞬で気絶させられる。

「このっ・・・!」

次に男に近かったグロウが反撃に出るが、男はその巨体からは信じられないようなスピードで、いや、スピードが云々の次元ではない。その男はゼロ秒の間にグロウの背後に立っていた。

「ッ!?」

今度はグロウが地に伏す。その事をグロウ本人も、また周囲の誰もが気付かぬ間に。

「っ!グロウ!」

アランがそれに気付いたのは一秒弱。たった一秒弱であるが、敢えて男の速さを基準に物を言うならば、一秒弱もかかってしまった。

その一秒弱で男は、アランの背後で攻撃のモーションに入っていた。

「アランさん!」

だが今度は間一髪、フリートがアランの前に入っていた。フリートは悪魔のフルパワーを使ってアランの盾となった。

「ぐあっ!」

だがその盾は振り下ろされた拳に勝ることは叶わなかった。フリートの腕が明らかに歪な曲がり方をしてしまっていた。

しかし流石悪魔というべきか、顔色一つ変えずフリートは男と距離を取った。すかさずアランとヴァルドが背後をカバーする。

男はそれを確認すると、動きを止めた。

「大丈夫か?フリート」

「問題ありません。この程度ならすぐに治せます」

フリートの腕は奇妙に蠢き元の形に戻った。

「それよりも、また厄介なのが出てきましたね」

「まったくだ。あの巨体であんなに動き回られたら敵わん」

「彼はアイアス・ブラージ。種族はガーゴイルで北方でガーゴイルを束ねていた男です。彼は『座標を変更する』という、簡単に言えば瞬間移動出来る能力を持ってます。ガーゴイルという種族の常識を打ち破るパワーを持ち、その手で何人もの命を葬り去ってきました」

フリートは淡々と男について説明する。

「非道な男です。私も何度か対峙したことはありますが仲間が死ぬことを厭わず、自身の攻撃の巻き添えになってしまっても知らん顔です。勿論、私達を殺すことに躊躇はないでしょう」

先程アルメリオの説明をした時は嫌そうな顔をしていた。だがヴァルドは、今のフリートの目に殺意すらも見出していた。

「お?誰かと思ったらフリートじゃねえか」

アイアスと呼ばれた男も、どうやらフリートに気付いたようである。

「元気にしてたか?聞いた話によると人間にボコられて無様にその傘下に入ったとか?はっ!あの崇高なる悪魔さんがねえ!」

「御託はたくさんです。確かに負けはしましたが、私は今ここでこうしてヴァルドさん達と戦ってることを誇りに思ってます」

「おうおうすっかり染まってんなあ。ま、雑魚は雑魚でゴキブリみたいに群がってな」

アイアスは堂々と中指を立てた。

「・・・ほら、こういう奴なんですよ」

「これは確かにムカつくわね」

「ただ、下手に挑発に乗らないで下さいよ。こういう奴でも、力は本物です」

 「分かってるわよ」

アランは威嚇をしながらも、攻撃に転じられずにいる。アイアスから発せられる凄まじい威圧感に、動けずにいたのだ。

「どうします?ヴァルドさん」

「俺に判断を仰ぐのか」

「そりゃまあ、この部隊の指揮は貴方に一任されてますし」

「そうだな・・・」

ヴァルドは考える。今この状況でアイアスとまともに戦って勝てるのか?確かにアイアスの瞬間移動は、介渡の虚を衝く能力程に厄介である。が、介渡と違って隙は衝けない。ただ瞬間移動するだけだ。現にヴァルド達がお互いの背後をカバーし合っている今、アイアスは動けずにいる。フリートの戦力も考えるといけるかもしれない。

だが、アルメリオの存在も忘れてはならない。今は辛うじて意思疎通は出来ているが、戦闘になるとアランの壁も消滅するだろう。そうなると指揮系統が先程のように混乱し、アイアスと対峙するのは熾烈を極める。

つまり答えは、退却だ。戦術的撤退だ。

「みんな、この陣形を崩すな。このままアシッドとグロウを回収し、戦線を離脱する」

「尻尾を巻いて逃げるか。こりゃとんだ臆病者だぜ!」

「そんな安っぽい挑発に乗ると思ってるのか」

フリートを戦闘にじわじわと移動する。まずはアシッドの回収に成功した。

「大丈夫か?」

アシッドからの返答はない。気絶したままだ。

そのまままた移動し、グロウを回収する。グロウもまた、気絶したままだ。

(たった一撃でこんな・・・)

「さて、あとはアイアスをどうにかするだけね」

「逃すと思ってるのかあ?」

アイアスは狂気じみた笑顔を向ける。

「どうする・・・?」

一目見るだけでヴァルドとアランに有効打が無いのは明らかだ。となると、フリート以外太刀打ち出来るものはいない。

「やれるか?フリート」

「一瞬だけ動きを封じる事なら出来ます。二人は下がって」

「分かった」

二人は言われた通り後ろに下がった。途端に、アイアスが動く。

「ばーかーがー!!」

二人が後ろに下がった瞬間。その一瞬で、フリートの背後がガラ空きになった。二人がそれに気付いた時には、既にアイアスはフリートの背後に位置取る。

だが、

「馬鹿者はどちらでしょうか」

フリートは既に後ろを見ていた。彼は敢えて二人を後方に下げて背後に隙を見せることによって、アイアスがそこへ来るように誘導したのだ。

「なっ!」

怯むアイアスに、フリートの発勁が叩き込まれる。

「かはっ!」

悪魔の筋肉から発せられる拳底はアイアスの体に衝撃波を巡らし、痙攣を引き起こした。

「今のうちです!逃げましょう!」

フリートはすぐにヴァルドの元へと跳んできた。

「もって数秒です。私に捕まって!」

「分かった!」

二人はそれぞれアシッドとグロウを抱えながらフリートの肩口を掴む。フリートはそのまま猛スピードで走り去っていった。

 

数秒でフリート達は見えなくなってしまった。瞬間移動で見失ってしまった以上、瞬間移動で追いかける事も出来ない。

「くそったれが・・・次会ったらミンチ確定だな」

アイアスはようやく動くようになった体を起こした。

「ったく、イェルドに怒られるなこりゃ・・・」

「我を呼んだか?」

アイアスが振り向くと、白いローブに身を包んだ中年程の男が現れた。

「げっ、いたのかよ」

「奴らはどうした?」

「すまん、逃がしちまったぜ」

「そうか・・・まあ補給路は一時的に防衛出来た。それに免じて許してやろう」

「うっへへ。恩に着る」

「また襲ってくるだろうな。それまで英気を養っておけ」

「あいよ」

アイアスはそう言うと、森の奥へと消えていった。

「コホルスΣ・・・会う時を楽しみにしているぞ」

男は一人、不敵な笑みを浮かべた。