yahhoi's novel.

私ことやっほいの小説置場です。オリジナル小説に加えレギオンズの皆様との小説、堕華さんとの提携小説や東方二次創作等を書いていきます。

レギオンズ支部の仕事初め 後日談 ~混沌戦の真相~

介渡がヴァルド達の前に姿を現す、三十分前程。

「・・・」

介渡は既に混沌との戦闘を開始していた。周囲には瓦礫の山ができ、地面には亀裂や凸凹まで生まれていた。

介渡は無言で混沌に詰め寄る。その気迫は、その威圧は、これでもかと混沌の全身を貫いていた。

「フーッ!フシューッ!!」

混沌は姿勢を低くして唸る。混沌はこの時既に恐怖を感じていた。混沌も神格の一人、例え視覚や聴覚、嗅覚が無くても気配で相手を視る事が出来る。

そんな混沌の目には、介渡の姿は果てしも無く恐ろしいものであった。

「・・・もう終わりなのかい?」

突然、混沌の頭に声が響いた。それがどういう事なのか、どうやってやっているのかなどは混沌には理解出来なかったが、一つ理解できることがある。

介渡は気丈だ。混沌がどれだけ攻撃しても傷一つ無いように見える。見えるというより、実際にそうなのだ。混沌の有り余るパワーを持ってしても介渡にダメージを与える事は叶っていなかった。

それどころか、混沌の方が傷が増すばかりである。

「まあ・・・確かにこの力は厄介だね。私だから良かったが、あの子達だとな・・・・・・」

混沌には介渡が言うあの子が誰なのか分からなかったし、分かろうとも思わなければ、そんな余裕も無かった。

「さて、君の処遇はどうしようか」

普通なら、悔しがる筈だった。神と人間、その力の差は歴然の筈なのに、実際はそのパワーバランスは真逆だ。更にこの人間には、神である自分ですら知らない技術を持っている。

当然悔しがってもいい筈だが、混沌はその余りの力に悔しさ以上の諦念を抱いていた。

「帝国に受け渡して獄中生活でも送ってもらおうか?」

「グルル!グルルルル・・・・・・!」

勿論、混沌がこれを是とする事は無い。例え目の前の相手が、強大であってもだ。

だが、介渡の考えは混沌のものと相違があった。

「・・・うん、ナンセンスだ。私の柄に合わない」

混沌はその言葉を聞いた瞬間ゾッとした。混沌に都合の良い話であるのに、ゾッとしたのだ。

「何せ中国神話の四凶の一角だもんな。味方につけておいた方が良いに決まってる」

こいつは、この男はこの混沌でさえも駒として考えていないのか。例えまた自分が暴れ回っても、ひいては四凶の全てを集めても鎮圧出来る自信すらあるのか。

善人に媚びるのは混沌らしからぬ事。だがこの時初めて、混沌の行動理念が大幅な方向修正を見せた。

「ウウ・・・・・・」

混沌は頭を伏せた。

「ん?」

介渡は突然の事に驚いた様子だ。だが、まだ警戒を解いていない。混沌は仕方なく、最後の手段に出た。

「クー・・・」

丁度犬が甘えるような声を出したと思うと、混沌は仰向けになり、その柔らかな腹を見せた。つまり、服従の意を表した。

「・・・・・・」

介渡は少々驚いているようだ。まさか混沌がこのような行為に打って出るなんて、思いもよらなかった。

多少目を丸くした後、若干焦った声で言った。

「そこまでしなくてもいいのに・・・・・・」

介渡はこめかみを一掻きする。

「確かに私は帝国の依頼を受けてここに来た。でも君をどうしようという事は無い。寧ろ私は君のような巨大な力を持つ神々と是非とも仲良くしたいのだが・・・」

混沌はとうとう、何もかもが理解できなくなった。

「いがみ合うより、そっちの方が平和的だろ?牢獄に入れてまで恨まれたくはないんだが・・・」

混沌は、今まで出会った人間と目の前にいる男とを照らし合わせた。今までそんな事は一度も無かったが、もし今まで出会った人間がこのような状況になった時、迷わず殺すか、帝国の胸を借りて投獄するに違いない。

でもこの男はそれをしない。何故か。考え、考え、考えた挙句、混沌は答えを見出した。

余裕だ。この男には余裕がある。この混沌を前にして一糸乱れぬ余裕を持っている。

之ほどの余裕を持っているということは、それ相応の強さを持っている事になる。そしてその強さは、現在進行形で実証済みだった。

「とにかくこちらから出す条件は一つだ。今後コホルスΣ、ひいては帝国とは友好的な意志を見せること。それを守ってくれれば、悪人に媚びようが何しようが好きにしなさい」

「悪人に媚びようが好きにしなさい」というフレーズに、混沌は少し反応を見せた。真っ当な善人であれば悪を見過ごす事などしないだろう。それがこの男は、好きにしろといった。

もしかしたらこの男は、全てが善人ではないのか?

「約束するか?」

もしかしたら、付け入る隙があるのかもしれない。混沌の最後の反抗意識が動いた。

混沌は快く頷いた。

「よし。では、よろしく」

介渡は混沌の首裏に手を回し、犬にするように撫で回した。介渡はこれが効くと思っているのだろうが、勿論混沌は犬ではないので効かない。

混沌は一応じゃれる素振りを見せ、最後に介渡の手を舐めた後、森の奥へと走り去っていった。

 

介渡がこっそり首裏にGPSを付けたとも知らずに。

「・・・あのGPSには録画機能も搭載している。これで不穏な動きを見せようと情報は筒抜けどころか、その他の悪質な組織の情報まで手に入る」

介渡は不敵な笑みを浮かべた。やはりこの男、全てが善人という訳ではないようだ。

「少し利用させてもらうよ。君とは仲良くやりたいが、君の行動理念だと正攻法では駄目なんでね」

介渡はその場に座り込んだ。

「さて・・・・・・」

介渡は徐に、傷だらけになった体の治癒を始めた。