レギオンズ支部の仕事初め その2
「伏せろ、皆」
介渡に言われるがままに地面に突っ伏す。冷え切った土の温度が体に伝わり、俺は身震いをした。
敵兵は三人・・・。見えてない所まで考慮すると八人はいるか?
徐に介渡が双眼鏡を取り出した。
「ふむ・・・八人か」
当たった。
「基本皆哨戒兵だが、明らかに一人装備が違う・・・あれは通信兵の装備か?金銭面で苦しいのな。分かる分かる」
何故そこまで分かるのかと思ったが、どうやら介渡が使っていた双眼鏡はサーマルモードになっていたらしい。上部にくっきりと‘‘thermal’’の文字が書かれている。
「ふむふむ・・・・・・そうだ」
良い事思いついちゃった、という感じで介渡は双眼鏡を下ろした。
次に出た言葉は予想だにしない言葉だった。
「ちょっと、君達だけでやってみてよ」
「配置についたか?」
無線機に手を当てて話しかけると、耳小骨を直接震わす振動が伝わってくる。
準備万端。
作戦は至ってシンプルで、六人が同時に六人の敵兵を無力化。その後残った二人を片付ける。
ちなみに通信兵を優先して倒すようになっている。その役目は俺だ。
「今だ」
合図と共に一斉に飛び掛る・・・筈。実際俺からは他の奴らが見えていないから分からないが、恐らく行動を起こしている筈だ。
俺は通信兵を腕で腕で引き寄せ拳銃の持ち手で首元を叩いた。
「何っ!?」
成す術も無く通信兵は堕ちていく。これで増援は呼ばれなくなった。
「他はどうだ?」
無線機で確認を取ると、どうやら他も無事終わったみたいだ。
「よし、俺とアシッドで残りをやる。他の三人は待機していてくれ」
これで最後。
意識を失った兵士が不自然な格好で寝そべる。アシッドも済ませたようだ。
敵兵全滅。こちらの被害は一切無し。完璧だ。
周囲から続々と仲間が集まってくる。皆やり切った顔をしていた。
「完璧だったな」
グロウが得意気にそう言った。
「あれじゃ敵兵は三十分は寝たきりだねぇ。可哀相に」
アシッドはニヤニヤしている。俺も初めてにしては上手く出来た。笑ってもいいだろう。
しかし、そんな雰囲気はすぐにぶち壊された。
「やっちゃったね君達」
聞き覚えのある声だった。というより、それは介渡の声なのだが、何処か違っていた。
不気味なのだ。とても。
「やっちゃったって、どういう事?」
マクロですらも、青ざめた表情をしてる。
「やっちゃったって、見たまんまじゃん。敵兵をやっちゃったねって事」
「そ、それがどうしたっていうのよ」
次の瞬間。
敵陣の更に奥の方から一斉に足音がした。
「敵襲ー!」
「排除しろ!排除だ!」
血の気が引いていった。
「やってみてよって言葉に騙されたね。実際彼らの哨戒ルートは疎らでお世辞にも死角をカバーし合えてるとは言えなかった。いちいち気絶なんかさせなくても素通り出来たよ」
介渡はすまし顔でそういった。
いや、そういう事は早く言ってくれよ!
「ま、気絶させる時の手際は見事なもんだった。評価としては良好の部類に」
「早く隠れろよ!」
思わず、全員でツッコミを入れた。
「敵はこのエリアに居る筈だ」
「探せ!」
敵兵の警戒が厳しくなっていく。パッと見でも二十人は悠に超えているだろう。
「何が、いけなかったのかしら」
不意に、アランが呟いた。そしてグロウが続く。
「確かに、俺達の手法は完璧だった筈だ。敵に見つかってないし、通信兵も排除した」
「さて、そこだよ」
「は?」
「「排除した」。それが駄目だったんだよ。考えてもみろ、さっきまで繋がっていた無線が突然応答しなくなったら?」
「成る程、そういう事か」
結局、俺達は排除する事しか考えられない、『軍人』であった訳だ。
「ま、悲観する事無いさ。例えば、こうして敵兵が一つのエリアに集まってくれた。ここをどうにかして切り抜ければ後が楽だ。こんな感じで」
介渡は小石を手に取ると、草むらへ向かって思いっきり投げた。
「なんだ!」
カサッ、という音に兵士が反応する。反応した兵士に違う兵士が反応する。
「どうかしたのか?」
「いや、音がしてな・・・」
二人が確認しに行った。周辺の五人程度の兵士達もそれを見守る。
「次はこっちだな」
介渡はまた別方向に石を投げた。同じように七人程度がつられる。
もう一回。
「それで気を引いてるのか?」
「その通り」
「でもそれじゃ、数人が平常通り警戒してるんじゃ・・・」
「そうなってるかい?」
言われて見て見ると、そこには面白いようにこちらに背を向けた兵士達がいた。
何故?
「確かに、本当なら一人が確認して一人がそのバックアップ、他は哨戒を続けるのが基本だ。だがこの場合、明らかに人が多い。すると兵士達は「哨戒してる奴が大勢いるなら、自分も確認に助力しよう」と考える。それが連鎖してこの結果だ。兵士の配置は多過ぎても駄目なんだよ」
介渡は堂々と立ち上がり、堂々と敵兵の近くを歩いて奥へ進んでいった。俺達もそれを、安堵と畏敬の念を覚えながらついていった。