yahhoi's novel.

私ことやっほいの小説置場です。オリジナル小説に加えレギオンズの皆様との小説、堕華さんとの提携小説や東方二次創作等を書いていきます。

東方修行僧 46

世界が、揺れる。

 

地震だとか、地鳴りだとか、そんなレベルではない。

 

まるで世界が恐怖で震えているようだった。

 

レイルの足元に出来た魔法陣は細胞のように分裂し、拡散した。

地面に水玉模様のような斑点が描かれる。

「破壊と創造の狭間・・・‘‘混沌’’。その絶対的虚空空間における爆発的な吸引力にお前らは耐えられるかな?」

「皆、魔方陣から離れるんだ!」

五人は上空へと退避し、なるべく魔方陣との距離をとった。一度距離を取ってしまえば、回避は容易なのだろうと推測したのだ。

そして確かに回避出来た。魔方陣から放たれた無数の光の柱は天地を貫くように空へ上がったが、五人とも直撃することはなかった。

しかし、

「もう、遅い」

レイルが微笑を浮かべた瞬間、光の柱は竜巻のようなもの姿を変えた。

「うわっ!」

「何よ、これ!」

「虚空は全てを招き入れ、飲み込み、包括するあらゆるものの真の存在すべき場所。破壊され尽くしたもの達と一つになるがいい!そしてお前らは死ぬにも死ねぬ、かと言って生きる事も許されぬ存在になるのだ!」

突風を伴った竜巻は五人を飲み込む。

凄まじい衝撃波だ。

これが白痴盲目の神の、混沌を司る魔王の絶対的な力。その破壊力の前に生物は存在を許されない。

巻き込まれたものの命が、少しずつ、確実に削り取られていく。

「うわああああぁぁぁぁぁぁあっっ!!」

「く・・・あ・・・っ!」

「あああ・・・いや・・・!」

「う・・・くうっ!」

苦しみ悶える魔理沙霊夢、早苗、アリス。その中でヒューマノイドは必死に策を練っていた。

(この状況、どうしたらいいか・・・)

全身を硬化させている為、ヒューマノイドに対しては大きなダメージは無かった。だからといって解決を先送りにしていては、他の四人の命は無い。焦燥感がヒューマノイドを支配する。

「くくく・・・あっはっはっはっは!!!」

レイルの嘲り笑う声が聞こえた。

「理屈の前ではお前らなど塵に過ぎないといった事を、証明してやろう!」

四人の断末魔が尚も聞こえてくる。レイルはそれが聞こえる度にこれ以上ないぐらいの高笑いをし始める。まるで四人が苦しむ様を、楽しんでいるかのように。

「そろそろ竜巻の中核に入る頃だろう。台風の目は、無風空間。いわば虚空そのものといっていいだろう。お前らという存在の消滅もそろそろだ」

虚空に入ってしまえば、そこにこの世の条理は通用しない。あらゆるものが包括され、一つの存在となって永遠に空間を彷徨うのだ。生も死も許されぬ極めて不安定で不明瞭な状態。それはまさに宇宙誕生以前の空間、『無』。霊夢達は存在はすれどもう二度と仲間に会えぬまま気の遠くなるような年月を無の中で漂うのだ。

「ふう・・・」

ヒューマノイドはその事を理解している。勿論自分もこのままだと世界から存在を抹消されかねない事も。それを分かった上で、それでも頭の中は冷静だった。怒り、恐怖、焦り、不安、憂い、様々な感情が渦巻いている中で、それでも彼の聡明な頭脳は思考を乱す事はなかった。

(感情を制限するのではなく、『あらゆる感情を支配』する・・・。どんな感情を抱こうと冷静さを欠かすことのないようにしなければ。その為に華扇と修行を積んできたんだッ!!)

「よし・・・位置は把握したッ!これに賭けるッ!!」

ヒューマノイドは粉塵の中から僅かに見える視界と、音で他の四人の位置を確認した。そして瞼を閉じ、これまでにないくらい精神を集中させた。

「虚空に入る寸前、突風との境目に‘‘壁’’を作ってしまえば虚空への進入は憚られる!そしてロンズデーライトでなら・・・」

ヒューマノイドは目をカッと見開いた。その瞬間、膨大な量のロンズデーライトが自身と他四人を巻き込む竜巻とその目の間に壁を作った。

「圧倒的な破壊力に耐えられる!」

ロンズデーライトが竜巻と虚空を切り離す。五人の体は虚空に入る前にロンズデーライトの壁に打ち付けられた。

「くっ・・・!」

激しい痛みがヒューマノイドを襲う。衝撃波すら生み出す竜巻の突風が、ヒューマノイドのロンズデーライトを徐々に削っているのだ。ロンズデーライトでさえ耐えられなかった圧力は耐えられなかった分だけダメージとして襲い掛かる。硬化だけならまだしも、目を囲むように作り出した巨大なロンズデーライトの壁だと、更にそれが五個ともなると負担も増してくる

それだけではない。五人は目に入らないかわりに長い時間突風に晒される。つまり突風によるダメージを受け続ける事になってしまうのだ。早く脱出しないと出血多量で死に至るだろう。

すると今度は、硬化しているヒューマノイドを除く四人が、球状のロンズデーライトに覆われた。突風から霊夢達を守る為にヒューマノイドが作ったのだ。

「ぐ・・・がぁッ!!!」

これにより更にヒューマノイドにダメージが襲い掛かる。それでもヒューマノイドは削り取られた部分を補い、霊夢達に被害が及ばないようにしていた。

「脱出するぞ・・・、っ!!」

 

念を送った。

 

四人を守るロンズデーライトの球は竜巻から抜け出し、

 

ヒューマノイドも命辛々脱出した。

 

「はぁっ・・・はぁっ・・・」

脱出に成功した五人。

しかし体は既に疲労困憊していた。

立っているのも、ままならない。

「大丈夫か、四人とも・・・」

「大丈夫といったら嘘になるわね・・・」

「死ぬかと思ったぜ、本気でな」

「動けるか?」

「はい、なんとか・・・」

「私は無理そう・・・魔理沙、肩貸してくれない?」

「冗談じゃない、と言いたいところだが今は強力しないとな」

「そうか・・・」

「くっ、傷が・・・そういえばレイルは?」

「そういえば見当たりませんね・・・」

その時だった。

 

恐らく天狗を凌駕しているであろうスピードで、

 

レイルが迫ってきた。

 

向かう先には、霊夢

 

本人は全く反応していない。いや、速過ぎて気付けない。

 

耳を塞ぎたくなるような不快な音。

 

鮮血が、霊夢の体中に飛び散った。

 

「あ、ああ・・・」

「れ、霊夢・・・っ」

霊夢がワナワナと震える。傍で見ていた三人も、顔を真っ青にして怯えていた。

 

そう、三人。

 

「ぐふっ・・・すまないね、私はもう動けそうにないんだ」

ヒューマノイド。自分達が疲労している所をレイルが襲い掛かる事を予測していた彼は、霊夢とレイルの間に割って入っていた。

そして、霊夢を庇ったのだ。

 

無情にも、左胸にレイルの手が貫通していた。

 

「・・・ふん」

 

「がはぁっ!!!」

レイルが手を引っ込めると同時にヒューマノイドは力なくその場に倒れた。

胸の辺りから流れる血液は、ヒューマノイドを血溜まりで覆った。

「ヒューマっ!!っっ!!!」