東方修行僧 41
時間は少し遡りーー。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「中々にしぶときものよ。だがいつまでもつかな?」
「くっ!」
アジは態勢と立て直す。一体何回こいつを殺したのだろうか?二桁、いや三桁はいったかもしれない。しかしマインドは尚もピンピンしている。
対して自分にコンティニュー機能はついていない。アジの体は、段々と限界が近付いてきた。
「ふふふ・・・この戦い、面白いぞ・・・!」
マインドが大地を蹴る。標的はリーザだった。
「ちっ・・・いつまでも寝てるだけの俺だと思うな!」
リーザは手に力を込め、雷撃を放つ。
それは一直線にマインドに向かい、マインドの体を粉微塵にした。
しかし、直ぐにマインドは体を収束させた。
そして完全に再生した時、既にマインドはリーザの目前に迫っていた。
「させるか!」
アジがマインドの横に出る。
そのまま拳を奮い・・・
「隙だらけだぞ悪竜ッ!!」
マインドはクルッとアジに向かい、
そのまま一撃を放った。
かなり重みのある一撃。
アジは彼方へ吹き飛んだ。
「次は汝だ、戦凶よ」
「ぐ・・・やめ」
ガシッ。
マインドはリーザの頭を掴むや否や、思いっきり力を込めた。
「ッ、アアァァァァァァアッッ!!!」
「くそ、不覚・・・」
アジがゆっくり起き上がる。
「まさかリーザを囮に我の隙をつこうとは・・・」
かなり吹っ飛ばされたのだろう。辺りには小動物以外の何の気配もなかった。
「リーザは間に合わないか・・・すまない、ヒューマ」
兎も角、これでアジは不利な立場に置かれた。
これまでマインドの相手だけでも手一杯だったのだ。それなのに今度はリーザが敵の手に落ちたときた。封印によってかなり力が減衰している今となっては、敗北は必然だろう。
(不死という点だけ何とかすれば・・・)
ワロドンを倒すには体を破壊した後、どこかの部位を消滅させなければならない。逆にどんなに小さくてもそれを消してしまえばワロドンは簡単に絶命する。
通常はその肉片を食し、胃液によって消化する事によってワロドンを倒すのだがその肉はあまりにも不味く、通常は吐き出してしまうのが殆どだ。
ひとまずアジはその方法を考えた。燃やして見るのはどうか?それでは肉片が炭素の塊になる前に再生が間に合ってしまう。ならば魔法で・・・それでもマインドの再生力なら塵になってもくっ付けるだろう。ならば他の方法はーー。
「・・・にしても盛り上がっているな向こうは」
すぐ傍で魔理沙とアシッドの戦いらしき音がなっている。魔理沙の弾幕やら、アシッドの酸やらが飛び交っている。
そしてその流れ弾がアジのいる地点に襲い掛かってきている。大した速度も無いので簡単に避けられるが、着弾点は弾幕だったら抉られ、酸だったら音をたてて溶けていった。
ふと、アジは上を見上げた。
目に映ったのは、電流を纏った馬鹿でかい黒雲。
アジは本能的にその場を飛び退いた。
ドッゴオオォォォォォォォオンッ!!
アジの予測通り、先程までアジがいたところに未曾有の雷が落ちた。
「はぁっ・・・今の雷はリーザか?」
「仲間を守れなくて残念だったな」
アジが声のする方向に振り向く。そこにいたのは悲壮の眼差しでこちらを見るマインドと、全身に電流を纏い、今まさに力を奮ったばかりと右手を天に高々と掲げたリーザだった。
「リーザ、やはりっ!」
「あぁ、体の自由がきかねえ・・気味が悪い」
横でマインドが手をピッと横に振ると、リーザは跪いた格好になった。酷く息切れしている。
「すまない・・・リーザ」
アジはまるで般若を被ったような恐ろしい眼差しでマインドを睨んだ。
「ここまで我が友に手を出すとは・・・絶対に許さん!!」
そう言うも早く、アジは直ぐにマインドの腹を殴っていた。
「っぐう!?」
マインドの痛覚が二秒程遅れて反応する。マインドは思わず顔を顰めた。
怒り狂うアジはそれでも手を止めない。何度も何度も拳を叩き込んだ。周りからはその拳の軌道は全く見えていないだろう。
何度か拳を当てる内にマインドの体が裂けていく。その肉片一つ一つにまでアジの拳は及んだ。
「・・・悪竜もその程度か」
例のごとくマインドは体を再生した。
「っ!!!」
すかさずアジは拳を放つ。しかしアジは怒りに身を任せていたため気付けなかった。自らの足元に電撃が走っていたことを。
(再生しようが構わない!我の恨み、友の恨みをこの拳に!)
「アジ、足元だ!」
電撃を走らせた張本人、リーザが咄嗟に叫ぶ。
「なっ!!!?」
アジの足元から上空にかけて、火柱ならぬ雷柱がたつ。
柱が、アジの体を貫く。
鼓膜を直接殴るような轟音が幻想郷に鳴り響いた。
「・・・」
マインドは静かにアジを見下した。
「・・・咄嗟に魔力の膜を張るとは、流石だな」
リーザが技が発動する直前にアジに叫んだ為、すんでの所でアジは防御結界を作る事が出来た。
しかし完全には間に合わなかったのかはたまた雷撃の威力が大きかったのか、アジ自身相当なダメージを負ってしまった。
「か・・・ぁ・・・」
「これは少しでも触れただけで我が能力の虜に出来るな」
マインドは一歩一歩アジに近付いた。
「やめろマインド!もうお前の勝ちだ!これ以上無駄に誰かの心で弄ぶなっ!」
背後にいたリーザが叫んだ。
「やめろ・・・その程度の言葉では我は止められぬ」
マインドがアジに手をかざす。その手がアジに触れーー
・・・る前にマインドは手を止めた。
「しかし汝がこの者にとどめを刺すというならば話は別だ」
マインドがかざした手を下げてリーザの方を見ると、リーザは強制的に体が動きマインドの横まで移動した。
「どれリーザよ。仲間なのだからこの者の気持ちを汲んでやれ。この悪竜が生きたいというならば我に処理を任すもよし。生きて仲間に迷惑えをかけるのが嫌というならば手にかけるもよし」
「くっ・・・」
「さあやれ」
リーザの体がアジの目前まで迫る。能力を弱めているのか、リーザはある程度意志がきいていた。
リーザはスッと手を上げた。
アジは全く動かなかった。それほどのダメージを受けたのか、自分の雷撃程度アジの実力なら防御することも造作ないだろうが・・・。
(どうすればいい・・・教えてくれアジッ!)
リーザは目で訴えかけた。出来ればこんなところで仲間を殺したくない。だが本人に覚悟が出来ているなら・・・。
「ま、まだ・・・殺すな・・・」
「え?・・・」
そこでようやくアジは反応した。
「生かして、くれ・・・」
(アジ・・・)
リーザはそっと手を下ろした。
「・・・そうか、それがその者が望む処遇なのだな。自らの命を優先させると」
項垂れているアジにマインドが近付いた。
「やはり汝は悪だ。最終的には自分が良ければそれでいい、という判断だろ?」
マインドが罵倒してもアジは一ミリも動かない。
痺れを切らしたマインドは、とうとうアジの首根っこを掴んだ。
「安心しろ、汝の望みどおりにしてやる。だがその後の命は無い」
マインドの手首に段々と筋が入る。
「仲間を裏切った汝は、皆に恨まれながら死に逝くだろう。目先の生を選んだ汝が悪いのだ。往生際悪く小汚い生に執着したおかげで汝はあの世でも孤独を味わっていくだろう。せっかく分かり合える友が出来たのにな。だがそれも宿命、今まで悪行の限りを尽くしてきた汝の最後で最大の悪だっ!!」
マインドはますます手に力を込めた。そのまま能力を行使しようとした。
その時だった。
突如として三人の周囲に、先程と同じように魔理沙の弾幕や、アシッドの酸が飛んでくる。
マインドがそれらを目で追った、一瞬の隙。
その隙のせいでマインドは気付けなかった。
アジの目に、明らかな活力が宿っていた事を。
「すー・・・っ!!」
アジは一瞬で拘束を解いた。それによりマインドはバランスを崩し、胴体が無防備になる。
「っぁぁぁぁぁああっ!!」
アジは持てる力の限りを使い、拳を握った。
余りの気に、大地が揺れ動く。
アジはその拳をマインドに放った。
「ぐあッッ!!?」
マインドの体が、四方八方に飛び散る。
(アジ!?まだ戦う体力が残っていたか!しかし・・・)
「最後の足掻きか!?気に入った!やはり汝は今ここで倒すッ!!」
アジの抵抗も虚しく、マインドはすぐ再生しようとする。
(やはり・・・どれだけ悪足掻きしてもあれを攻略しないといけない!!今のアジの全力でも、後一歩届かなかったか・・・っ!!!)
そう思いリーザはアジを見た。そこでリーザは、アジが如何に冷静沈着な人物であるかを思い知る事になる。
アジはマインドの頭を掴んでいた。まだ再生していない。
そして足元には先程魔理沙の弾幕と一緒に飛んできた、アシッドの酸があった。
「まさかっ!!?」
「終わりだな、マインド」
アジはそのままマインドの顔を酸に押し付けた。
「ッッアアアアアアアァァァアアアアァァァアッッッ!!!!」
マインドの顔が苦痛に歪む。
「そうか!アシッドの酸を利用してマインドの体を溶かす、体を失くしたワロドンは再生出来ない!」
「消化で思い出したんだ。取り込んだ食物は胃液によって溶かされる、つまりワロドンは溶かす事によって対処出来るとな」
「ぐ・・・く、そ・・・っ」
マインドは少し悶えた後、動かなくなってしまった。