北方貴族鎮圧補助、補給路寸断作戦 その4
フリートは走った。小脇にアランとヴァルドを抱え。更にその二人はそれぞれグロウとアシッドを抱え。
走って、走って。まさしく死物狂いに。
そうして数分程移動した時。
「・・・よし、この辺りでいいでしょう」
フリートは立ち止まり、全員を下ろした。周囲に人の気配はない。
「アランは二人の看護。俺とフリートは周囲の警戒だ」
ヴァルドとフリートは周囲の哨戒の為にその場を離れた。
「さて・・・グロウ!アシッド!さっさと起きなさい」
「ん・・・」
「いたた・・・」
アランが二人の体を揺すると、二人は重たそうに体を起こした。どうやらアイアスにやられたダメージが、まだ残っているようである。
「敵は?もういないのか?」
「ええ。フリートのお陰で何とか逃げられたわ」
「そうか・・・」
グロウは固く拳を握り締めた。
「悔しいの?」
「当たり前だ。後ろでアシッドが倒れたと思ったら、本当に一瞬で意識が途絶えた」
「僕もそうだった。何が起きたか分からなかった・・・」
そう言ってアシッドは唇を噛んだ。
「フリートの時もそうだったが、彼らと初めて対峙した時に、文字通り「化け物」と思った。並の人間が決して触れてはいけない領域というものを肌で感じた・・・」
アランから二人の顔色は窺えなかったが、その声色、雰囲気から二人が決して良い心持ちをしているとは思えなかった。屈辱、恐怖、葛藤、負のイメージが、彼らを取り巻いていた。
アランもまた、かつてそのイメージに支配された事があった。
「それで?次はどうするのよ」
その気持ちを理解しても、彼女は同情は向けない。それが解決策にならないということを、そして二人がそんなものを必要としていないことを知っているからだ。
「決まってる。勝つしか無い」
二人は腰を上げた。
ヴァルド、フリートの二人が哨戒を終えると同時に作戦会議が始まった。内容は今後の動き方の確認と、危険要素への対策だ。
周囲に敵影は無かった。
「第一の作戦は失敗だ」
ヴァルドから告げられる任務失敗の報告。しかし団員達の中に、顔を落とすものはいなかった。
「ってことで次の作戦なー」
「軽いな」
「俺達が襲った補給路の先に中継地点がある。ここでトラックは一度停止するだろう。そして奴ら・・・アイアスやアルメリオもここにいる筈だ。彼らの撃破無しに、補給路の寸断は有り得ない」
ミルから出る光の粒子で出来た画面が、二人の男をピックアップする。
「アイアス・ブラージ。能力は瞬間移動。能力からなる俊敏さと、並外れたパワーを持ってて、みんなの知ってる通り非常に厄介だ。だが・・・」
ヴァルドがミルを操作すると、先程のアイアスとの戦いが流れた。
「録画していたのですね。なんと抜け目のない」
「俺とアランとフリートがそれぞれ背後を守った時、奴は瞬間移動してこなかった。背後を守り合って前方と上方を警戒していれば一撃で全滅するのは免れるだろう」
「それと私の策に簡単に引っかかるような奴ですからね。知能はそんなに高くありません」
「一先ずアイアスの対策についてはこんな感じだ。アルメリオについてだが・・・実はさっき録画したものを確認しようとミルを操作したらいいものを見つけた」
ヴァルドはミルの画面を見せた。
「・・・なるほど、これなら」
「言語を操られても怖くないわね」
「中継地での任務を失敗したらもう次はない。作戦は正面突破、以上!みんな、覚悟を決めるぞ!」
「おうよ」
「任せてよー!」