yahhoi's novel.

私ことやっほいの小説置場です。オリジナル小説に加えレギオンズの皆様との小説、堕華さんとの提携小説や東方二次創作等を書いていきます。

ヴァルドの決意

「・・・といったところだ。大体分かったかな?」

介渡は手元に広げた資料をまとめ、目配せで確認を取った。

「そう言われても、これだけの情報を一気にだと・・・頭が追いつかないわよ」

アランが苦い表情を浮かべる。

「アランは全く管理職に向いてないからな」

「五月蝿いわね!こんなの出来なくても別に困らないじゃない!」

「勿論だ。お前は俺が不自由させない」

「ーーッ!!あんた何言ってんの馬鹿ッ!!」

顔を真っ赤にするアランに、平然とした顔でそれを受け流すグロウ。何故だか知らないが、最近グロウはこういう事をよく平気で言うようになった。お陰でアランが何度も赤面してるように見える。

「昼間っからお熱いねえ」

介渡は存外、イチャつく二人を見ても平静を保っている。普段は「爆ぜろ」だとか「消滅しろ」とか言うのに、やはり部下の門出となると祝いたいものなのだろうか。

「でも程々にしなよ?年齢的には二人は結婚出来るけども、まだまだ若いんだから。これから将来の事とか話さなくちゃならんだろうし」

「大丈夫。俺がアランを幸せにする」

「グロウッ!」

「ははっ、いい旦那だな。まあ衣食住はこちらが工面するし、二人に子どもが出来たら託児・教育施設の増設の申請をアルカディアに出すことまで考えてる。あとはそうだな、初夜とk」

「介渡ッ!」

その卑猥な単語が発せられるや否や、アランが神速の勢いで介渡の腹を殴った。アランはウブなのである。

「初夜とか、そんな・・・・・・うぅ・・・」

そしてウブであるが故に、ソレを想像してまた赤面してしまうのであった。

「・・・まあ、気ままに考えていけばいいさ。それより、ヴァルド」

「ん?ああ、そっか」

そういえば粗方説明を終えたら二人で話すんだったな。

俺は他の奴らに退席を促した。

 

 

「さて、話というのはね・・・・・・」

介渡がそれっぽく窓の外を眺めているが、ぶっちゃけそんな事をしても笑いの種にしかならない。しかし介渡改まって話そうとしているということは、それなりに重要な話なんだろう。

「・・・実はね、君に縁談のような話が上がっているんだ」

「縁談・・・縁談?」

俺はそれを聞いて耳を疑った。まさか、俺に色恋沙汰の話を持ちかけるなんて。

「それは政略的な意味合いか?」

「そうじゃないな。向こうがどうも君の事を気に入ってしまったらしい。所謂一目惚れだ」

「一目惚れ・・・」

自分のような奴に一目惚れをするなんて、物好きな奴もいるもんだ。

「まあ向こうの一存で決められても困る。相手はどんな奴なんだ?」

「あー・・・まあ言っちゃえばかなりの阿呆だな。しかも自分勝手で、常識が欠損している」

「なるほど」

「んで、国のお偉いさんだ」

「・・・やはり政略的な意味じゃないか?」

「いや、そうじゃない」

煮えきらない。何か引っかかっている気がする。

「・・・何か隠してるな?」

「いやこればかりは何も隠してなどいないよ。何か不満か」

「まあ不満だ。アンタがヤケに胡散臭いのもあるし、しかもそんなだらしがない奴と所帯を持つのはまっぴらごめんだ」

「確かに所帯は持ちたくないな・・・」

自分で所帯を持ちたくないと思う相手を部下に薦めるなよ・・・。

「・・・ん?所帯?」

「違うのか?」

「違いすぎるよ。私は養子縁組の話をしてるんだ」

・・・。

言い得ぬ恥じらいが全身を襲う。今までの一連の会話を思い返すと、まるで俺が結婚相手に飢えているように捉えられかねない。

うわ、死にてえ・・・。

「うわ、死にてえ・・・」

「心の声が漏れとるぞい」

恐る恐る介渡を見たが、特に気にしてないようだ。

助かった。

「・・・で、何の話だっけ?」

自分の気持ちを切り替える意味でも、話の話題を切り替えた。

「ああ、養子縁組ね」

「相手は誰なんだ?」

「リヴェンだよ。リヴェン・キングアトラス」

リヴェン?あのリヴェンさんが?

「・・・どうして、俺なんか?」

「幻想郷での一件から、君に目をつけていたそうだ」

これまた突拍子の無い話だ。自分の実力なんて容姿程にも自信がない。ましてや、なんだって帝国の主宰神様が俺みたいな人間を?

「疑問に思う気持ちも分かるが、君が思っている以上に君の『全てを器用に扱う』能力は凄まじいって事だよ」

「俺はそうは思わないけどな」

「・・・ホント、君は謙虚すぎるのが玉に瑕だね」

介渡があからさまにやれやれといった仕草をする。

「もしそうだとしてもだ。俺なんかに眷属が務まるというのか?しかも、国家の主祭神の眷属に?」

「君だからこそだ。君の能力上リヴェンの体ですら器用に扱えるだろう。それに君は忠誠心や、義理人情に厚い。私がリヴェンだったらこのような逸材見逃せないな」

「そうか・・・」

リヴェンさんも、介渡も、こんなに高く俺を評価してくれてる。俺の実力を認めてくれる。それは確かに安心できる事実で、俺がここにいていい理由としてぴったりだ。

しかしだ。俺には、逸材、高評価、それが俺にとって重圧であり、同時に情けなさも芽生えさせていた。というのも、先の戦いで、俺は何も出来ていなかった。更に言えば、幻想郷の件も大した事はしていない。

そう、力不足なのだ。

「嬉しいけど、辞退させてくれ」

俺は介渡に強い眼差しを送った。勿論、意識の中ではない。無意識のうちにそれは、決意の表れとして出ていた。

・・・が、介渡もそれ以上に強い眼差しを俺に送っていた。

「っ、介渡・・・?」

「さっきも言ったが、君は謙虚だな」

介渡らしくもないが、聞き慣れたこの声色は、介渡が真剣な時のものだ。

俺は少し、心構えた。

「だがその謙虚さ故に自信喪失になる事があるな」

介渡はゆっくりとこちらに歩み寄った。

そうして、言い放ったのだ。

「次の任務は、お前に一任する」

それを聞いた瞬間、青ざめたのが自分でも分かった。

「アンタ、何を言って」

「私は暫くの間、レギオンズΣの方へ戻ろうと思う。最近顔を出せていないからなあ。その期間の間に君達には、今度北方の貴族達の反乱を鎮圧する為に帝国軍が派遣されるんだが、それの援助をして欲しい」

「ちょっと待・・・」

「具体的には反乱軍の補給路を断ってほしい。アルカディア曰く北から西に補給路が展開されているのだが、ここの分断に成功すれば進軍をかなり遅らせる事が出来るとの事だ。ただ防衛にはどんな奴が当たっているか分からないから注意して・・・」

「ちょっと待ってくれ!」

思わず席から立ち上がった。

「俺達は確かに人間の中ではそれなりに腕が立つかもしれない。でも妖しに対しては五分五分の戦いしか出来ないし、フリートにはマクロ以外手も足も出なかった。そんな俺らに任せたら全滅だってありうる」

「・・・」

俺は机を勢いよく叩いた。机上のコップがはねるが、介渡の表情は皺一つ動かない。

「俺は反対だ!俺はともかくもし他の奴等が死んだら!?特にグロウとアランは、やっと結ばれたんだぞ!!その状態で死んだら・・・」

「ヴァルド!」

「ッ、」

介渡の声が、部屋中に木霊する。それらの音は一通り辺りを暴れまわった後に、静寂を連れてきた。

介渡の顔は極めて真剣だった。

「君は前回の事を引きずりすぎだ。誰にだって失敗はある。勿論私だって・・・この救世稼業を始めて間もない頃はかなりの命を犠牲にしたし、幻想郷に行ったのだって、元々は私が命を救えなかったからだ」

それを聞いて俺は少し驚いた。介渡にも、そんな過去があったなんて。

「ミスを顧みるのは勿論大事だ。でも縛られちゃいけない。前を向かなくちゃいけない。私はそれを恩師に教わった。この任務は君達にとって試練となるだろう。でも恐れることはない。今はフリートだっているし、最悪マクロを出せば何とかなる。アルカディアが言っていたが、フリートは北方で名を馳せていたそうだ」

「でもな・・・」

「君は強くなりたいんだろ?」

「・・・」

それを言われると、何も言い返せなくなる。レイルの前であれだけの啖呵を切ってきたんだ。俺があいつらを守らなければならない。そしてそれだけの強さを手に入れるのに、妥協していく訳にはいかない。

でも、

「介渡。アンタは一個勘違いしている」

「ん?」

「俺は別にリヴェンさんの眷属になるということに重荷を感じてる訳じゃない。ただ、俺はまだ眷属になって強くなるという「甘え」をしてはいけないと思うんだ。俺はもう少し、人間の体のまま頑張ってみたい」

「!・・・そうか」

介渡は少し驚いた顔をして、コップの中の水を少し口に含んだ。

「成る程。そういう事なら私からリヴェンに話を通しておこう」

「助かる」

俺は傍らに差し出された水を飲んだ。

「でもいずれはその話に乗らせてもらうよ。グロウ達と死を共に出来ないのは少々辛いが、俺もアンタみたいに長く生きて永く民を助けてみたい」

「それもいいだろう。まあよくグロウ達と話をしておきなさい」

「分かった。もういいか?」

「ああ」

俺はコップの水を全て飲み干し、支部長室のドアを出た。