レギオンズ支部の仕事初め その18
「いやー皆凄い頑張った。先生感動で涙が出ちゃうわ・・・・・・!」
あからさまな様子で目を擦り始める介渡。
「いや、え?いつからいたんだ?」
「いつって・・・そういやいつだったっけかねぇ?」
介渡はおどけていた。そんな態度に、アランが痺れを切らした。
「あんたねえ・・・ッ!」
アランは物凄い剣幕で介渡に詰め寄り、胸倉を掴み始めた。息は乱れ、両腕は震えている。
「私達がどれ程死に物狂いで戦った事か・・・っ!それをあんたはのこのことっっ!!」
アランは拳を振りかぶった。
「やめろアラン!」
急いでグロウが仲裁に入る。疲弊し切ったアランを止めるのは容易な事で、アランは若干抵抗するもすぐに疲れ果て、動かなくなった。
徐に、アシッドが前へ出た。
「アランの言う事も最もだよ。君は今まで何をしていたんだい?」
「まあ少し野暮用をさ。そんな事より・・・」
介渡は返事を曖昧にして、話を変えた。何か隠しているのだろうか?
最も、介渡が何かを隠すのは今に始まった事じゃないが。
「君が私の部下を痛めつけてくれたようだが・・・・・・」
介渡はフリートの元へと歩み寄り、笑顔で見つめた。
笑顔と言っても、そこに気さくさは無かれば、侮蔑的なものも無い。掴み所の無い、不気味な笑みだ。
「悪魔と聞いたけど、中々のやられようじゃないか。さてはマクロにやられたな?」
不敵な笑みを浮かべながら介渡はマクロを見た。マクロはそこら辺を徘徊する羽虫と戯れていた。
「介渡、そいつの名前はフリートだ。実は・・・」
俺は介渡にフリートという名前を教えるとともに、フリートの過去を話した。
全てを聞いた介渡は、少し真剣な顔つきに、ならなかった。変わらず不敵な笑みを浮かべつつしゃがみこみ、フリートの顔を覗き込んだ。
何か、不安だ。
「だから介渡、そいつをコホルスΣに引き入れてみないか?きっと役に立ってくれるさ」
介渡は見向きもしない。
「俺からも頼む!」
最後の一押し。介渡はこちらをちらと見た後、再びフリートの顔を見る。こちらからは後頭部しか見えないので表情が窺えない。
まさか、駄目と言うのだろうか。
「フリート君、と言ったね」
介渡は立ち上がりざまに振り返り、一歩、二歩をフリートから遠のく。
「よろしく頼むよ。うちの連中は君が体験したように小童ばかりだからね」
小童と呼ばれてグロウが苦い顔をするが、実際、俺達はフリートに手も足も出なかった。俺に関して言えば、全くの役立たずだった。
介渡は先程とはまた別の笑みを浮かべた。親しみやすさのある笑みだ。
「いいのか?」
「勿論。コホルスΣは性別種族不問、高校生からでも始められる仕事だからね」
高校生からでもというのは、グロウとアラン、マクロを指して言っているのだろう。
「但し、この仕事には覚悟が必要だ。戦士としての、気高き覚悟が」
そこで初めて、介渡は真剣な顔つきになった。
「君に、覚悟はあるか?」
「・・・舐めないで下さい。私は貴方達よりずっと昔から覚悟を持った『戦士』です」
フリートは猛禽類のような鋭い目で介渡を見た。介渡もそれをじっと見返した。
やがて何かを感じ取ったのか、介渡は顔の緊張を解いた。
「よし、決まりだ!ようこそコホルスΣへ!」
その言葉を聞いて、フリートもまた、緊張を解いた。
そんなフリートに、俺は一目散に駆け寄った。
「これからよろしく!」
そして他の皆も集まり、各々歓迎の言葉を浴びせた。
「はい!皆さん、よろしくお願いします!」
こうして俺達は新たな仲間を迎えた。
「よし!ならこれで任務は終了だ!」
「・・・は?」
一瞬、耳を疑った。
「撤収だ撤収!いやー、やっと支部が拝めるなー」
「ちょっと待て!混沌はどうした!」
フリートという障壁は乗り越えた。でもまだ、大ボスが残っている。
それとも、負傷者は撤退しろという意味なのだろうか。確かに現在戦力になるのは介渡を除くとマクロしかいないが、ここまできて撤退する気は無い。
従って、不必要だから帰れと言われても引き下がるつもりはない。
「ああ、もう倒したよ」
だが、返ってきたのは予想の斜め上を行く回答だった。
「は・・・!?」
「だからもう私だけで倒してきたよ。だから早く帰ろう。そうしよう」
介渡は意気揚々と帰路へついた。その後姿は俺達を置いてどんどん遠くなっていく。
呆然とした俺達は、暫くその場に立ち止まったままだった。
レギオンズΣ支部改めコホルスΣの初仕事は、一先ずは成功という形に終わった。