yahhoi's novel.

私ことやっほいの小説置場です。オリジナル小説に加えレギオンズの皆様との小説、堕華さんとの提携小説や東方二次創作等を書いていきます。

レギオンズ支部の仕事初め その17

悪魔は常に、人々に恐れられる存在であった。

それは悪魔が望み、生き甲斐とする事実だった。

悪魔は人々を陥れ、甘く囁き、破滅へと導くのを生業とした。

最も、聡い人間や運の良い人間はそれらを撃退する事もあった。

なので、悪魔と人間は常に対立していた。

 

そんな中、異端児が現れた。

彼は人間と悪魔と人間の混血、という訳では無かった。

純粋な悪魔。それも、実力は上位にあたる悪魔の中の悪魔。

他と全く変わらない正真正銘の悪魔。

特異点を挙げるとするなら、彼は死霊を束ねる性質を持っていた。

 

そして彼は能力を持ちながらにしてこの世に生を受けた。

最も、悪魔が何らかの能力を持って生まれるのは珍しいことではない。彼もまた、その例に漏れなかった。

彼には霊が視えた。

彼の見る世界にはいつも雲のようなものが漂っていた。

普通なら恐怖してもおかしくはないおぞましい光景だが、少年は適正があったのか、特に何も感じなかった。

そう、何も感じなかった。

恐怖はおろか、それらに対する同情の念すら浮かばない。

悪魔とは、根本的にそういう生き物で、彼もまた最初は同じであった。

 

その考えが変化を見せ始めたのは、五百年が経ち少年が少し成長した頃だった。

少年の前に、二人の男が現れた。

二人の男は生前、悪魔によって惨殺されたのだと、彼の能力は言っていた。

勿論悪魔である少年は同情などしない。しかし、憂慮はした。

悪魔といえど、その事実は少年のまだ無垢で感傷的な部分に少なからず影響を与えた。

少年は二人に対し引いた態度を取るようになった。

因みにこの頃の少年は、自分が霊を視るだけでなく使役する事が出来る事を知った。

が、少年はその力を行使しようとは思わなかった。実際に行使しようと思える場面などは全く来なかったからだ。

 

そんなある日の事だった。

悪魔の住処に、一人の聖人が現れた。

聖人は瞬く間に悪魔を殺していった。

その中には、少年の両親も含まれていた。

少年は、この時初めて真の恐怖を知った。

少年はどうしていいか分からなくなった。考え、考え、考えた末に少年は、結局どうしようもない事を悟った。

運良く聖人に見つからなかった少年は逃げ続け、いつしか一人暗いところにいた。

 

それまで両親と仲良く暮らしていた少年は、今度は初めての寂しさを味わった。

最も、少年は両親からこういう事もあるものだと聞かされていた。それ程人間と悪魔は相容れぬ存在なのだと。

だから、何なのか。

その事を知っていたからといって、少年はどうしようもない寂しさや悲しさを捨て去る事など到底出来なかった。

少年は泣いた。大いに泣いた。

 

そこでふと、少年は視線を感じた。

何だと思って周囲を見ると、そこにはいつの間にか、いつぞやの二人の男がいた。二人は悲しみに暮れる少年を見て、こう言った。

「お前も俺達と同じなんだな」

少年ははっとした。

思いもよらぬ所に、理解者はいたのだ。

少年は全ての気持ちを二人に打ち明けた。人間を見下してはいたが、自分には優しくしてくれた両親への懐かしみや、それを奪われた悲しみ。それらを奪った者への恨み。

二人の男も、最初は悪魔を恨んでいた。何故自分達なのか。何故自分達だけ理不尽な目に遭わなければならなかったのか。しかし二人は大人である。少年の話を聞いて、その根拠を突き止めた。

それは、あるいは常識、あるいは世界といった、とてつもなく概念的なものである。自分達のように悪魔に命を奪われた人間もいれば、目の前の少年のように人間によって大切なものを奪われた悪魔もいる。それはどちらから始まったとか、元凶が何だとかは非常にどうでも良くなった。ただそれを是として受け入れてる世の中に疑問を感じ、更には危機感のようなものまで芽生え始めた。

二人の男は提案した。この何処かおかしくなってしまった世界を、直してみないかと。

そして少年は決心した。この人達と共にもっと強くなって、この世の中の在り様を変える。救われぬ命に救いの手を差し伸べようと。

 

 

 

「・・・そして私は強くなりました。そりゃもう悪魔の中でも噂になるほどに」

フリートは大地に寝そべりながら、虚ろな目をして天井を見ていた。

「当時は私は少年でしたが、今ではもう十分な大人です。流石に世の中全部を引っくり返す事なんて出来ないと知っていましたし、ゲシュビルやミジェラグルはとうの昔にそれを悟っていました。だから、知ってほしかったんです。私達のように理不尽な目に遭ってる者達がいると。悲しんでる者達がいると。混沌がクーデターを起こした真意は分かりかねますが、私達はこのクーデターを通じて政府の方々に気付いて欲しかった」

フリートの声音に徐々に力がこもる。それはまるで自身のやるせなさや悲しみを体現してるかのようだった。

「・・・しかしよもや貴方達のような方が現れるとは。私も時期を見計らいました」

「・・・どうりでああ何度もマクロに立ち向かった訳だ。アンタは途中で勝てないと分かっていた。でも負けられない理由があったからこそ、覚悟を持って戦っていたんだな」

俺は倒れても倒れても立ち上がる一人の戦士の姿を思い起こしていた。

「そうなのでしょうか。私には分かりませんが、もしそうだとしても私は負けました。貴方達の思うようにして下さい」

フリートには既に諦念が見られた。それ程今回のクーデターに全身全霊をかけていたのだろう。

「ふふっ」

俺は思わず笑いを零した。

「何が可笑しいのでしょう?」

「いや、この世界には人間なんか足元に及ばない化け物ばっかいるって聞いたからどんな奴がいるのかと思ったら・・・・・・。なるほど、誰も彼も大して変わらねえな」

「・・・?」

「俺達も同じさ。一度は怪物に親みてえな存在の人を奪われた。そしてそんな世界に抗おうと必死だったさ」

そうして今度は俺が身の上話をした。

親の魂が怪物に乗っ取られ、周囲の人々の命を奪ってきた事。

それを止められなかった事。

そんな事を繰り返している内に、ある一人の人間がその輪廻を断ち切ってくれた事。

現在は親と離別し、その人間の下で大義を果たそうとしている事。

まるでフリートの話に出てきた二人の男のように、語り合った。

そしてこのように締めくくった。

「だからアンタも、いやアンタらも、俺達と一緒に少しずつこの世界の悪いところを直していかねえか?」

この言葉は二人の男、ゲシュビルとミジェラグルの言葉を借り受けたものだ。だがそれだけで、先程まで敵同士だった俺達が分かり合えた。

「ありがとう・・・ございます・・・」

フリートは目に涙を溜め、それを必死に堪えながらも、結局はゆっくりと頬を伝っていった。

「礼には及ばない。今思えば俺達は最初から出会うべくして出会ったかのように思える。思いもよらない偶然の果てに、しかし必然的に、俺達は巡り合えた。ただそれだけだ。それでも感謝を述べるとするならば、それは俺達では無く、俺達を合わせてくれたこの世界に感謝を言うべきだ」

そう、世界は決して残酷ではない。

辛い事も、逃げ出したくなるような事もあるが、その代わりにこうして確かな喜びを与えてくれる。

「ようこそ、コホルスΣへ」

俺達は手を取り合った。

「これからよろしくお願いします」

先程の泣き顔とは一転、フリートは晴れやかな表情をしていた。

もう一度固く手を合わせた後に、俺は周りを見た。

グロウ。大切な人を守る為、そして俺達の目的を果たす為。時には倒れたりもしたが起き上がり、最後まで戦ってくれた。

アラン。最初は不安がっていたけれども、グロウを信じ、仲間を信じ、皆の為に助力してくれた。

アシッド。飄々として掴み所の無いお前が、組織の為に責任感を持って、諦めずに自分の仕事を努めてくれた。

マクロ。自慢の圧倒的な力で皆の窮地に駆け付け、仲間の為に激昂してくれた。

俺は何が出来たのだろうか。俺一人で出来たことは結局何一つ無かった。今回は結果的に良い方向へ事が進んだが、これが何度も続くなんて思えない。

俺は、上司失格だな・・・。

「そう思いつめなくてもいいさ。君は力こそ及ばなかったけど、どんなに倒れても立ち上がり、仲間を鼓舞してくれたじゃないか。君は自分の務めを果たしてくれたさ」

「そうか・・・」

その程度で納得なんて出来はしないが、それでもそう言ってくれると助かる。

「ありがとう、介・・・」

ん?

「は?え、介渡っ!?」

「よっす」

さっきまでそこにいなかった人物が、いつの間にやらそこに立っていた。