yahhoi's novel.

私ことやっほいの小説置場です。オリジナル小説に加えレギオンズの皆様との小説、堕華さんとの提携小説や東方二次創作等を書いていきます。

レギオンズ支部の仕事初め その16

「・・・は?」

フリートの目には困惑と、驚愕が入り混じっている。音速を超えてマクロに襲い掛かったフリートの体は一瞬にしてそれまでとは逆方向へ進んでいった。

いや、進んでいったでは語弊がある。フリートの体は逆方向へと、弾け飛んでいったのだ。

「・・・許さないと、言った筈だよ?」

「っ!!」

その時フリートは確かに戦慄した。

粉々になった肉体はひとりでに動き、一箇所に集まってくっ付いた。

「・・・これが人間?有り得ない・・・・・・」

フリートはこの時点で察していた。目の前にいる相手は種族は人間だとしても、戦闘においての実力は自分のような悪魔や吸血鬼、鬼などは足元にも及ばず、神にまで匹敵するものなのだと。

その通りだ。実の所マクロの「ギャグにする」という能力は単なる仲間内のふざけ合いでついたものである。圧倒的故に緊迫感もなにもなく、主人公が敵役を一瞬にして薙ぎ倒してしまうようなシュールさから、レイルの部下の誰かからそう呼ばれたのが浸透したのみだ。

実際は彼の力はそんなに生易しいものではない。

「ふんっ!」

だがフリートは一歩も引く気は無いようだ。構わず大地を蹴ってマクロに襲い掛かる。

マクロは一歩も動かずその様を見ていた。フリートとマクロの距離がゼロに近付いたとき、フリートの体が三分裂した。

「あれはゲシュビル?」

「ミジェラグルもいるのか・・・」

グロウとアシッドの言によると、あの二人はこいつらが戦った相手だそうだ。

しかしそれだけでは留まらない。フリートの体から更に二人が分裂した。その二人はグロウもアシッドも見た事はないそうだが、確かに意思を持っているようだった。

五方向から囲まれたマクロ。しかしマクロは、一歩も引く気は無かった。どころか、動こうとする意志が感じられなかった。

マクロの腹に五つの負荷がかかる。重く鈍い音が大事じゃないことを伝えていたが、その伝令は誤報でしかなかった。

「・・・っ!?」

圧倒的な、本当に圧倒的な力の前には、知恵も技術も機転も何もかもが無駄になる。マクロは圧倒的だった。全てが無駄になる程に、抜きん出ていた。

マクロは立っていた。何事もないかのように立っていた。あの状況なら、例えば身を屈んでそれぞれを相打ちさせたり、跳躍して逃れるなども、勿論俺達では、或いは普通の人間では到底出来ない所業だが、マクロの力なら出来る筈である。

だが、やらなかった。それはマクロ自身機転が利かない、というより、まともに考える脳が無いというのは、普段の行動言動からも分かる事だが、それ以上にそういった事をする必要が皆無だからだ。

彼は、圧倒的だった。

「しまった!」

ここでフリートの挙動がおかしくなる。「しまった」。俺自身手合わせしているからフリートの経験からなる余裕を知っている。そんな彼が、確かにそう言ったのだ。

それを言ったタイミング。その時の状況こそが奴を突破する鍵。

その時、奴は肉体を分裂して別の生命体を作っていた。ここら辺に能力が関係するか。いや、悪魔だから出来る技術なのか。しかしその肉体はフリートとは別の自我を持っていた。

いや、そこは関係ない。肉体が自我を持っていようと本体に関係は無い。

分裂による、本体への影響・・・。

「・・・ん?」

考えてみれば、ここまで俺が考えているというのに両者の拳の撃ち合いが全く無い。

見るとフリートは、分裂した肉体の、ゲシュビル達の集合を待っていた。ゲシュビル達も慌てている様子だった。

「・・・三人とも、まだいけるか?」

俺が呼ぶと、三人は少し困惑した表情を浮かべた。三人はこのままマクロに任せるべきと判断していたのだろう。勿論、それでもいい。マクロが負ける筈が無いのは火を見るより明らかだ。

だとしても。

俺は三人に意図を伝えた。

このまま引き下がって堪るか。

 

 

「くっ!!」

フリートが猛攻を見せるも、マクロに響かせるには全く足りない。ただフリートが機動性を重視したからか、マクロは攻めあぐねている様子だった。

幸い、フリートは俺達の事が見えていなかった。

俺たちが立ち上がれないと見ているし、マクロ相手に周りを見る余裕なんてあるものか。

とはいえ、アシッドとアランは動けそうになかった。なので二人には、失敗した時に備えサポートに回ってもらう。能力上回復が可能な俺とグロウが仕掛ける布陣だ。

タイミングは、フリートが三対以上分裂した瞬間だ。

「全然痛くないよ?」

「く・・・」

フリートは焦っている。思考が乱れている。チャンスは十分にあった。

「全然痛くないけど、それは僕だからだよね。きっと皆は、痛い思いをしたんだろうね」

マクロが何か言っているが、気にせずに目の前の事に集中する。

そこでフリートが動いた。

フリートが引いた瞬間に入れ替わるようにフリートの体から分体が生まれる。

その交代の一瞬、その僅かな時間に分体が三体となった。

「今だっ!」

俺とグロウが一斉に飛び出す。フリートはその事に気付いていないようだった。チャンスだ。

・・・しかしそれは突然だった。

「っ!戻れ!」

フリートの元に一斉に分体が集まってくる。そして迅速にフリートと合体していく。

マズい、勘付かれたか。

慌てて歩みを止めたが、フリートはまだこちらに気付いていないようだった。では、何故?

フリートを見ると、なんと、怯えていた。蛇に睨まれた蛙だ。そしてその視線の先には、マクロがいた。

「許さない。友達を傷つけるなんて」

マクロの様子を見て、俺は大体理由を理解した。マクロからはただならぬ威圧感が出ていた。長い付き合いだが、こんなにも威圧感を醸し出しているのは初めて見た。

「許さないッ!」

 

一瞬の事だった。

 

次の瞬間マクロの姿が消えた。

 

俺に理解出来たのはそれだけで、それからマクロの行動は目視出来ていない。

 

俺が次にマクロの姿を見た時は、

 

・・・フリートの体は爆散していた。

 

 

 

因みに俺達はフリートが分体を作った際に、フリート自身の身体能力が低下すると予測していた。だからフリートの分体が三対以上になった時、仕掛けたのだ。

フリートが言うにはそれで合っているらしいが、フリートは余りのダメージで再生する事もままならず、四肢が無い状態で地面に寝そべっていた。

命に別状はないようだ。