レギオンズ支部の仕事初め その14
場所は変わり、ここは敵拠点の某所。
狭い通路に佇む少年は、奥で仲間の救出に向かってる者達を邪魔させまいと、孤軍奮闘していた。
その状況、なんと一対五十余。絶望的かと思われたが・・・。
「な、なんだこいつ・・・っ!」
敵兵士が必死になって乱射する銃弾が、青年の体に直撃する。
が、出血する訳でも無ければ、倒れていく様子も無い。
ただちょっと仰け反っただけで、体は何故か無傷のままなのである。ついでに服も。
「いててて・・・。全く、銃をそんなに乱射しちゃ危ないだろ!」
説明するまでもないが、銃を乱射するというのは危ないどころの話ではない。それでも青年は「危ない」と言った。それはたった今展開されているこの物語が、前話のように人が死の危機に瀕するようなシリアスで真剣味を帯びていたものだったのにも関わらず無理やりギャグへと方向性を変えているからである。
ギャグの中では生物は基本死なない。だから「危ない」に留まるのである。
なら何故この小説が無理に方向性を変える必要があったのか。
それはこの青年の「全てをギャグにする」能力のせいである(決して妖怪のせいではない)。
「頭きた・・・!」
青年は徐に腰を低くすると、そこから正拳突きを繰り出した。
その拳の先に固体は無い。青年は空気に向けて拳を放ったのだ。にもかかわらず。
廊下の壁が、地面が、天井が、奇妙な亀裂を走らせてついには崩壊した。
それだけではない。殴られた空気がその力の向きに沿って突風になり、敵兵の体を、更に瓦礫を押し上げた。
「ぐおおおおお!!?」
突風に吹き上げられ、飛ばされた瓦礫に頭を殴られ、敵兵は瞬く間に気絶していった。あくまでギャグである為、気絶に済まされている。
「ふう~」
粗方片付いた。そう判断した青年は後ろを振り返り、仲間の救援へと向かった。
青年は走った。
青年のギャグ漫画風のダッシュはあっという間に仲間が捕らえられているであろう場所まで彼を運んだが、その場所には無傷なのに倒れている敵兵以外は誰もいなかった。
青年は更に奥地を目指した。
奥に進むにつれ建物の損壊が激しくなっている。
壁は抉られ、地面には窪みができ、更に酷い所では天井に穴が開いていたりもした。
青年は段々嫌な予感がしてきた。彼は全力で奥地へと足を進めた。
そして青年には聞こえた。聞き慣れた友の声を。
その声は明らかに異常だった。恐怖、悲壮、絶望。あらゆる負の感情が入り混じった、断末魔にも似た叫び。
青年は直感した。誰かが死んだ、もしくはそれに瀕すると。
そして同時に彼の体をその声の近くへと運んだ。