yahhoi's novel.

私ことやっほいの小説置場です。オリジナル小説に加えレギオンズの皆様との小説、堕華さんとの提携小説や東方二次創作等を書いていきます。

レギオンズ支部の仕事初め その11

「アラン、最初に言っておかなくちゃならねえ事がある」

「な、何・・・?」

「好きだ」

息を吐くように簡単に出たその言葉。

その言葉は、私の頬を沸騰させるのに十分過ぎた。

「・・・えっ!?ちょ、ど、どうしたのグロウ!!?」

「殺されかける直前で、やっと自分の気持ちに気付いた。職業柄、俺達は何時死ぬか分からないから今伝えるぜ」

グロウの手が、そっと私の髪に触れる。

「好きだ。付き合ってくれ。いや、結婚してくれ」

「あ、あう・・・・・・うぅ」

自分でも気持ち悪い呻き声だ。でもしょうがない。

もうこんなにも気持ちがテンパってるんだから。

こんなにテンパらせる・・・グロウが悪いんだからっ。

それでも、答えは決まっていた。

「・・・はい」

ああ、恥ずかしい!顔から火が出そう!

「でも結婚するんだったら、ちゃんと私の事守ってよね。最後まで。何時死ぬか分からないなんて言ってないで、しっかり私の元に、貴方の居場所に帰ってきて」

恥ずかしくてたまらない。卒倒しそうな体を無理にでも奮わせて、私は言った。

「貴方の笑顔が、もっと見たいから・・・・・・」

思わず顔を伏せる。自分でもよくこんな臭い台詞を言えたものだ。

ああ、グロウは今何を思ってるのかな・・・・・・。

「くそっ!何故だっ!?何故なんだ!?」

その声に私は肩をビクつかせ、それまでの恥ずかしさは何処へやらという程に警戒を強めた。

気付くとグロウはとっくにゲシュビルの方を向いて、真っ直ぐに威圧している。

あれ、なんだろう、いつもより頼もしく見えるような・・・・・・。

「何でお前は生きてるんだ!人間の癖に!何故倒れても立ち上がるんだ!」

「ばーろー。んなの決まってんじゃねーか」

 

「生涯守りてえモン見つけちまったら、倒れる訳にゃいかねーだろ」

っ!?

グロウ・・・そこまで私の事思って・・・。

ああ、なんだろう、頭がぼうっとする。考えが覚束ない。

でも、これは決して悪魔の囁きなんかじゃない。

「それにな、一旦守るって決めた人間は強えーって事知ってたか?人間はお前らと違って脆い生き物だから、より全力で守らねーと駄目なん」

「そういうことじゃない!!何故君は生きているんだ!?人間だったら確実に致命傷な筈・・・」

「ん?ああ、そういう事か。俺の能力は『受けた衝撃をエネルギーに変える』ものだ。俺は今までそのエネルギーを反撃に、自分の動力として使っていたわけだが、例えば疲労を取り除いたり、眠気を覚ましたりと、もっと色んな事に使えるんだ」

 

「勿論、傷口の修復もな」

「何っ!?」

「お前から受けた衝撃の分はきっちりと再生させてもらったぜ。ま、そのお陰で今のエネルギーストックは残っちゃいないが・・・。これでイーブンだ」

「く、人間如きが生意気な・・・」

ゲシュビルからは焦りの表情が見て取れる。恐らく彼も彼なりの作戦で能力を温存し、先にグロウを始末し、グロウに依存してしまっている私を上手く利用して速やかに二人、排除するつもりだったのだろう。実際私も死を選んでしまった。グロウが復活してくれなければ、今頃はきっと天国への旅支度を整えている所だったろう。

そう、それがグロウの復活で失敗に終わった。もう相手に伏せカードは無い。

が、それにしてもゲシュビルの焦り様がおかしい。二対一ではあるが、種族としては向こうが上位である。グロウが復活した所で、大して戦局は変わらないどころか、相手の優位に変わりは無いと思うけど・・・。

するとグロウが、耳を疑う言葉を発した。

「おいお前、焦りすぎだ。お前が悪魔でこっちは人間、二人いるが大した敵じゃないだろ?またさっきみたいに俺を風で飛ばして先に始末すればいいじゃねえか」

「ちょ、グロウ!?それこっちが言っちゃ駄目でしょ!?」

「それにアランは結構やらかす奴でな。一対一だったら余裕で勝てるだろ?」

「グロウっ!!」

グロウの耳を引っ張ると、グロウの顔が苦悶の表情に変わる。

気にせず、耳打ちした。

「ちょっと馬鹿なの!?何でいちいち相手が優位だということに気付かせちゃうの!せっかく相手が必要以上に焦ってるって言うのに!!」

「アラン。俺が風で飛ばされても今度は押さえなくていいからな」

「ちょっと話聞いて・・・ていうかそれだとあんたホントに始末されちゃうじゃん!」

「俺を信じろ」

その言葉で、私は口を噤んでしまう。

だって、そんな真っ直ぐな瞳で見つめられて、そんな声で囁かれて、信じられない訳ないじゃん。

もう、断れないの知ってて言ってるでしょ!

「・・・分かったわ。それで、私は何をすれば言い?」

「ここだというタイミングで、さっきみたいに奴の首を刎ねてくれ。たったそれだけだ」

「ちょっと、タイミングって何時よ!」

「直ぐに分かる。武運を祈るよ」

私はその後も幾つか文句を言ったが、グロウは聞かなかった。

全く、そのタイミングとやらを伝えないでどうすればいいのよ。

それともこれは、自分の意図を察してくれるだろうというグロウの私に対する信頼でいいのかな?

そこまで考えると、私の脳内は数多の罵言雑踏から「頑張ろう!」というたった一つの言葉に切り替わった。

そんな私達の傍らでは、ゲシュビルが気味悪く笑いながら立ち上がった。

そこにはもう、焦りの表情は見て取れなかった。

「そうだ。俺は悪魔。虫けらが何匹増えようともどんなに足掻こうとも関係ない。潰せばいい。潰すのみ。アヒ、アヒャヒャヒャヒャ!!!」

ゲシュビルの口元が裂けた。

「覚悟しろよ、グロウとかいう人間!虫けらが俺様に楯突いたらどうなるかその体で覚えさせてやる!!」

「ああ、やれよ」

「くくく・・・『無慈悲な風』ッ!!!!」

ゲシュビルがそう言った瞬間、グロウの体が風に煽られ宙を舞う。助けることも出来たが、グロウの言いつけを守って、やらなかった。

グロウの体は無防備となり、空中で泳ぎ回る。その体に近づく一つの影。ゲシュビルだ。

「ウケケケ。死ねよ」

ゲシュビルがグロウにナイフを振るう。その行き先は・・・。

「っ!喉仏!グロウ危ない!」

喉元を掻き切られたら再生する間もなく死んでしまう。

「っ!!」

だがグロウを状態を反らし、間一髪でかわした。

しかし間髪いれずに、ゲシュビルの拳がグロウの腹に襲い掛かる。

「うぐっ!?」

呻き声と共にグロウの体が地面に強く衝突する。すぐに駆け付けて手当てしたい衝動に駆られるが、私は何とか踏みとどまった。

でも・・・。

「一体いつまで待てばいいの?」

このままじゃあいつの体が持たない・・・。

そうこうしてる内にゲシュビルの追撃が来た。

「一人で俺とやりあうってのか?そいつぁ調子に乗りすぎじゃあないんですかい?」

ゲシュビルがナイフを構える。その距離僅か数センチ単位。

もう待ってられない!私がそう思ったその時だった。

「誰も一人でやるなんて言ってねーよ」

グロウがすさまじい速度で起き上がった。そのワンステップでゲシュビルの背後をつく。

「何っ!?」

「これが悪魔のスピードか・・・。全く恐ろしいな」

恐らく能力を行使したのだろう。先ほどの拳の衝撃を地面を蹴り上げる力に変換したのだ。

そのままグロウは、手際よくゲシュビルを拘束した。

「ぐっ!」

ゲシュビルが身じろぐが、如何に悪魔といえどもグロウの拘束は解けない。

そしてそれは、ゲシュビルを仕留める恰好のタイミングであった。

「残念だなゲシュビル。生憎俺は一人じゃねえんだ。今まで戦ってきた戦友や、強力で更に機転の利く上司、そして生涯のパートナーがな」

周囲に黒い粒の塊が浮かんでいる。砂鉄だ。

私は砂鉄を一箇所に集めて、刃の形に整えた。

「お前の負けだよ。ゲシュビル」

「くそっ!くそぉぉぉぉぉおっ!!!」

そのまま、振り下ろした。

 

 

「いやー、疲れた疲れた」

グロウはその場に座り込んだ。

思えばグロウは、ゲシュビルの行動を誘導していたように思える。いや、実際そうなのだろう。焦燥し切っていたゲシュビルに「今まで通り戦えば勝てる」という安心材料を与える事によって、ゲシュビルをそれに依存させ、その通りに行動させたんだ。分かりきった行動をする相手に対応するのは、いとも容易い事だ。

何か、変わったな。昔は無鉄砲に敵に突っ込み、戦って、ヴァルドやレイルに助けてもらったりだったのに、もう心理戦までやってのけちゃうなんて。

ホント、変わった。

そしてより一層、魅力的になった。

「私も頑張らなきゃな・・・」

ボソッと、そう呟いた。

「そうだな」

つもりだったのだが、聞かれてしまっていた。

「~~~っっ!!勝手に聞かないでよバカっ!」

「まあまあ怒りなさんなアランさんや。お互いこれから頑張っていきましょうや。ね?」

「・・・何その言い方。あんたらしくもない」

「嫌、だったか?」

「・・・ううん。グロウはグロウだから」

幸せ。

死と隣り合わせの筈なのに、私は今、幸せを噛み締めている。

安心出来る。

思えばどれもこれも、介渡と出会ってから感じるようになった。

跡で介渡にお礼と、結婚の報告しなきゃな。

「くそっ。いちゃつきやがって」

「黙ってろゲシュビル。俺達二人の至福のひと時を邪魔するんじゃない」

「そういうのは他所でやれ!」

ちなみにゲシュビルは、どうやら首と胴が離れても生きられるらしい。悪魔の生命力は流石と言うべきか。

またくっつかれると面倒なので縄で縛っている。

「妬いているのか?まあそうだよなぼっこぼこにされたあげくリア充の戯れをまじまじと見せられてんだもんな」

「お前ら、絶対に殺してやる・・・。絶対にだ!」