yahhoi's novel.

私ことやっほいの小説置場です。オリジナル小説に加えレギオンズの皆様との小説、堕華さんとの提携小説や東方二次創作等を書いていきます。

レギオンズ支部の仕事初め その9

「がああああ!!」

両手を地面に突き当てる。

床のコンクリートとその下にある土の間に酸を流し込み、床を沈下させ・・・。

「地盤を酸で溶かして足場を不安定にさせるのか?」

「っ!」

全て丸分かりってか。

なら地盤を溶かさずにそのまま留めさせ、それを足元から噴出させ・・・。

「いつまで考えてるんだ?」

突然の爆発。

もう慣れたものだったが、反応が遅れてしまった。

「ぐっ!」

軽い火傷を負い、痛みが走る。

それを感じた時には既に僕の体は爆風で水平方向へ吹き飛んだ。

と、同時に、視界の端でこちらに向かってくる。

「っ!」

速い。相変わらず速い。

どうにかして対応したいところだったが、爆発で吹き飛ばされた無防備な体では、それも叶わない。

「ぐふっ!」

脇腹に容赦ない、重い一撃。

「があっ!」

僕の体方向を変えて吹き飛び、壁に打ち付けられる。

意識が朦朧とする。脳震盪を起こしたようだ。くそっ。

視界が霞み、近付いてくる人間の影が薄れ・・・。

「っ!」

意識が我に返る。と同時に、僕は頭を右へずらした。

ミジェラグルの拳が壁に当たった瞬間、コンクリートが抉れ鉄骨が露になる。

あれに当たっていたら、顔面なんて粉々だろう。

危なかった。

そして、チャンスだ。

この至近距離だったら、酸をかわす事などできない・・・っ!

すかさず、酸を飛ばす。

「っ!!」

ミジェラグルがぎょっとした顔を浮かべる。すぐに酸に手をかざし、爆発を起こそうとする。

が、そんな事計算済みだ。

僕は酸の軌道を変えた。

「しまった!」

酸はミジェラグルの背後へと回る。

もらった。

そう思った。

「・・・何て、慌てると思うか?」

ミジェラグルは酸を一切見なかった。

ただ真っ直ぐに僕に拳を叩きつけてきた。

「くっ!!?」

また腹部に拳が当たる。

怪我をした部分に響いて更なる痛みが襲ってくる。

「っがあああぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

体が捻じ切れるんじゃないかと思った。

痛みに耐えながら、ミジェラグルと距離をとる。

「・・・まだ動くか」

何言ってんだよ。こっちはもうギリギリだ。動くことすらままならないんだ。

くそっ、攻略の糸口が掴めない。

能力の相性だとか、戦ってる場所がアウェーだからとか、そんな話じゃない。単純に、培ってきた経験が違いすぎるのんだ。八十年生きられるか分からない人間という種族の僕に対し、ミジェラグルは人間より遥かに長い、何千なんか悠に超える年月を過ごす悪魔だ。

そもそもとして勝てる筈が無かったんだ。

「はは・・・ははは・・・」

「どうした?気でも狂ったか?」

ああ、そうだよ。もう自我なんて保てるか。人間死ぬと分かってて何故正常を保てる?無理だろう。きっと僕はこの後目の前の悪魔に無残に殺される。恐らくさっきまでの爆発を僕の体内で発生させ、上半身と下半身が分かれ、薄れゆく意識の中、自分の体が食べられてる様を涙を流して死んでいくんだ。きっとそうだーー。

 

・・・あれ?

 

じゃあ何でもっと早く、『爆発を僕の体内で発生』させなかったんだ?

 

「・・・何だ、そんなにニヤついてよ。気持ち悪いぞ」

「・・・ははは。いや、おかしくてしょうがないよ。あんなに思いつめてた僕が本当に愚かしい」

確証は無い。もしかしたらそれをしない事で余裕を見せてただけかもしれない。

でも、だとしても。

これは好機だ。

試さずにして、他に対抗する術は無い。

「ふんっ!」

右の掌を天に掲げ、力を込める。

するとたちまち天井を覆うようにして酸の層が出来た。

と同時に右手を勢いよく振り下ろす。上にあるものを下に落とすようにだ。

そしてそのものとは、今は酸である。

「無駄だと言ってるのが分からんか」

ミジェラグルは右手を真上にかざし、爆発を起こして酸を吹き飛ばした。

しかし、それじゃ止まらない。

何故なら既に酸の層は、その厚みを増しているからだ。

「っ!!?」

吹き飛ばされた酸の上から酸が流れ込む。

「そういう事かっ!!」

慌てたミジェラグルは何度も爆発を起こして酸を押し留めようとするが、爆風の間を縫って酸がジリジリと迫ってくる。このままではいずれ押し負けるだろう。

「ぐっ!」

標的が僕に向けられた。多分、また爆発で僕を吹き飛ばし無防備になった所に徒手格闘術を叩き込もうとしたのだろう。

でも、無駄だ。

僕の周囲は既に、上から流れ込んだ酸で覆いつくされている。

「しまった!」

やっぱり、これが攻略法か。

相手の体内で爆発を起こさないという事は、その爆発を起こすのには、ある一定の空間が必要だった。だからただ酸を飛ばすだけでは、その空間は埋まらない。

だから、酸と自分の皮膚が接近するか否かまで酸を作ればいい。

そうすれば、爆発が起きる空間は無くなる。

「ぐあァッッ!!!」

とうとう抑えきれなくなった酸が、ミジェラグルの体に滴り落ちる。僕の酸の溶解能力に、悪魔も人も関係ない。

ミジェラグルの体が一部溶け、ミジェラグルが悶絶する。そのタイミングで、一瞬、爆発が止む。

そしてその一瞬で、酸がミジェラグルに襲い掛かる。

「うがああぁぁぁぁぁぁぁあッッ!!!!」

後はミジェラグルがミジェラグルで無くなるのを、黙って見ていればいいのだ。