レギオンズ支部の仕事初め その1
「・・・」
茂みに隠れ、息を殺す。今までやったことのない‘‘殺り方’’に、高揚感と不安感が募る。
俺はヴァルド。レギオンズΣ、帝国支部での指揮官兼参謀を担っている。
そして俺の隣にいるのが、レギオンズΣ支部長、八十島介渡。通称「ヒューマノイド」だ。
「早速だが、君達に任務を与える!」
幻想郷から帝国へ着いて小一時間。まだ建設を終えた支部を見てもいないと言うのに、初仕事は、早いものだった。何でも介渡は幻想郷に居た時からリルアさん達とコンタクトを取り、今後の予定を入念に組んでいたらしい。
お調子者で楽天的な介渡も、そういう所はしっかりしているのか。
「仕事の内容はこうだ。場所は禁忌の神域より北西、敵の勢力はまあそこそこってとこだな。そして敵には悪魔が数体、神霊が一体、後は全部人間だ」
「神霊もいるのか?」
「ああ。名は『混沌』。中国神話に伝わる四凶の一角で、大きな犬の姿をしている。目はあるが盲目で、耳もあるが何も聞こえない。ヤーザリ君の話によると聾者だという」
「強さは?」
「勿論人間の手に負えないぐらいには強い。ただ百夜ちゃんやニャルラトテップとかと比べると大した事は無い」
「そうか・・・」
その程度だと、過去実際にニャルラトテップやアザトースと対峙した介渡にとっては生温いものなのかもしれない。
だがそれは、「介渡にとっては」の話だ。
「俺たちにとっちゃ、強敵にも程があるな」
グロウ達の方を、チラと見た。初仕事からの不安感なのか、皆神妙な面立ちをしている。
「その通りだな」
その気持ちを知ってか知らずか、それでも介渡は告げた。
「それでも、君達も一緒に戦ってもらう」
その言葉を聞いて、真っ先に声を上げたのはアランだった。
「待ってよ介渡!」
いつも気丈に振舞っているが、内心はこのメンバーの中で誰よりも脆い。それは長年苦楽を共にした俺やヴァルド、グロウ、マクロは分からないがアシッド、そして介渡でさえも既知であった。
因みにマクロは蝶と戯れている。
「どうしたのかね」
「えっと、その、私達がいても足手まといというか、一人で戦った方が介渡的には楽なんじゃないの・・・?」
チラッ、チラッ、と横目で介渡を見るアラン。無理するな、怖いと言え。
だがアランの言う事ももっともだ。俺達は出会って間もない、増してや連携なんて取れやしない。連携の取れない仲間を余計にカバーする方が、大変なんじゃないか?
「アランちゃん。そんな事言ったらねえ、この任務私一人で行った方が楽だよ」
ですよね。
「でもこれは私という一個人が引き受けた任務ではない。‘‘レギオンズΣ’’という組織が引き受けた仕事だ。私一人で行ってはい解決しましたよじゃ、組織の意味を持たない。それとも君は私が留守の間に仕事が来たら「支部長が帰ってくるまで待って下さい」なんて言うつもりか?」
返す言葉も無かった。
「いいか、私は君達に比べれば強いかもしれないが、私の体は一つしかない。一度に救える命には限りがある。そこで私は、組織を組んで一度に救える命を増やそうと思った。そしてレギオンズΣを見つけた」
「それで?」
「全く仕事が無かった。いや、決してサボっていた訳じゃないんだ。そうやらレギオンズΣ発足当初はそれなりに仕事もあったんだが、私が入団した時にはあらかた悪事も狩り終わっていたんだ。レギオンズ内での騒動はしょっちゅうあったけどね・・・」
「なんだ、駄目じゃないか」
「供給に対して需要が少な過ぎたんだ。そこで私は考えた。今の世界が救われたなら、別の世界へ赴いて活動しようと。そうして出来たのがレギオンズΣ、帝国支部だ」
雄弁という言葉があるが、介渡の言動はまさにそれに相応しかった。新たな挑戦を嬉々として語るその姿は、夢を語る少年のようだった。
「・・・なら、やるしかねえじゃねーか」
こういう時、感化され易いのがグロウだ。既にやる気に満ち溢れている。
そしてグロウに最も感化され易いのが・・・。
「グ、グロウがそういうなら、私も頑張る・・・」
アランだ。グロウももうアランが好意を向けている事に気付いているのだろう。こっちにしてやったりと目配せをしてきた。
アシッドはニコニコしている。飄々とし掴み所の無い人間性をしているが、こういう時頼れるのがアシッドだ。今回も不敵だが、確かに信頼性のある笑みをしている。
そうだ、マインドはどうしてるんだろうか。途中であいつは死んでしまったけど、介渡の力で復活した筈だ。あいつは確かあいつの世界で最後のワロドンで、不意に寄ってきたレイルの眼鏡に適って勧誘された。連絡も絶え絶えになってしまったな・・・。
レイル・・・。俺達の父親で恩師、あんたがいなければ俺達はいない。新しい世界でしっかりやってっかな。俺はどうにかなりそうだ。
・・・マクロ、お前何してんだ?そんな必死に蟻の巣除いたって人間の視力じゃ見えないぞ。
とにかく、俺の考えは固まった。
「やろうぜ。俺達はレギオンズΣ、帝国支部だ!」
俺が前に手を添えると、グロウ、アシッド、アランと次々に手を重ねる。マクロも空気を読んだ。
「さ、後はアンタだけだぜ」
最後に介渡が残る。しかし介渡はやけに神妙な顔をしていた。
「どうしたんだ?」
「いや、思ったんだがいちいち「レギオンズΣ、帝国支部」っていうの、めんどくさくないか?」
「・・・は?」
「そうだな・・・、レギオン(軍団)の支部だから・・・・・・コホルス(大隊)ってのはどうだ?」
コホルス。古代ローマ軍団の一個大隊の名称。軍団の枝分かれだから大隊ってか。
「響きは微妙だけど、意味合い的には良いんじゃない?」
「そうか、なら決まりだ!」
介渡が勢いよく手を振り下ろした。一番上に手を置いていたマクロが苦痛で顔を歪め・・・ていない。
「今日から私達は『コホルスΣ』だ!これからよろしくな!」
俺達は一斉に手を手を振り下ろした。
ーーこうして、『コホルスΣ』は発足した。