yahhoi's novel.

私ことやっほいの小説置場です。オリジナル小説に加えレギオンズの皆様との小説、堕華さんとの提携小説や東方二次創作等を書いていきます。

東方修行僧 80 その後2

夜が明け、小鳥の囀りと共に眩しい陽射しと身体を震わす寒気が部屋に流れ込む。

結局華扇は夜通しで、私の看病をしてくれた。「一日容態が良くなったからって、また悪化するかもしれない」と、ずっと私の事を看てくれていた。

・・・先に彼女の方が睡魔に負けてしまったが、私が永遠亭に運ばれてからずっと看ていたと考えると、寧ろしょうがないような気もしている。

対して私は一睡もしなかった。眠る気が無かった訳じゃない。考え事で眠れなかった訳ではない。ただ五日間も寝ていたし、起きても全く身体を動かせずじまいだったから眠気が襲ってこなかったのだ。仕方なく私は、そこで初めて物思いに耽った。

恋愛・・・。確かに華扇は人柄も良いし、知性もあってまさに才色兼備な人物と言えよう。結婚したら頼り甲斐のある妻となるのは必然だ。しかし、私は彼女を恋愛対象としては見ない。

それは他のどんな素敵な女性でも、霊夢でも魔理沙でも、あり得る事は無い。

私の居る場所は大抵決まっている。それは、戦乱の渦中だ。今幻想郷に居る時もレギオンズに居た時も、それ以前も。私の周りには必ず争いが寄ってくる。今回だって私が来てすぐに幻想郷が崩壊の危機に陥った。

しかし、決してそれは私が不幸だからではない。私自身が、戦争を欲しているからだ。

私は戦争に生きる男だと、自負している。私は様々な世界の、その戦争の渦中へと自ら飛び込みその渦を消し去る、そんな仕事を四千年やってきた。それは今更辞める気も無いし、帝国に腰を落ち着けてからも、平和に居座る気も無い。

そんな危険な状況に自分が大切だと思う人を連れて行きたくない。それにその人自身も、戦争と、慣れ親しんだ家族友人だったら後者を選ぶに決まっている。それを私は重々承知しているから、私は女性と深い関係を持ちたがらない。持ってはいけない。

・・・別に絶望した訳じゃない。元々は私が恋愛に積極的では無かったのが最大の要因だ。その私の性格や考えと上記の事が相俟って、私は女性と深い関係は持たないし、女性にもそのような気持ちにさせないよう線引きをしてきた。霊夢だって魔理沙だって、華扇だって同じだ。

しかし逆に言えば、私について来れる人なら大丈夫だ。勿論相手の気持ちを優先するが、もしその女性が大きな力を持っていて、戦地に身を投じても何とも無く寿命も永遠だったりという女性だったら好意次第で歓迎ーー。

「介渡ー、いるかー?」

私の思案は襖を叩く乾いた音と、男の声によって強制中断を余儀なくされた。私は男の声に聞き覚えがあった。

「入って良いよヴァルド」

その名を呼ばれると男は乱暴に襖を開けた。礼儀がなってない気もするが、いちいちそんな事を注意する気も無かった。

「よう。霊夢達にも聞いたが話以上に元気そうじゃねえか」

そう言われると、確かにちょっと上体が起きるようになっているかもしれない。調子に乗った私は腰を九十度にまで曲げようと思ったが、それは流石に無謀だった。

少しだけ上体を起こした状態を維持するのは、まだ万全とはいえない私の体では負担が大きいので結局昨日と同じ態勢になった。早く元気な体になって、これぐらいやってのけたいものだ。

「それで?今日は何の用だい?」

悔しさを振り払うように私はヴァルドに用件を聞いた。

「ん?いや、アンタ『帝国』ってとこに行ってレギオンズとやらの支部を作んだろ。それで現地で、治安維持に努めたり戦地に赴いたりするとか」

「ああ、そうだな」

「俺もついて行くぜ」

「・・・何だそんなことか?私は最初からその気だったぞ」

今更というように私は大袈裟に呆れたような顔をした。

だが、ヴァルドの本当の用事はそれではなかったようだ。

「実はもう一個あってな・・・」

入って良いぞとヴァルドが言うと、三人の少年と一人の少女が襖から現れた。

「こいつらに見覚えあるか?介渡」

私は有耶無耶な記憶を辿っていった。

そしてすぐに、答えは出た。

「ああ、アシッドとグロウ、マクロ、それにアランか」

確かに見覚えがあった。彼らは全員レイルの手下、その中で幹部クラスだった奴らか。でも、どうしてここにいるんだ?レイルの一件でこいつらも自分達の世界へ帰った筈じゃ?

「・・・実は俺含めここにいる五人が居た世界は、それぞれアザトース関係無く元々大戦争が起きていたんだ」

私が疑問を口にするより先に、ヴァルドが答えを言ってくれた。

「元の世界は本当に何も無かったさ。人類も、友人も、家族も」

ヴァルドの後ろにいた四人は、それぞれ悲しそうな顔をした。そうか、私は全てを救った気でいたが、この子達は、救えていなかったんだな。

「それを見兼ねた紫にまた幻想郷に送って貰った」

それなら、ヴァルドが私に頼もうとしている事も、私がやるべき事も一つだ。

「・・・それで私が、君達の‘‘居場所’’になれと。答えは‘‘イエス’’だ」

「話が早くて助かるぜ」

ヴァルドが不敵に笑うと、後ろの四人がパアっと明るい顔になった。私はまた、笑顔が増えた事の喜びを噛み締めた。

しかし、同時に不安というか、確認せねば気が済まない事もあった。

「それで君達は、戦えるのか?」

私は敢えて睨むように四人を見た。

だが四人はそれにたじろぐような仕草は全く無かった。

「僕達は生まれてからずっとレイルに扱かれてきたからね」

「今更怖気付く理由も無いっての」

アシッドとグロウは意気揚々としていて、アランも力強く顔を縦に振った。しかしマクロだけは、地面で行列を作っている蟻を眺めていた。

そこで私は、マクロに違和感を覚えた。

「・・・何かこの子身長伸びてない?」

マクロはようやく気が付くと、立ち上がって満面の笑みでグロウの隣に来た。

・・・推測でも百八十五はありそうだ。おかしい。最初に会ったときは私の肩程しか無かったのに。

「急激に成長期がきてな。これも能力の影響か・・・」

ヴァルドは神妙かつ薄笑いを浮かべた表情でマクロを見た。明らかに顔が見上げる形になっている。

こうしてレギオンズ支部のメンバーは女性を除き、皆私より身長が大きくなった。これが二次元補正の力か。

「そういう事だ、俺達をよろしくな介渡。後、リルア達が既に支部の建設を終えたみたいだぜ。費用は全部リヴェンが負担してくれるようだ」

「なんだろう・・・。彼女は帝国政府から金を絞り取られる為に居るような気がしてきた」

とはいえ彼女も帝国で酒に溺れ悪態をつきまくり、アルカディアに迷惑をかけている事を考えると当然と言えば当然だ。ここは大船に乗っておこう。

私も口座に大金(正確には、大量の金の延棒)は持っているのだからな。四千年も大量の報酬を貰っているとどうしても余ってしまうのだ。もう暫く確認していないが、今やその額は国家予算並かと思われる。

「じゃあ俺達はこれぐらいで。また夜様子を見に来るよ」

ヴァルドに促されて四人は襖を出て行き、ヴァルドもそれについていき最後に襖を閉めた。

また私と華扇二人になった。

今気が付いたが、華扇は五人が着てからもずっと寝込んでしまっている。余程疲れていたのであろう、太陽の位置から今時刻は正午といった所か。

私は瞼を閉じ、素直に寝る事にした。生活習慣が壊れてしまうかもしれないが、体を早く治すにこした事は無い。・・・こんな事なら昨晩無理やりにでも寝ておけば良かった。

どんどん思考が鈍り、私は眠りの世界に・・・・・・・・

簡単には行けず、二時間程してようやく意識が飛んだ。