yahhoi's novel.

私ことやっほいの小説置場です。オリジナル小説に加えレギオンズの皆様との小説、堕華さんとの提携小説や東方二次創作等を書いていきます。

東方修行僧 79 その後

ーー水が滴り落ちる音で、私は目を覚ました。

どれぐらい眠っていただろうか。覚えていない程眠っていたが、まだ私の体は重かった。起き上がろうとしても指一本動かせない。

諦めて私は上を見続ける事にした。木材で出来た古風な天井が視界一杯に広がる。

この光景だけ見ててもいずれ飽きるだろう。そう思ってた矢先だった。

「あら、起きたのね」

突然、声という新たな刺激が耳から脳へと伝わった。私は可動出来るギリギリの範囲まで、声のした方向を見遣った。

慣れ親しんだ声なのですぐに分かったが、視界の端から入ってきたのは華扇だった。

「やあ、私は一体どれ程寝たんだい?」

「五日間ぐらいは寝込んでたんじゃない?」

五日、か。人間が身に付けてはいけない、寧ろ神霊でも余程の者ではないと所持するのは危険な大きな力を、あんな突然使用しておいて代償が五日だけとは、我ながら自分の体の丈夫さに感心する。

一人悦に浸っていると、華扇がそっと優しく、濡れた布を私の額に置いてくれた。成る程、さっきの水の滴る音は華扇が布を濡らして絞っていたからか。

「はい、暫く安静にしていてね。今貴方の体は本当に崩壊寸前まで至ってるんだから」

「生死の境目、って訳か。それにしては随分意識がはっきりしてるね」

「それは今回復していってるからでしょ。全く、永琳は貴方の命を留めるのに昼夜を労費していたんだからね?」

「それは感謝をしないとね。今、彼女は?」

「寝てるわ。疲れが祟ったんでしょう」

「そうか・・・」

今回は本当に色んな人に世話になってしまった。後で各地を行脚して謝礼しなきゃなー・・・。

「華扇ー、介渡はどう・・・って、起きてるじゃない」

「あら、霊夢・・・と、」

再度眼球を声のする方に向けると、霊夢を先頭に魔理沙、早苗、アリス、鈴仙、文、妖夢咲夜・・・・・・と、そこで私は誰が居るのか把握するのを止めた。

多過ぎる。見た感じ余り広くないこの病室(和室?)にあれ程の人数、入るのか?

しかし流石少女なだけあって、一人一人の細いからだは無理なく一室に収まった。ああ、こんなハーレム状態を味わう日が来ようとは・・・。

たっぷり堪能したい所だったが、生憎鉄の塊のような体では彼女らを見渡す行為は妨げられた。無念。

「あら、随分大勢ですね。どうしましたか?」

突然華扇は敬語になった。ああ、そうか。彼女は普段敬語であって、あの一件から私との間では常体なんだっけ。二人だけの秘密って事かな?興奮するな。(実際には萃香等が彼女とタメで接しているが)

「どうしたって、見りゃ分かるでしょ?介渡の様子を見に来ただけよ」

「私も同じだぜ。しかしまあ、これ程多いとはなあ」

隣の魔理沙が口を開いた。いや、開いたんだろう。

「・・・このように、皆さんは毎日見舞いに来て下さってるんですよ。罪深い男性ですね、貴方は」

「そうだったのか。ありがとうな、こんな私の為に」

「あら、あんたが謙遜するなんて珍しいじゃない」

私だって紳士の端くれだ。と言いたいが今も何処かで監視しているであろう某鬼神が、何を言ってくるか分からない。体が元通りになるまで、面倒は御免だ。

「まあ、元気そうで何よりだわ」

霊夢は溜め息交じりでそういった。私の無事に安堵してくれるなんて、随分心温まるじゃないか。

私は心の中で笑った。表に出したらまた変態とか言われるに違いない。・・・否定出来ないが。

「介渡・・・」

その声が真剣味を帯びている事ぐらい、私にも分かった。少し睨みつけるようで申し訳ないが、私は目を下へやって霊夢を見た。

「あんたも同じ事思ってるんでしょうけど、それ以上に、私達はあんたに世話になったわ。私が敵に攫われた時単独で助けに来てくれたし、私と早苗、アリス、魔理沙が瀕死の時も助けてくれた。・・・馬鹿な話よね。幻想郷を守るのは博麗の巫女の役目なのに、今回はあんたに殆ど任せっきりだった。悔しいけど、それ以上にあんたに感謝してるわ。ありがとう」

「そういう解釈の仕方しちゃったかー。違うんだよ、霊夢

霊夢は怪訝そうな目で私を見た。

・・・そう。私は決して幻想郷を救おうとした訳じゃない。私の目的は、もっと別のものだった。

「・・・これは私の‘‘修行’’だよ霊夢。一人の‘‘修行僧’’が勉学に勤しんだ結果、副産物としてこの世界が助かっただけだ」

霊夢は一瞬、その言葉の理解に苦しんだ様子だった。付け加えて、私は言った。

「それに、幻想郷を救うのは君の役目かもしれないけど、『行き着いた世界から災厄を取り除く』のは私の役目だ。それに私だって、君に色々助けられたさ」

「・・・よく分からないわ。でもまあ、ありがとうね」

結局理解されては貰えなかったが、それでも霊夢は笑ってそう言った。

その笑顔を見て、私も何だか安心した。私の任務の一番大きな報酬といえば、これ以外にないだろう。依頼者とその世界の人々の笑顔を見た時が、一番達成感がある。

今の私にそれ以外は必要無い。

「それじゃ、今日はお暇するわね」

「もう行くのか?」

「ええ」

「そうかい。それじゃまた」

少し心寂しい気もしたが、彼女達にも日常というものがある。その中でやるべき事だってあるだろうから、私は無理に引き留めなかった。

霊夢達は全員、帰って行き、その部屋にはまた私と華扇だけになった。

「・・・貴方の修行はもう必要なさそうね」

「え?」

不意に華扇が口を開いた。

「貴方はもう強くなった。どんな困難でもめげずに、どんな悲しい場面に直面しても気を強く持てているわ。でなきゃアザトース達の手から人々を守る事は叶わなかったし、それに・・・」

華扇は霊夢達が出て行った、半開きになった扉を見つめた。なんて綺麗で、且つ大人びたな眼差しだろう。

「あの子達があんなに笑顔にならないでしょう?」

その事が心の底から嬉しかったようすで、華扇もまた微笑みを顔に浮かべていた。私にはそれはとても艶かしく感じ、あまりにも申し訳ないので、視線を天井へと逸らした。

再び、黒ずんだ木材が視界を覆う。

「あ、でも一つ遣り残した事があるわね」

私はなんだろう?と疑問に思ったが、特に追求しようとはしなかった。何かが軋んだ音が聞こえたので恐らく華扇が椅子から立ち上がったのだろう。私は性懲りも無く天井を見つめていた。

・・・しかし、次の瞬間には天井は見えなくなっていて、代わりに私の目の前には彼女の顔があった。

「・・・!」

私は目を瞠ったが、華扇は妖艶に微笑みながら、私を見つめていた。

お互いの目と目が合う。私は、華扇が私の上に馬乗りになっている事に勘付いた。だが例によって、動く事は出来なかった。

彼女の頬が、綺麗な薄紅色に染まっていく。

「介渡・・・」

妖しく呟くと、華扇は自身の顔を私の顔に近付けてきた。

程無くして、両者の顔の距離は一センチ程度になる。華扇の荒っぽい吐息と自分の息、二人の吐息が絡まり混ざり合うのを実感し、今にも彼女の鼓動が聞こえてきそうだ。恐らく彼女の心臓は、高揚しているのだろう。

・・・しかし、私の鼓動が聞こえる事は無いだろう。何故なら、私の心臓はちっとも高鳴っていなかったからだ。

「・・・やめた方がいい」

私はとうとう忠告した。しかし華扇は笑みを保ったままだったので、追加で言葉を繋げた。

「私は確かに女性を好み変態と言われる面もあるかもしれない。でも私は、今君がやっているような行為には遠慮する。私は女性を愛するかもしれないが、恋愛する事は殆ど無いし、ましてや枕を共にするような関係は持たない」

華扇の顔が真剣な表情に変わる。私は仕上げと言わんばかりに、最後の言葉を発した。

「私は長い間苦楽を共にし、本当に愛した者としかそのような気にはならない」

「そうですか・・・」

華扇は顔を離し、残念そうな顔で溜め息を吐いた。その姿はまるで「物足りない」と言っているようなものだった。

しかし、私は今の行動の真意は察していた。私は華扇が私の体の上から退き、椅子に座り直すタイミングを見計らって言葉を継ぎ足した。

「それにどうせ、今のは私を試していたんだろう?」

華扇の体が一瞬静止する。かと思うと、彼女の顔は悪戯な笑みへと変わっていった。

「バレてしまいましたか・・・。今のは貴方の『欲望を自制出来るか』の試練だったのだけど・・・。どうやら、問題無いみたいね」

やっぱり。私は同じように悪戯な笑顔で華扇を見返した。

「これでもう本当に、私が危惧するものはないわ。強いて言えば貴方の体の具合かしら?」

「一ついいかい」

「何?」

「私に本気でイイ事しようとは思わなかったのか?私はそんなに、魅力ないのか?」

「そうね・・・・・・ふふっ」

「お!脈あり!」

「なんて、嘘嘘。残念だけど、死んでも御免だわ」

「ガーン」

「それに貴方だって、どうせ冗談でしか言ってないでしょ」

今度はこっちの考えが見透かされ、私達は笑い合った。