yahhoi's novel.

私ことやっほいの小説置場です。オリジナル小説に加えレギオンズの皆様との小説、堕華さんとの提携小説や東方二次創作等を書いていきます。

東方修行僧 78

神霊は信仰の大きさに比例して力を増し、また神霊に非ずとも周囲に神として捉えられ信仰を集める事に成功すれば、その者は神としての力を手に入れることが出来る。

徳川家康菅原道真がその例だ。徳川家康は死後東照大権現として祀られ、菅原道真は学問の神様として北野天満宮に祀られている。特に菅原道真への信仰は現在でも廃れず多くの人に崇められている。

だが信仰には限界がある。神はその惑星、世界の生命より多くの信仰を勝ち取る事は出来ない。普通に考えれば容易に想像つくだろう。

しかし、もしもだ。もし大量の世界から信仰を獲得する事が可能だと仮定すればどうか。

無論、想像もつかない程の力を持った神が誕生するに違いない。

今の介渡は、まさにそれだった。

「負担が大きいな・・・。飛翔してるだけでもかなり体力を使う」

介渡の背中、肩甲骨から翼が生える。その色は牛乳のように純白だった。

やがて介渡の体の隅々から神々しい光が放たれる。眩く、美しい光だった。

「本当に、あれはどういう事なの!?一体何があったらあいつが神になるの!?」

目を丸くするリルアと対照的に、白夜は隣で冷静さを見せていた。

「介渡ばかり見てないで周り見なさいよ」

白夜に促されるままにリルアが辺りを見渡す。已然としてそこには空間が歪んだ幻想郷の姿が映し出されるのみだったが、リルアはそれを見てようやく理解した。

「今まで介渡が訪れてきた世界全てを繋がってるの・・・っ!?」

ご名答、と言わんばかりに白夜が不敵な笑みを浮かべた。

感謝はやがて偶像化して伝説となり、伝説は信仰の元となる。介渡の四千年に渡る異世界旅行で介渡を敬う者は数字では表せられないだろう。それ程の量の信仰が今、幻想郷に集まっているのだ。

「今幻想郷はどの世界にも属さず、どの世界とも繋がっている不安定な存在になってる。だから介渡への思いが繋がっているの。でも・・・・・・」

白夜は不安な表情を見せた。

「このギリギリの状態を保ってる霊夢と紫にはかなりの負荷がかかってる筈。それに介渡自身にも負担がかかるのは既知の事実よ・・・」

ーーどうするの?介渡

その場に居た全員が何もせず、ただ介渡を見つめていた。

介渡から出る光は益々輝きを発する。

不意に、介渡の手が動いた。

「全員救ってやる。君も、幻想郷も、・・・レイルも」

介渡の手の平に光が集まる。そして光と一緒に、世界が吸い込まれる。その突風は宇宙生物だけでなく、白夜達ですら飲み込もうとしていた。

「ちょ、介渡!?」

白夜達はその場に留まろうと必死だった。だが介渡は、そんな仲間を無視して吸収を続ける。

しかしそれは決して、白夜達を利用しようとしている訳では無かった。

「そろそろいいか」

介渡は吸収を停止した。巻き込まれそうになった宇宙生物達が力なく空中を漂う。

「今からレイルの世界の主軸を入れ替える・・・ッ!パラレルをメインにするぞッ!!」

 

そこで白夜達は不思議な体験をした。突然辺りが真っ暗になったかと思うと、次の瞬間には幻想郷とは違う世界が見えていた。戦火が絶えない、真っ赤な世界。

ここはレイルが居た世界だった。周囲には他の神殿の面々とアザトース達も居て、人々はその存在に気付いていないようだった。

「助けてくれーーッ!」

「世界は終わりよ・・・。終わるのよッ!!」

怒号やら悲鳴やらが犇く。

その世界の中で、介渡は立っていた。

「介渡、一体何を・・・?」

パラレルワールドって知ってるかい?」

介渡は真剣な表情で語り始めた。

「戦火絶えないこの世界が‘‘主軸’’だと仮定すると、「もしかしたらこんな未来があったかもしれない」という可能性の世界、その主軸と並行する世界を『パラレルワールド』と呼ぶ」

「まさか・・・」

「今からこの力を使って、主軸を戦争が回避される平行世界と入れ替える!」

そう言うと介渡は腕を突き出し、ありったけの力を込め始めた。

たちまち世界が、先程と同じように歪み始め昼夜がぐるぐると回り始めた。

「ああ・・・世界が・・・」

「終わるんだ・・・俺達全員・・・」

人々はそれを終焉と捉えた。だが実際には、それは一人の神による‘‘救世’’なのだ。

そして介渡はその‘‘救世主’’に相応しい佇まいをしていた。

介渡は厳かに言葉を発した。

「『救世「主軸改変」』」

めまぐるしく回る昼夜はあまりのスピードに判別がつかなくなり、赤に染まった世界は徐々に割れ始める。

介渡は苦しかった。通常生物が手を出してはいけない禁忌に触れ、その負担が圧し掛かっていた。だが介渡は屈しなかった。人々を救う為、偉大なる男の為、・・・ヴァルドから依頼された任務の為。

「うがアアアアアァァァァァァァァァアッッッ!!!!」

 

白夜が瞬きした次の瞬間には。

世界は、青かった。

「な、何が起こったんだ・・・?」

人々は混乱した。無理も無いだろう。先程上がっていた火の手は全て消え去り、空には元通りの、いや、前よりも綺麗な青空が広がっていた。

壊れた建物は直され、死んだ人も蘇っていた。

混沌とした世界と平和な世界が、見事に逆転したのだ。

「た、助かった・・・ッ」

 

『うおおぉぉぉぉぉぉおっ!!』

 

人々がそう認識した瞬間、世界を歓声が包み込んだ。

踊り狂う者、泣き叫ぶ人、はたまた肩を組んで歌を歌う者。

人々は喜びを分かち合った。

「・・・ん、何だ・・・?」

その中心、介渡の足元で一人の男が起き上がった。

そしてその光景を見た瞬間、涙が堰を切って流れた。

やっと見る事の出来た、平和。

「俺、生きて・・・っ」

「良かったな、レイル」

「ッ!!?」

介渡がその名を呼ぶと、その男、レイルは振り返った。

「か、介渡・・・・・・」

まるで神のような姿になった介渡と白夜達、その横で静かに消え行くアザトース、宇宙生物達。

それを今認識出来ているのはレイルだけのようだった。

「どうしちまったんだその姿、変な趣味に目覚めたか?」

「色々あったんだよ。そんなことより君の求めていた平和だ。存分に楽しめよ」

「・・・ありがとう。本当にありがとう・・・」

レイルは顔をぐちゃぐちゃにしながら、笑った。醜くも晴れやかな顔だった。

そしてそっと、手を差し伸べた。

介渡も意を汲んでその手を握る。

「ヴァルドをよろしくな。たまに遊びに来いよ」

「いつしかいってやるさ。こんな平和で美しい世界、幻想郷の他に無いからな」

二人は共に、お互いの拳を強く握った。するとたちまちレイルの視界から、介渡の姿がぼんやり消えていった。

「じゃあな」

「元気で」

とうとう見えなくなった。レイルは少し感慨にふけると、平和を喜ぶ和に、子どものように駆けていった。

 

ーーこうしてレイルの世界からニャルラトテップの脅威は消え、人々は平和を喜び合った。

レイルが部下達に恨まれた事実も消え、彼とその仲間達は世界を救った英雄として人々から賞賛と尊敬の目を向けられた。

その後蘇った妻と子どもと再会したレイルは彼女らを抱き、未来永劫の幸せを確約した。

世界は、救われた。

 

 

 

 

 

東方修行僧、完。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

介渡達は幻想郷へと戻ってきた。

ボロボロになって帰ってきた英雄達を、幻想郷の民は、賛嘆の意を持って迎えた。

霊夢魔理沙、紫といった者達が歓迎する中で、白夜はふと、幻想郷の光景に目を向けた。

レイルが救われた事で幻想郷とレイル、アザトースとの繋がりは無くなり荒らされた幻想郷の自然もすっかり元通りになった。

白夜は肩を貸している介渡に呟いた。

「見てよ介渡・・・。幻想郷がまた美しくなった・・・」

介渡は疲弊し切っていて、反応する暇は無い所か意識すら無かっただろう。それでも確かに、介渡はその言葉を聞いて微笑んだ。

大した負傷を負わなかった白夜達はそのまま紅竜玉神殿へと帰り、介渡は大至急永遠亭へと運ばれていった。