東方修行僧 77
「うぐっ!?」
介渡の肩にアザトースのレーザーが貫通する。
「大丈夫介渡!?」
白夜は介渡を憂慮しつつ、そのカバーに入る。
介渡は白夜に肩を貸りつつも、欠損した肩の修復を始めた。
「すまないな、私が足を引っ張ってるようだ・・・」
「今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ!早くここを切り抜けて、皆と合流しないと!」
「・・・そうだね。弱音を吐いてすまない」
「大丈夫。帝国最強の武神がいるんだから、大船に乗った気でいなさい!」
介渡は修復を完了し、また宇宙生物の撃墜を始める。一体既に何匹落とした事か、それでも敵は絶滅覚悟で飛び掛ってくる。
介渡は共に戦ってくれる仲間がいる事に、一つの安心感を見出していた。自身を守り、目の前で戦ってくれる存在を。
「白夜・・・・・・」
介渡はいつしか、その名を口にしていた。
「何っ!用事なら後で・・・」
「ありがとう」
「・・・は?」
またふざけているのかと白夜は介渡を見たが、その目には何の含みも無かった。ただ、純粋に自分を見つめる眼があっただけだ。
二人は一瞬見つめあった。本当に一瞬だが、その時間は二人にとっては十秒にも、二十秒にも、とても長く思えた。
白夜が介渡の気持ちに応えるように、口を開いた。
「・・・キモいからやめてくれない?そういうの」
「え~・・・」
もしかしたら恥らってるだけなのかもしれなかったが、確かにその笑顔には相手を嘲るものが見て取れた。
介渡は肩を落とした。
「何かいい感じの雰囲気だったのにな~」
「あんたそんなんだから彼女出来ないんだよ。何?それとも私を狙った?」
二人は淡々と宇宙生物を仕留めていく。
「まさかー、そんな訳無いよ。まあでも確かに君は落としたくなるぐらい可愛いと思うけどさ」
「そういうのを何の恥じらいも無く言うところも良くないわよね?それで、何で落としたくなるなら落としてみようと思わないわけ?好みじゃない?」
「馬鹿だかrぐふおッ!!?」
白夜は介渡の腹に全力で膝蹴りをいれた。介渡のカルビンが砕け散る。
「平気で煽てて平気で罵るのね」
駄弁りながらも白夜は炎や氷柱、弾幕等を飛ばす。
それら全ては的確に宇宙生物を射抜いていた。
「ほら、ふざけてないで仕事しなさいよ仕事」
「君に言われるんだから私も余程なんだな・・・」
腹に重く圧し掛かる痛みに耐えながら、介渡も多様な形状のカルビンで宇宙生物を切り裂く。それでもまだ、津波の如く宇宙生物が押し寄せていた。
(ま、感謝したいのは本当なんだけどね・・・・・・)
介渡は白夜を見て、少し頬を緩ませた。
「ちょっと、そこの良い雰囲気のお二人さん?」
何処からともなく声が聞こえた。二人は一瞬、警戒したが、その声色からすぐに声の主を理解した。
スキマから、紫が現れた。
「そんなんじゃないわよ。勘違いも甚だしいわ」
「こればっかりは私も同意だ。第一、私は女性を愛でるのは好きだが恋愛には興味ない」
「そうなの?初耳だわ」
「言う必要も無いだろ。ていうかこの忙しい時に何の用だい?紫」
「クリスマスプレゼントよ」
「冗談は顔だけにしてよね」
「私の顔って冗談に見える程残念なのっ!?」
紫は落胆した。最も二人はそんなものを見る暇などなかった。
「本当に早くしてくれっ!」
「いやね、私良い作戦思いついたのよ?聞きたい?聞きたい?」
「・・・」
二人は決心した。こんな奴無視しよう、と。
暫く二人は目の前の状況を処理する事にした。ミ=ゴやらなんやらがゴミのように落ちていく。
「・・・分かったわ。作戦を伝えるわね」
紫は諦めて説明を始めた。
「・・・成る程、賭けてみる価値は大いにあるな」
先程の侘びなのだろうか。宇宙生物の撃墜にいつしか紫が参加していた。
「それで?いつ決行するんだ?」
「既に霊夢は準備を終えているわ。いつでも大丈夫」
「リルアやリヴェンの事を考えると早い方がいいわ。暫く私が食い止めるから、それまでに終わらせて」
「恩に着る白夜。そういうことだから紫、早めに始めてくれ」
「分かったわ」
紫が彼方へ消え、スキマは閉じる。白夜は介渡から離れ、少し前進した位置で宇宙生物達を迎撃した。
一人となった介渡は目を伏せて瞑り、来る時に向け傾注した。
その瞬間介渡からは一切の刺激が遮断された。
紫は霊夢の居る洞窟に戻った。
「始めるわよ、準備はいい霊夢」
「いつでも大丈夫よ」
霊夢は両手を地面に当てながら座っていて、周りには意味不明な文字が羅列している魔法陣が展開されていた。遠くでは魔理沙が固唾を呑んで見守っている。
「じゃあ・・・やるわよ」
「・・・今から一時的に、幻想郷の境界を曖昧にするーーっ!」
「ん?・・・何だ!?」
それは最初は小さな変化だった。幻想郷の境界に罅が入った。それは次第に亀裂となり、遂には割れ目となった。
そしてリヴェンは見た。その割れ目が広がり、歪んだ空間が広がる幻想郷の姿を。
「幻想郷が壊れてる・・・。一体何が!?」
驚いたのはリヴェンだけではない。リルアが、アジが、そしてアザトースやその他宇宙生物までもが動きを止めた。
各々がその光景に目を泳がす中、白夜だけは介渡を見つめていた。
「何よ・・・これ・・・」
見つめていた、のではないのかもしれない。白夜は介渡を見て、はたまたその雰囲気を肌でひしひしと感じ、その重圧に縛られ動けなくなってしまったのだ。
それは介渡も同様で、見違えた自身の姿に驚愕を覚えていた。
「これは・・・今なら君に勝てるかな?」
介渡は得意気に白夜を見た。
「それは思い上がりすぎ。でも、長くは続かないんでしょ?」
「それにこいつは負担が大きいな。手短に終わらせないと」
二人はアザトースに近付いていった。あまりの威圧に恐怖を覚えた宇宙生物が退いていった。
ヨグ=ソトースやアザトースまでもが硬直していた。
「白夜、何なのあれ・・・」
リルアが白夜に近付いた。
「何で介渡が、神格になってるのよ・・・・・・ッ!」