yahhoi's novel.

私ことやっほいの小説置場です。オリジナル小説に加えレギオンズの皆様との小説、堕華さんとの提携小説や東方二次創作等を書いていきます。

東方修行僧 71

四千年で得た戦闘としての技術と、十数年で得た能力としての技術。

神の強力な肉体を活かした接近戦を武器とするレイルに、二人が真正面から戦って勝てる筈も無かった。

「どうする霊夢・・・?」

「決まってるじゃない。ヒューマが戦闘技術で戦うならこっちはこっちの長所を活かせばいいのよ」

「じゃあ、やるか?」

「勿論、出し惜しみはしないわ」

二人は小さく頷くと、レイルの方を向いた。その様子を見たレイルは、やれやれといった表情をした。

「お前らは女なのに、男顔負けの根性してるんだな」

「生憎、幻想郷は男より女のほうが強いのよ」

魔理沙は魔法で手元に箒を引き寄せると、穂先にミニ八卦炉をつけて軽々と跨った。

「時間制限は無しだぜ霊夢

魔理沙霊夢に話しかけるが、霊夢は目を閉じて何かをするのに集中していて返事をしなかった。魔理沙は少し微笑むと、猛スピードで上空へ舞い上がった。

「逃げるのか?なら追いかけなければな・・・」

「その必要は無いわ」

レイルは、霊夢の方を見る。

「まだ策があるって・・・」

そこでレイルは、言葉を失った。霊夢が不気味な青白いオーラに包まれ、まるで海中に漂うかのように空中に静止していたからだ。

霊夢は暫く集中したのち、目をこれでもかと見開いた。真っ白に光るその目は、真っ直ぐ、力強くレイルを見つめていた。

そして霊夢は、唱えた。

「『夢想天生』!!」

 

 

「・・・何だ?それは」

だが、辺り一帯に何か変化が起きた訳ではない。そして霊夢自身に何が起きた訳ではなく、力が増強した様子も無ければ、その容姿が変わった訳でもない。

一体今の術に何の意味が?だがレイルは知らなかった。その夢想天生という技が博麗霊夢、いや、博麗の巫女代々に伝わる史上最強の技だという事を。

「ヒューマのように戦い慣れしてないからって嘗めないでよね。私はあいつがここに来てから、一度だって負けた事が無いんだから」

「ふん。弾幕ごっこと戦争を一緒にするなアッ!」

「何故博麗の巫女が数多の妖怪相手に敗北しないか、それを教えてあげる」

そういうと霊夢は両手を広げ、態と無防備な状態を作った。それは何処からでもかかってきなさいという余裕の暗示でもあった。

(嘗めてるのはどっちなんだ・・・)

レイルは腕を組んだ。そして目を瞑った。そこから攻撃を仕掛けてくるなど、人間には到底思えないだろう。

だが、次の瞬間にはレイルは霊夢の目の前に立って攻撃のモーションを開始していた。それはもう何度目かの事だが、霊夢に対応する事は出来なかった。

・・・否、霊夢はそんな事お構い無しに、ただ茫然と両手を広げていた。

「死んでも後悔するなよッ!」

鎌の形に変異した腕でレイルは、霊夢の喉元を狙った。

 

スカッ。

「ッ!?」

その腕は空を切った。霊夢の体をすり抜けて。

(何が起こったんだ・・・!?)

霊夢は依然として両手を広げたままで、特に何かをしたような素振りは無い。

「一体何が・・・」

「言ったでしょ?嘗めないでって」

『夢想天生』。自らの体を‘‘空’’へと飛ばし実態を無くす技で、この状態の霊夢は如何なる攻撃も受けない。それは『空を飛ぶ程度の能力』を持つ博麗霊夢だからこそ使え、それはどんな達人級の人間でも、吸血鬼等の妖怪でも、誰であろうと打ち破る事は叶わなかった。

それは宇宙神話でも強者の部類に入るニャルラトテップの肉体を持つレイルですら同様だった。

 「これが博麗の巫女・・・」

「『神霊「夢想封印 瞬」』!!」

そして霊夢は消えた。それは夢想天生のような意味ではなく、今度は視覚から外れるという意味でだ。

霊夢は瞬間移動をしたのだ。それは生まれながらにして霊夢に、潜在的に備わったものであった。霊夢はレイルの背後に出る。

そして多様な弾幕を周囲にばら撒く。

「くそっ!」

数が多い。一見余分にも見える無数の弾幕はそれぞれ避けにくいように精密な計算をした上で霊夢が散布しているのが、レイルには分かった。

(だがこれくらいなら・・・)

圧倒的な瞬発力を持つ自分ならかわせる。そう思ったのが運の尽きだったのだろう。

霊夢は今度は別の場所に瞬間移動した。

「しまっ・・・」

レイルが認識するよりも先に霊夢弾幕をばら撒きまた消えていく。

消える、ばら撒く、消える、ばら撒く。いつしかレイルは、多数の弾幕に囲まれていた。

(こんなん避けられないじゃねーかっ!)

その弾幕の密度は到底体が入るような余地は無く、レイルはまさに袋の鼠と化した。これ程の弾幕、全てを喰らってしまえば普通なら死んでもおかしくない。

(普通なら、な・・・!)

だが、レイルはうろたえたりはしない。レイルは自分の身に宿る、いや、自分の心を宿しているこの最強の肉体なら絶対に耐えられる、そう確信していた。そしてそれは、紛れも無い事実であった。

弾幕はレイルに被弾し弾け飛ぶ。多少の痛みはあったが、そんなものは、レイルにとってどうともなかった。

「いくら攻撃をかわせても攻撃がこれじゃ埒が明かないぜ、巫女さん!!」

レイルは敢えて動かなかった。その様はこの世界の、人間にとって唯一の武器である弾幕が如何に無力であるかを体現しているかのようだった。

そしてそれが、レイルの誤算でもあった。

「私は火力と機動性は専門じゃないの。魔理沙!」

レイルはその言葉に、一瞬首を傾げた。そして魔理沙が逃げた方向、上空を見た時にその言葉の真意をようやく理解した。

視界の先に、何度も自分を脅かした光が見えたからだ。

遠くで魔理沙が叫ぶ。

「『星符「ドラゴンメテオ」』!!」

マスタースパークを上空から大地に向け放たれたそれをレイルが避けるには今一歩遅く、その天からの光の柱をレイルは霊夢弾幕と同じように全身で受け止める羽目になった。

「ぐああぁぁぁぁっっ!!!」

レイルの怒号が、響く。

 

 

 

 

 

全てが終わった時、倒れていたのはレイルだった。

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

霊夢は夢想天生を解き、地面に足をついた。

魔理沙は上空より箒で降り立ち、霊夢同様、地に足をつける。

「・・・どうだ?これが私達の力だぜ」

「ふ・・・見事だった・・・。これで俺もヒューマも、安心して逝けるってもんだ」

「ボス・・・」

近付いてきたのはヴァルドであった。

「ヴァルド・・・お前に俺の尻拭いを頼みたい。この地の者達と協力して・・・アザトースを討つんだ」

「しかし・・・」

ヴァルドが語尾を濁したので、レイルは「何だ?」と問いただす。

「俺はこれからどうすればいいんですか?貴方が居なくなった今後、俺は何の為に生きれば?」

「・・・そんなの決まってるじゃないか」

 

ーー自分の思うが侭に、生きればいいさ・・・。

 

その言葉が最後だった。

レイルは四肢を大地に投げ出したまま動かなくなった。

「ボス・・・いや、父さん・・・」

ヴァルドは目には涙が一杯に溜まっていた。が、それを零す事は無かった。

「父さん、俺、強くなるよ・・・。そして、誰かの為に命を張れるようになりたい・・・!」

ヴァルドは男としての闘志を胸に、育ての親に約束するのだった。

霊夢魔理沙は揃って溜め息をつき、笑った。

「それがあんたの思うがままなの?」

「また親父に心配をかけて、とんだ親不孝だぜ」

そう言う魔理沙は一瞬、自分の父親が脳裏によぎった。

(私も同じ、か・・・)

魔理沙はヴァルドの姿と自分を照らし合わせた。こいつもこれから色んな困難を目の当たりにする。自分だってそうだ。

強くならなければな、と魔理沙は思った。

「すまない霊夢魔理沙。少しだけ外すよ」

「ええ、自分の気持ちに折り合いをつけなさい」

ヴァルドは感謝の意を込めて軽く笑うと、森の方向へ歩き出し、木に手をついて俯いた。自分の親しい、自分にとって父親も同然の者の死には、当然だが、耐え難いものがあるだろう。

二人はその様子を暫く見つめると、ヒューマの亡骸まで歩いた。

「ヒューマ・・・」

ヒューマにとっては無念だったろう。志半ばで倒れたヒューマの顔は凄惨で、悔しさが滲み出ているようだった。

「そんな怖い顔しないでよ。私達で幻想郷を守るからさ」

霊夢は震える手でヒューマの瞼を閉じ、口元を歪ませた。

「あんたは安心して、笑ってあの世に逝きなさい・・・」

霊夢が手を退かす。後に残ったヒューマの顔は霊夢の言う通り笑っていた。その笑顔は霊夢が作ったものに違いない筈だが、二人にはそれが、ヒューマが本当に心の底から笑っているように見えた。

涙が二人の頬を伝う。二人の顔も同様に笑っていた。それはヒューマに対する感謝の気持ちとヒューマを心配させまいという二人の気配りからなる、ささやかな手向けだった。

ーー暫くして、二人は顔を見合わせた。

「さて、多くの犠牲が出てしまったこの戦いに『終止符』を打ちましょうか」

「そうだな、まだ戦いは終わってないんだ。見ててくれよヒューマ!」

二人の顔が、活気付く。

 

 

 

 

 

刹那、二人の首根っこを蔦のようなものが掴んだ。