yahhoi's novel.

私ことやっほいの小説置場です。オリジナル小説に加えレギオンズの皆様との小説、堕華さんとの提携小説や東方二次創作等を書いていきます。

東方修行僧 68

「・・・む?」

レイルはふと違和感を覚えた。

その違和感は何処から来たのか分からない。しかしレイルはその違和感の正体が気になって仕方なく、もう一度ヒューマの体だったカルビンの塊を見た。

そこには大小様々なカルビンの破片が散らばっていた。小さいものはそこらの砂利程のものみなっており、大きいものは丁度人間の頭程のサイズで、その形もヒューマのものに似つかわしく・・・。

「ッ、これはおかしい!」

レイルはヒューマの頭の形をした黒い塊にゾッとした。そう、ヒューマの頭部は今さっき‘‘いとも簡単に砕いた’’筈だった。

それなのに胴体部分が見つからず頭部だけ残されているのはおかしい事なのだ。

(まさか、アイツ・・・ッ!)

レイルは周囲を見渡した。この不自然な状態、小細工は作り出されたものに違いない。ヒューマはまだ生きている・・・その結論に至るに時間は要らなかった。それこそが先程の違和感の正体だったのだ。

(ったくしぶとい・・・次は一体何処からくるってんだ?)

もはやデジャヴとも言えるこの状況にレイルは呆れながら、ヒューマを称えた。人間の身でありながらここまで打たれ強く、粘り強く戦う姿勢に心を打たれた。

(それでこそ‘‘ヒューマノイド’’だ・・・)

何度目かの臨戦態勢を整えたレイルは、体中の神経を研ぎ澄ました。

「・・・そこか!」

レイルは胸元に忍ばせたナイフを気配を感じた方向へ投げた。

真っ直ぐ飛んでいくナイフは近くの木に突き刺さる。・・・と思われたが、ナイフは木の幹を真っ二つにして彼方へ飛んでいった。

「・・・」

そちらの方向を凝視するレイル。やがて残った切り株の中から、ニット帽が生えてきた。

「いやー恐ろしいな。神様はナイフを投げるだけで大樹を木材に変えてしまうのか」

「・・・今度はどうやって生き延びた?」

ヒューマは切り株に手を付いた。どうやらダメージはまだ残っているようだ。

「何、人間誰でも生命の危機に瀕したら反射ぐらいはするだろう」

反射。あらゆる生命が死を拒絶する為に何億年に渡って作り上げた奥底の本能。

「お前の反射が咄嗟に失った部位を再生した、と」

「そうさ。だけどまあ・・・・・・ぐふッ!」

ヒューマは切り株に向かって咳き込んだ。

ーーしかし出てきたのは病原菌ではなく大量の血反吐だった。

「流石にガタが来そうだ・・・」

今のヒューマは、まさに満身創痍だった。

「どうしたヒューマノイド?敵を前に弱音を吐くなどみっともないじゃないか」

レイルは静かに上を見た。

「見ろヒューマノイド。殺伐とした幻想郷のこの姿を。弱音を吐いている場合ではないんじゃないか?」

二人が喋っている間にも紫と霊夢の統制を失った幻想郷は、瞬く間に崩壊の一途を辿っている。空間は裂け、木々は荒れ、美しい幻想郷の情景は今まさに失われようとしていた。

「早くしないとこの世界は愚か、外の世界まで崩壊するぞ?こんな時に弱音を吐くような男なのかお前は?」

「ヒューマ・・・」

紫が辛そうな顔で、ヒューマの方を見た。

「幻想と現実の境界が曖昧になり始めている・・・」

「ああ」

「本当はね、この問題はあなた一人で解決させたくなかった」

「・・・」

「事実、あなたに任せるよりもっと確実にレイルを仕留める方法はいくらでもあったわ。幻想郷は、そういう奴らの集まりですもの。でもあなた、幻想郷に来て、霊夢達と出会って、何て言った?」

ーーもう二度と同じ過ちは繰り返さない。

「!」

「そう言った筈よ。ここでへこたれていたらそれこそ同じ過ちを繰り返すんじゃなくて?」

「・・・確かにその通りだ。私は弱い自分を脱却する為にここに来た。そして今、幾多の苦難を乗り越えてここに立っている」

ヒューマは口元を拭うと、切り株に手をついて立ち上がった。

「残念ながら本当の戦いを知らない幻想郷は、簡単に敵の策にかかり、鬼や吸血鬼といった強力な戦力を同士討ちで使ってしまった。今戦えるのは本当に一握りだけ・・・」

紫は息を切らせながら、一つ一つ、言葉を紡いだ。

霊夢達には荷が重過ぎる・・・後は頼んだわよ、ヒューマ・・・・・・」

紫は最後にそういうと体力を使い果たしたのか、地面に倒れ、静かに眠り始めた。

 

「幻想と現実の境界・・・か。最後に鍵をくれるなんて随分親切じゃないか」

 

「・・・覚悟は出来たか?」

「そうだな。久々に死ぬ気で頑張んないと。最低霊夢達が倒せるぐらいに体力は削がないとね」

「それがお前の覚悟でいいんだな?」

「ま、そういう事でいいさ」

次の瞬間にレイルはヒューマに接近し、水平方向に腕を振った。

「ミンチになっても知らないぞ」

ヒューマはそれを、無抵抗で受けた。