東方修行僧 67
「・・・」
「・・・」
二人は同時に、円を描くように歩いた。
ザッ、ザッ、と砂を踏み躙る音だけが響き、お互いの緊張をより強めている。
「るァッ!!」
先に仕掛けたのはレイルだった。腰を深く曲げ全体重を左足にかけ、そのまま踏み込んで思いっきり駆け出した。
そして次の瞬間にはヒューマの足元に迫っていた。
(早いッーー!!)
レイルはアッパーカットを繰り出すが寸でのところで払いのける。次に足払いが来るがこれも飛び退いて回避する。
間髪入れずレイルは追撃し始める。またもや一瞬の内にヒューマに接近するとそのまま組み付こうと飛び掛ってくる。ヒューマもそれに対応する。
ヒューマはレイルの先程までとの動きの違いに驚きを隠せなかった。
(経験上、妖怪や神はそのパワーや耐久性を活用した力任せな戦い方をしてくる。だからある程度は技術で対抗出来るがこいつは違う!)
もはや動いているかも分からない連続突きに対処しながらヒューマは考えた。
(力だけじゃない、技術まで持ち合わせている。それもとてつもなく洗練されている・・・!隙という隙が全く見当たらない!)
とうとうヒューマは対処しきれず一撃受けてしまう。その一撃はカルビンの体を削り遠くへと吹き飛ばした。
(生命力を吸い込めば吸い込む分強化されていくのか・・・。厄介な相手だ)
ヒューマには付着した砂埃を払う時間さえ無かった。攻撃を払えばまた攻撃され、攻撃を受ければすぐ追撃され・・・と、果てる事のない防戦を強いられていた。
(このままでは力負けする・・・何処か付け入る隙は・・・!)
「フゥーッ!」
レイルの表情は鬼気迫っていた。ヒューマが策を練ろうとした、一瞬の隙を衝いて全力を注ぎ込んだ拳をお見舞いした。
「ッ!」
その拳は、カルビンで形成されたヒューマの首から上をいとも簡単に砕いた。
脳の統制を失った体は力なくその場に倒れこみ、レイルに蹴り飛ばされた。
「どうだ、お前から‘‘意識’’を奪ったぞヒューマ。そんなに体が粉々じゃ、お前はもう体を治そうと思考しようとする事すら出来ないだろう」
ただの塊となったカルビンが虚しく宙を舞う。レイルはそれらを一瞥すると、呆れたように背を向けた。
「残念だ。どうやらお前は俺の期待に値しなかったようだ」
肉塊、否、無機物の塊は地に堕ちた。
(ったく、どっかの山の中腹にいると思ったら今度は博麗神社にいるのかよ!)
ヴァルドは自分のボス、レイルを追い掛けていた。
「くそっ、ボス、アンタだけ勝手に逝かせる訳には・・・・・・ッ!?」
ヴァルドの進行は突如何かに阻まれた。
目の前で少女二人が横たわっていたのだ。
「なっ!」
ヴァルドは急いでその二人の傍に近付いた。
「だ、大丈夫ですか!?」
ヴァルドはそれだけ言うと、暫く反応があるか見た。だが一向に反応が無かったのでとりあえず近くの川の畔まで二人を運んでいった。
パチパチと音を上げながら燃える炎の上には、沸騰した水の入った瓶が吊らされていた。そして川辺では同じような手法で煮沸消毒された水入り瓶がいくつか冷やされていた。
ヴァルドはその内一つを手に取って、二人にゆっくり飲ませた。
「ぷはぁー。生き返るぜー」
「誰だか知らないけどありがとう。おかげで助かったわ」
少女の内一人はだらしなく胡坐をかき、もう一人はきっちり正座をしながら一息ついた。
「礼には及びませんよ。自分の名前はヴァルド。ヴァルド・アルファードと申します」
ヴァルドが自己紹介すると、先に返したのは胡坐をかいていた少女だった。
「博麗霊夢よ、よろしくね」
「霊夢さんに魔理沙さんですか。お二人は何故あそこで倒れていたんです?」
「・・・って事があって、私達はスキマへ飛ばされたの。それで落ちた先がここだったんだと思うわ」
霊夢は先程までの経緯をヴァルドに話した。
「成る程、レイルさんがそんな事を・・・」
「あんたはそいつの部下って訳ね」
「その通りです」
その言葉を聞くと、二人は即座に行動を起こした。
霊夢はすぐにヴァルドの足元にお札を散りばめた。
「動かないで。といっても、その札を少しでも越えると動けなくなるけどね」
どうやら霊夢が投げたお札には、相手を拘束する機能が付いているらしい。
「消し炭になりたくなければ、えっと、えーっと・・・・・・」
だが二人はヴァルドの動きを止めた、その後はどうするかは考えていなかった。言葉に詰まる魔理沙と、とりあえず警戒は怠らない霊夢を見てヴァルドは深い溜め息を吐いた。
「そこまで警戒しなくても何もしませんよ。第一、男性が女性に手を出すなんて常識外れです」
ヴァルドは呆気なく両手を上げ、降参の構えを取った。そんなヴァルドに、二人が拍子抜けしたのは言うまでも無い。
「・・・信じていいのね?」
「勿論です」
「・・・そう」
魔理沙は構えていたミニ八卦炉を下ろし、霊夢は散りばめた札を手元に動かした。
そしてヴァルドは宣言通り、何もしなかった。
「あんた、随分と誠実ね」
「自分は生まれてからずっとレイルさんに育てられましたから」
「どっかの自称紳士さんに見習って欲しいぜ」
魔理沙は呆れたように呟いた。
「・・・ところであんた、ボスのところに行かなくていいの?」
「へ?ああ・・・」
ヴァルドは一瞬固まると、すぐに顔を真っ青にした。
「ああああッ!!急がないと!!!」
「私達もついて行くわ」
三人は博麗神社に走り出した。