yahhoi's novel.

私ことやっほいの小説置場です。オリジナル小説に加えレギオンズの皆様との小説、堕華さんとの提携小説や東方二次創作等を書いていきます。

東方修行僧 65

「幻想郷を守るのが博麗の巫女の役目。ヒューマにばかり任せてられないわ!」

無数に浮かんだ弾幕は一箇所へと集まっていく。その中心点にはレイルがいた。

「ぐぁッ!」

宙に投げ出され無防備になったレイルに成す術は無く、襲い掛かる弾幕を体で受け止めるしかなかった。手、足、胴と弾幕に当たりながらレイルは頭から地面へ落下していく。

その下では魔理沙八卦炉に魔力を注いで待ち構えていた。

「喰らいやがれ!『魔砲「ファイナルスパーク」』!!」

魔理沙の必殺技、マスタースパークがより一層太くし、更に威力を増幅した砲撃がレイルを襲う。

(あれを喰らったらマズい・・・!)

レイルは体を百八十度回転し、すぐに横に飛んだ。標的を失ったファイナルスパークはそのまま遥か上空へと飛んでいき・・・。

そこに現れたスキマの中へ吸い込まれていった。

「何っ!!?」

その様子を見ていたレイルは焦った。八雲紫が次にスキマを展開するとしたら、それは自分の近くに違いない。そうなれば先程のファイナルスパークがスキマを介し襲ってくるに違いない。

(何処からだ・・・?)

レイルは五感を研ぎ澄まし、精神を集中させた。顔が強張り、全身に力が入っていく。

「そこかッ!」

レイルが向いたのは背後、いわば空の方だった。レイルは少しの空間の歪みを感知したのである。予測通りにそこには何処からとも無くスキマが現れた。

(読み通りッ!!)

レイルはスキマの同一直線から逃れた。スキマから出てくるのであれば、そのスキマ以上の大きさのものは出てこれない。

 

だが、レイルはスキマは予測出来ても‘‘中身’’は予測出来ていなかった。

スキマから出てきたのは、手だった。それも真っ黒で人の体とは思えない手。

「ファイナルスパークを警戒し過ぎたな」

スキマの中から出てきたのはファイナルスパークではなく、ヒューマだった。

「しまっ・・・」

レイルが驚いた一瞬の隙で、ヒューマは巧みな格闘術でレイルの首、手足をがっしり捕まえ自由を奪う。

レイルがもがく背後で、スキマが開かれた。

「なっ・・・」

「えっ・・・?」

二人はスキマから射出されたファイナルスパークに飲み込まれた。

「ぐがぁぁぁぁあっ!!」

「ちょっ何で私まで聞いてないんですけどぉぉぉおっ!!?」

二人は方々に散り地面へ急降下する。

レイルは体から煙を出しつつも羽のような物を出現させ滞空した。

一方ヒューマは犬掻きをした後地面に着地した。頭から。

 「いってぇっ!」

ヒューマが地面から顔を出すと、レイルがすぐ近くまで接近していた。

レイルは勢いのままに腕を振りヒューマの首を狙った。

「ふっ!」

上体を後ろに逸らし回避するヒューマ。レイルはすぐに切り替えし、再度ヒューマに襲い掛かる。

二人は何度か組み合ったあと、お互いに後ろに下がった。

「『虚空「創造と破壊の混沌・改』!!」

「っ!まさかあの技!」

レイルが唱えた瞬間、レイルを中心に巨大な嵐が発生した。ヒューマ達を散々苦しめたあの技だ。

しかも、それだけではない。

(威力が上がって・・・、いや、周りの生物のエネルギーを吸い込み、増幅していっているっ!?)

「この技は植物のように周りの生命エネルギーを吸収し、成長していく・・・だがそれは術者も例外ではない」

レイルはいつのまに、台風の目の一番上まで上昇していた。そこからヒューマを見下ろして、ここまで来いと言わんばかりに強い眼差しを向けた。

「この技を使ったからには容赦はしないぞ!八十島介渡!!」

混沌の嵐は更に規模と勢いを増し、辺りにあるもの全てを飲み込んでいく。

「紫!二人を連れて早く離れろ!」

ヒューマが叫ぶが、風が齎す轟音によってかき消される。

(何やっているんだ紫・・・!その怪我でこれに飲み込まれたら一溜まりもないぞ!!)

 

 

紫がスキマを使ってその場を離れないのには理由があった。

霊夢・・・、マズいわね・・・」

「ええ・・・。

 

結界が破壊されてしまっている・・・!

嵐が吸い取るエネルギーは、幻想と現実隔離している博麗大結界にまで影響を及ぼしていた。紫はその結界を持ちこたえさせるのに力を使っていて思うようにスキマが作れなくなっていたのだ。

それだけではない。嵐が紫の生命エネルギーを吸い込み、余計に紫にスキマを作らせる余裕を奪っていたのだ。

(もし作れたとしても、全員が脱出するのは困難だわ・・・。どうしたものかしら・・・)

そう考えている内にも、三人は徐々にエネルギーを奪われていく。

 

「紫、あんたが避難しなさい」

「っ!」

突然、霊夢がそういった。

「博麗の巫女はすぐに代えられる。でも幻想と現実が入り混じってしまえば、その歪みを直すのは百年経っても無理よ。だから紫、あんたが出なさい」

霊夢、でも・・・」

「私もそう思うぜ」

次に口を開いたのは魔理沙だった。

「どうせ私達人間はお前達妖怪より寿命が短いんだ。お前が生きてた方が有意義だろう?」

「うっ・・・!」

「さあ紫、早く!」

「・・・」

「紫!」

「~~~ッ!!!!」

紫は足元にスキマを作った。人間が一人二人しか入らないような、小さなスキマだった。

「それでいいのよ。早く出・・・」

だが、紫のとった行動は霊夢達の意に反していた。

紫はスキマに入ろうとせず、霊夢魔理沙の手を掴んだ

「えっ・・・」

「その先は博麗神社の麓の湖に繋がってるわ。事態が収まったら戻ってきてね」

「紫!あんたまさか・・・!」

「確かに博麗の巫女は代えられる。人間はすぐに死んでしまう。でも・・・」

紫は顔を上げた。

霊夢魔理沙。貴女達は私の一生で一度しか出会えないのよ・・・!」

紫は性に合わず、目に涙を浮かべていた。

暫く二人を見ると、紫は二人をスキマへ落とした。

「ちょ、あんた!」

「ごめんなさいね霊夢。私はこう見えても頑固なのよ」

不器用に笑って見せる紫。その目には、怒りを露わにした霊夢の表情がくっきりと焼きついていた。

紫は力を使い果たし、その場に座り込んだ。二人を飲み込んだスキマは閉じ、跡形も無く消え去った。

そんな紫を、無情にも、混沌の嵐は飲み込んだ。