東方修行僧 62
二人の拳はぶつかった瞬間に衝撃波を生み出し、周囲に波紋を広げていった。
じりじりと小刻みに揺れる二つの拳は、徐々にヒューマノイド側に近付いていた。
(先程よりパワーが上がっている・・・ッ!?)
ヒューマノイドは直感した。
「~~~ッ!!」
このままじゃ押し負ける、そう感じたヒューマノイドはわざと拳を手前に引いた。
「おおッ!!?」
レイルは前に力を入れていた分、勢い余って重心が前へ出てしまう。前屈みになったその状態は、完全に隙となっていた。
ヒューマノイドは反転しながら、もう片方の腕でレイルの顔面目掛けて肘打ちを繰り出した。
だが、レイルはそれを読んでいた。
「ふんっ!」
「なっ!?」
レイルは腕を交差させ、ヒューマの攻撃を受け止めた。ヒューマが此方の自分を崩しに掛かる事を予測したのだろう。
そしてレイルは、受け止めた腕を引っ張った。
「がアアァァァァァァアッッ!!」
引っ張ると同時に、魔力を収縮した弾を手の平に発生させた。
(やべっ!!)
魔弾にどんどん吸い寄せられていくヒューマ。その魔弾は煮え立った鍋のようにグツグツ音を上げていた。その距離僅か十センチーー。
「うおおおっ!!」
刹那、ヒューマは思いっきり地面擦れ擦れな程上体を反らした。おかげでヒューマは魔弾を紙一重でかわした。
「無駄無駄ァッ!!」
だが、レイルの攻撃は止まない。避けられるや否やすぐに魔弾を垂直に振り下ろした。
「喰らいやがーー」
だがその攻撃はヒューマに当たる事は無かった。
「ぬおっ!!?」
突如後頭部に激しい痛みが生じ、レイルは前のめりになる。
「ちょっと、私達を忘れないでくれる?」
「くそっ・・・」
「余所見してていいのか?」
その言葉を聞いた瞬間レイルはヒューマを睨んだが、遅かった。
「後ろかっ!?」
「後ろだ」
「ぐほあっ!」
ヒューマは素早く回転し、レイルの脇腹に回し蹴りを叩き込んだ。
そしてレイルは驚愕する事になる。
「ッッ!?」
突然、辺りが紫色一色となったと思うと、特に何も無く元の風景になった。
だが、横に吹っ飛んでいた筈の体が下方向に落ちていた。
「はっ?」
訳も分からず頭から落下するレイル。そして落下する瞬間、今度は目の前が眩い光に覆われた。
「マスタースパークッ!」
今度は巨大なレーザー砲がレイルを飲み込んだ。
「へっ!やってやったぜ!」
「中々良い連携じゃないの?」
「このぐらい当然よ」
「・・・言った筈だ。四人で戦うと」
レイルの周囲は音も無かった。
「どうせ今ので終わりじゃないだろ」
「・・・」
「くくく・・・
ーーっ!」
「「「「ッッ!!?」」」」
その場に居た全員が、凍りついた。
‘‘それ’’を見た瞬間、ヒューマは後退した。
‘‘それ’’から振り下ろされる、鉤爪。
ヒューマの両手が、弾け飛んだ。
「あ・・・・・・ぁ・・・」
今すぐヒューマに駆け寄りたい三人だが、体が動かない。
謎の恐怖感が、行動を遮っていた。
「何で・・・体が動かない・・・!」
「ええ・・・私もこんな体験初めてよ・・・」
妖怪の賢者とも評される八雲紫ですらも、目の前の物に身震いせずにはいられなかった。
「どこから来るんだ、この圧迫感は・・・っ!?」
「があああっっ!!!」
咄嗟に繰り出された攻撃にヒューマは硬化する事も叶わず、右足を失う事となった。
(何だこの桁違いのパワー、スピード・・!)
「ハァー・・・」
(横から来るッ!)
ヒューマは足を再生する事より、全身を硬化する事を優先させた。ヒューマの全身が真っ黒に染め上がっていく。
全身が硬化し終わると同時に、横からの攻撃に備えるヒューマノイド。
当たった瞬間に右腕が弾けた。
「~~ッッ!!!」
険しい顔で右腕を見るヒューマノイド。そのまま上半身をーーとまではならず、体を捻って回避した。
(いとも容易く粉砕した・・・!)
右肩に激痛が走る。その痛みに耐えながら前を向くと、真っ黒い影が物凄い速さで迫ってきた。
(くっ!)
高速で繰り出される突きを回避し、ヒューマは頭部めがけて蹴りを入れた。
「!!」
見事命中。黒い影は粉塵を巻き上げながら地面に叩きつけられた。
「ハァ・・・ハァ・・・(今のは・・・レイル、なのか?)」
「うぐ・・・ウガァァァァァアッッ!!」
その黒い影は、苦しそうに呻き声を上げ始めた。
「今度は何だ・・・?」
徐々に砂煙が晴れていく。太陽の光を受け、徐々に姿を現すその黒い影は・・・。
「まさか、君・・・」
「見られてしまってはしょうがない・・・」
そう言って砂煙の中から出てきたのは、レイルであった。レイルであったが、その体の所々が人間とは思えない、異形の形をしていた。
遠くの方で霊夢達も怪奇的な眼差しを向けている。どうやら自身の体を制御していた恐怖からは抜け出したようだ。
「それが君の正体・・・ニャルラトテップなんだね・・・」