東方修行僧 61
「ぐがァッ!!?」
突如上空から放たれた黒い塊は見事レイルの頭部に命中、レイルは困惑と驚愕、そして痛みを覚えた。
もしこれが凡人だったら、頭が消し飛ぶ威力である。
「な、何だったんだ今の!?」
魔理沙は目を真ん丸にしてその様を見ていた。
黒い塊はレイルを薙ぎ払い、地面に直撃した後地中に沈んでいった。そうして出来た穴は、人間の形をしていた。
「霊夢あれって・・・」
「もしかしなくてもヒューマよ。きっと境界を渡って幻想郷に帰ったら上空だったのでしょうね」
「いやいや、ちょっと待て」
突拍子な事ばかりでたじろぐ魔理沙。
「そもそもヒューマはどうやって抜け出してきたんだ?」
「幻想郷にいるでしょ?世界という‘‘境界’’を操る奴が」
「あ、なるほど」
魔理沙はポンと右手の握り拳で左の手の平を叩いた。境界という言葉、そしてしょっちゅう幻想郷とは別の世界に行っている人物(妖怪だけど)といえば、思い当たる節は一つしか無い。
「紫よ。きっと」
「あら霊夢、呼んだかしら?」
突如霊夢の背後に‘‘左手だけ’’現れた。気味が悪くてぞっとする魔理沙だが、霊夢は何ともないようだ。
「結界がほんの一瞬歪んだからすぐに分かったわ。そしてあんたが背後に居たという事も」
博麗の巫女は幻想郷を外の世界から隔離する『博麗大結界』の管理者であって、その結界に小さな歪みが生じるとすぐに分かるのだ。
「その通り、私がヒューマを例の世界から連れ出してきたわ。ただ地面に埋まっちゃうのはちょっと計算外だったわね」
紫は扇子で口元を隠し、「うふふふ」と微笑んだ。すると足元の地面が少し盛り上がりーー。
「ーーっぷはぁぁぁあッッ!!!」
「のわぁっ!?」
あまりに驚いたのか、魔理沙は飛び退き尻餅をついた。霊夢もかなりドン引いている。
唯一紫だけが満面の笑みでそれを見つめていた。
「あら、大丈夫?」
「もしそれが本当に心配しているのなら、君以外が良かった」
そう言いながら一生懸命地中から抜け出そうとする男は、紛れも無くヒューマノイドだった。
「え?何そのサラッとした感じ。復活したんだからもっと大々的に書いてよ」
めんどくさいしそんな文章力存在しない。
「誰と話してんのよ。ってか女の子を下から見るってって常識的にどうなの?」
「私的には友人を上空うん千メートルから落っことす方がどうかしてると思うよ!?」
ヒューマノイドは体を捩じらせながら、何とか右手だけ地表についた。
「それが助けてくれた人に対する言葉なのかしら?」
「君は人じゃないし君のスキマが無くても私は世界を移動出来る。私が四千年間なにをしてたと思う?」
「すれ違う女の子を厭らしい目で見てた」
「否定はしない」
「ていうか何でいちいち私達の足元まで来た。穴から出てくればよかったじゃないか」
「よし、やっと抜け出した」
ヒューマは両手を地面につくと、一気に力を込めて体を引っこ抜いた。体中汚れ塗れである。
「うわ、不潔だぜ・・・」
度重なる辛辣な言葉に若干半泣き状態になるヒューマだが、その半泣きの目はレイルの淡々と観察していた。
「さて、ここまでの経験でいうとレイルは一対一で勝てるような奴じゃない。それが妖怪でも、神でも、だ」
「そうか?私には結構押してるように見えたが」
「確かに手数では圧倒していた。だけどこっちは殆ど一発もらったら終わりなんだ。優勢とは言い難い」
「なら私達四人で相手しましょう」
そう言ったのは霊夢だった。しかし霊夢はレイルとの戦闘で怪我してしまっている。他にも魔理沙がそうだ。
「二人は大丈夫なのか?」
「大丈夫、弾幕ぐらいは出せるわ。あんたとの戦いの傷で弾幕が通るようになってる」
「ならば紫は二人の護衛と、私のサポートを頼む」
「頼まれたわ」
「私が接近戦で相手の余裕を無くすから、周りから弾幕でじゃんじゃん体力を削ってくれ。私への被弾は心配するな」
「「「了解!」」」
「・・・おい、これはどういうことだ?」
レイルが顔を上げるといつのまにか相手の人数が増えていた。そして一番近くには、自身の手によって別世界に転送、抹殺した筈のヒューマノイドが居た。
「スキマ妖怪も居るって事は、そいつに助けられたか。運が良かったな」
「どの道世界を渡って帰っているさ。四千年そうしたように」
「そうだった、な」
レイルが静かに構えた。それを見たヒューマも重心を下に下げる。
「君はどうしても倒れそうにないからね。数で押すことにした」
「賢明な判断だ。いくぞ!」
拳がぶつかり合う音が、幻想郷に響いた。