yahhoi's novel.

私ことやっほいの小説置場です。オリジナル小説に加えレギオンズの皆様との小説、堕華さんとの提携小説や東方二次創作等を書いていきます。

東方修行僧 55

「す、凄過ぎるんだぜ・・・っ!」

霊夢達を安全な所に運んでいた魔理沙は、二人の戦いに魅入っていた。

正確に言えば、ヒューマノイドの戦い方に魅入っていた。

圧倒的に力で勝るレイルに対し、ヒューマノイドは技術で戦っていた。というのも、ヒューマノイドはレイルの力をなるべく殺すように戦っているのだ。

相手が殴打しようとすれば、それを払いつつ体を捻って避ける。

相手が蹴りを入れようものなら、一瞬後ろに下がって相手が無防備になるのを誘うか腕全体を使って払いのける。

すると大抵レイルは態勢を崩し、大きな隙を生む事になる。ヒューマノイドはそこを付け狙い、地道にダメージを与えているのだ。まさに、『柔よく剛を制す』。

普段パワーばかり重視する魔理沙にとって、それは衝撃的だった。ヒューマノイドも十分パワー型だが、彼はそのパワーを最大限発揮する術を知っていた。それは四千年の経験から生み出されたもので、自分では辿り着くのも困難だと分かっていたが、それ故に大きな羨望を抱いた。

「自分より力のある種族とも互角に戦える・・・ほんとすげーな、あいつは」

「それは君も一緒じゃないかな?」

「そんな事ないぜ。私のは所詮『弾幕ごっこ』という遊びに過ぎないんだ。けれどもあいつは本物の戦いで人外と対等に戦ってる。幻想郷のいる奴らには到底出来ない芸当だ」

「ま、幻想郷ではそんな力手に入れる必要なんてない・・・。だからこそ幻想郷は平和なんだ」

「勿論高望みなんてしないさ・・・ん?」

そこまで会話していて、魔理沙は気付いた。

ーー自分は一体、誰と会話している?

声色から察するに相手は恐らく男性だ。そして、このいちいち説明口調で薀蓄を語るような感じは、魔理沙も聞きなれている声だった。

「香霖!!」

香霖、すなわち森近霖之助の姿がそこにあった。

「やあ魔理沙。最近は色々大変だったみたいだね」

「そんな事よりなんでお前がここにいるんだ!?」

魔理沙が驚くのも無理はない。霖之助はいつも全く外出しようとせず、普段は自分が店主をしている道具屋『香霖堂』に籠りきりである。そんな霖之助が、よりにもよってこんな戦渦が巻き起こる状態で外出しているなんて、疑問に思わない筈が無い。

その魔理沙の思いを、霖之助は十分分かっているようだった。

「僕自身よく分からない・・・だけど何故か様子を見に行きたくなったんだ」

香霖は気分屋だからな、と魔理沙が言った。

 

・・・暫く会話が途絶えた。

「それにしても良い動きだ」

「香霖にも分かるのか?」

「素人目で見ても凄いのが分かるって事だよ」

二人はヒューマノイドを見つめていた。相変わらず一進一退の攻防を繰り広げている。

霖之助は二人から目を離さない。争いを好まない香霖が、何故こんなにも夢中になっているんだ?魔理沙霖之助を不思議そうに見つめていた。

魔理沙は彼の本当の名前、知っているか?」

 

「・・・は?」

唐突過ぎる話題の切り替えに、魔理沙はだいぶ返事が遅れた。

「ヒューマの本当の名前?確かに‘‘ヒューマノイド’’って名前はおかしいと思ってたが・・・」

 

 

「教えてあげよう。彼の名前は『八十島 介渡』だ」

「八十島介渡?」

「そう。『幾つもの島を介けて渡る』。島を‘‘世界’’と置き換えると、実に彼に相応しい名前じゃないか」

「それは能力で見たのか?」

「僕は道具の名前しか分からないよ。本人から直接聞いた」

「そうだったのか。・・・良い名前だな」

 

名前は、その人の性格や運命を決定付ける。

それは神道的な意味ではない。名前とは、その親が「こういう子に育って欲しい」という願望によって付けるものだからだ。すると少なからず親はその願望通りの子どもに育てたいと思うだろう。後は簡単な話だ。その願望通りの躾け方を施し、その願望通りに育てる。先に述べたように名前は自分の子に対する親の願望を言葉で簡単に表したものなので、結果として子どもは名前どおりの性格になっていく。そうなるとその性格によって周りとの接し方も変わり、人間関係も変わってくる。例えば無口で他人と話さないような性格だったら友達も作れないし、反対に明るく社交的な性格だったら自然と友達が出来る。そして前者は社会へ出ても周りと上手く連携が取れず何事も上手くいかなくなり、後者は上手く他人を使って事を成功に収める。どんどん成功すればどんどん出世し、逆にどんどん失敗すれば会社から切られ、毎日をぎりぎり生きていくのが精一杯の惨めな生活を送るようになるだろう。つまり名前はその人の性格や未来を暗示し、その人の全てとも言えるだろう。

 

その後、二人の会話が続く事は無かった。

ただ、じっと、この地を守ろうとする男の勇姿を見つめた。