yahhoi's novel.

私ことやっほいの小説置場です。オリジナル小説に加えレギオンズの皆様との小説、堕華さんとの提携小説や東方二次創作等を書いていきます。

東方修行僧 52

「お前・・・とことん俺を馬鹿にするんだな」

「え?君に何かしたっけ?」

「もういい。殺す」

レイルは恐ろしい速さでヒューマノイドに近付いた。その速さに周りの空気が振動し、まるでレイル自身が轟いているような迫力があった。

レイルは勢いのままに拳を突き出す。その拳も空を裂き、ヒューマノイドの眼前にまで迫った。

「!」

だが、その拳が当たる事は無かった。後数センチという所で、ヒューマノイドはレイルの前から姿を消していた。

「一体何処に・・・?」

「いや~その位置だと早苗ちゃん達の所に行けなくて困ってたんだよ」

その声は後ろからだった。

レイルが振り向くとヒューマノイドは先程まで自分が立っていた、まさにその場所に同じように立っていた。

レイル程の力量なら、普通に瞬間移動しようものなら相手の表情の変化、目線、動作等で大抵の予測はつく筈。勿論、レイルは攻撃する際にもその予兆を逃すまいとしていた。

だが、ヒューマノイドにそれは見られなかった。それは相手が熟練者だとかいうものではない。寧ろ戦いの年季で言えば自分だって負けていない筈。しかし予兆を見逃した・・・。

理屈ではない、全く未知のものを体感したような気分だった。

「自分からどいてくれるとは、噂は虚構だったじゃないか」

「お前、いつからそこに・・・」

「あ、時間は止めていないからね。時を止めるのはメイドだけで十分だ」

そう言うとヒューマノイドは同じように慣れた手付きで応急手当を施す。先程まで荒っぽかった早苗とアリスの息遣いが、だいぶ治まった。

「さて、出来れば二人を霊夢ちゃんと同じ所に寝かせてあげたいんだ」

「ふん・・・断る」

レイルは今度は動かなかった。その通りに動けば相手の思う壺である。だが同時にヒューマノイドが「相手が動かないように」誘導しているような気もしていた。

だとしてもヒューマノイドは手負いが三名いる。この状況では負担だろうし、何より自分の能力を越える事は不可能だ、とレイルは思っていた。

だが、先程よりも大きくヒューマノイドの声が聞こえた。

「そいつは感謝する。ほんとに君は根は良い人だったんだな」

それはヒューマノイドが声を大きくしていた訳ではない。ヒューマノイドはいつのまにか、レイルの背後に急接近していたのだ。

「っ!?」

レイルは身構える術も無かった。今攻撃されれば軽くだろうがダメージが及ぶ・・・が、ヒューマノイドは一切攻撃せずに後ろを向いて早苗とアリスを霊夢の所に寝かせた。

レイルは自分が弄ばれているようで、腹が立ってきた。

「どこまでも俺に殺されたいようだな」

レイルは鬼のような、いや、それ以上の気迫でヒューマノイドを睨みつけた。

しかしヒューマノイドは対照的に冷めた表情でレイルを見ていた。

「怒るのは良くないよ?怒ると判断力が鈍るからね」

「判断力?笑わせる。そんなに深く考えなくてもお前に俺を超える術は無い!」

レイルは右足を踏み込み、一気に伸ばした。地面が抉れ、そして、すぐにヒューマノイドの目の前に到達する。

その頃には既に攻撃のモーションに入っていた。

「判断する間もない。気が付いた時お前は肉塊になっている」

レイルは拳を振るった。

 

「その安直な考えが‘‘隙’’を生んでいるんだよ」

その声はまたも背後から。

だが、レイルはヒューマノイドが背後に回っている事に気付いていなかった。

 

「まぁ、隙なんて何時でもあるけどね」

 

 

「・・・は?」

気が付いたら体が吹っ飛んでいた。傍から聞けば大袈裟に聞こえるかもしれないが、今のレイルにはそれ以外の表現方法が見当たらなかった。

痛い。

それは彼にとって何年ぶりの感覚だったろうか。

血がだらだらと落ちてきて、頭を顔を埋めた。

 

「うがぁぁぁぁあああっ!!!」

レイルは顔面を両手で抑えて、叫びだした。それは死ぬほど痛いからという理由ではなく、自分をこんな惨めな姿にしてくれた事に対する、怒りだ。

両手が血で真っ赤に染まる。

「この野郎ォォォォォオッ!」

「一回貰っただけで喚くな。私の仲間はそれの数倍凄惨なのを喰らってるんだから」

ヒューマノイドは耳を塞いだ。いや、スライドヘッドホンを付けているから塞げる訳は無いのだが。

「それにこっちは死に掛けてるんだ」

レイルはまたもやヒューマノイドの目前に現れた。そのまま殴りかかるがヒューマノイドは手馴れた様子で簡単に捌いた。

しかし態勢が崩れても尚レイルは追撃をやめない。右手の次は左手、その次は右足、左足、頭、また右手・・・。

だがヒューマノイドは蚊を払うように全てを払い受けた。

「ほら思考が乱れてる。これは新しいの使う必要も無いかな」

払いながらヒューマノイドは腕を硬化させ、レイルの態勢が崩れた直後に右手をレイルの顔面に突き出した。

「うがぁっ!!!」

「もう一発」

今度は左手。ロンズデーライトの連撃にレイルは千鳥足になった。鼻からぼたぼたと血を流す様子を見ると、鼻の骨が折れているのだろう。

それに留まらず、口から血反吐を吐いた。

「ぐへぁッ!!」

「おいおいどうした。私達はもっと大きいの喰らっているぞ」

「くそっ・・・お前、一体死の淵で何を見たんだ・・・?」

「ようやく頭が働いてきたか。普通真っ先にそれを質問すべきだと思うがね」

レイルが顔に付く血を拭った。

手の平だけでなく手の甲まで赤く染まってしまったが、視界がだいぶ良くなってきた。

その視界の中でヒューマノイドは昂然と顔に笑みを浮かべていた。

「私は過去を振り返り、華扇と行った修行に共通点がある事に気付いた・・・それは、

 

 

『虚』、だよ」