東方修行僧 44
「ん・・・ここは?」
ヴァルドは目を覚ました。そこは全く知らない湖の畔だった。
「俺は確かボスと話してて、それで・・・っ、ボスっ!」
ヴァルドは勢いよく立ち上がった。
「ボスは死ぬ気だ・・・。ボスを、止めないと・・・」
ゆっくり一歩、また一歩と踏み出す。しかしレイルに受けた手刀のダメージが大きかったのか、歩みが覚束無い。
そしてとうとうその場に倒れこんでしまった。
(くそっ、脳幹まで衝撃がいって体のバランスが取れない。流石ボスだ・・・)
それでも何とか立ち上がろうとし、地面に手をつける。
「早く・・・、早く行かない、と・・・」
「あの、大丈夫ですか?」
突如声がした。可愛らしい、少女の声だ。
「五月蝿い、どっか行け・・・」
「でもフラフラしてるじゃないですか!」
「問題ない・・・だから俺に構うな」
「でも怪我人を放っては置けませんし・・・」
「五月蝿いなぁ、黙ってろよッ!」
ヴァルドは段々腹が立ち、声をする方向を見て思いっきり睨みつけた。
ヴァルドは暫く動かなくなった。
何を隠そう、一目惚れだった。
「あの、すいません?」
「は、はいっ!?」
声が裏返る。頬を赤らめ、明らかに動揺している様子だった。
「いや、急にフリーズしたからどうしたのかと・・・」
「い、いやいや別に大したことでは・・・アハハ」
緑髪で黄色いリボンで結んだサイドポニー。青いワンピースに天使のような羽。そして何より、『ロリ』。
ヴァルドにはまるで少女が妖精に見えた。
「き、君が看病してくれたの?」
「え?あ、はいそうです!」
「あ、あああありがとう!!後さっきは怒ってごめん!」
「いいんですよ。私、困ってる人見ると放っておけない性格なので」
「そ、そうなんですか(優しい!この子超優しい!)。貴女、名前は?」
「大妖精と言います。貴方は?」
「僕はヴァルド。ヴァルド・アルファードです」
「そうですか、よろしくお願いします!って、何か忘れてません?」
「え?あっ・・・」
ヴァルドはレイルの事を思い出した。
「(しまった!今はこんな事している場合じゃない!)そうでした、すぐに行かないと!」
「え?でも怪我が」
「何の是しき・・・」
ヴァルドは感じた。
異様なまでの冷気を。
そして見た。
対象的な、目に炎を浮かばせているような表情をした青い少女を。
「あたいの大ちゃんに何してんだぁーーーっ!!」
ヴァルドは、暫く動かなくなった。
「・・・今何かが凍るような音がした気が」
「気のせいだよ・・・と言いたいけど霊夢ちゃんの勘は大体当たるからね」
「否定は出来ないんだぜ」
「氷の妖精辺りが何かしたんでしょうか?一応あの子も人間にとっては危険な存在ですからね」
「あのバカにやられる人間はそうそう居ないけど・・・」
霊夢、ヒューマノイド、魔理沙、早苗、アリスの五人は敵陣に向かいながらも他愛のない会話をしていた。
「永遠亭は負傷者の治療で手一杯。紅魔館はレミリアちゃんと咲夜ちゃんの看病。幻想郷最強クラスの妖怪や神様も呼びたかったんだけどねえ・・・」
「紫が動く事はまず無いわ。あいつ、きっと今頃お茶でも飲みながら見物してるわ」
「諏訪子様と神奈子様もダメです。最近ウチの神社周辺が荒れちゃってその修復に・・・」
「あー白夜ちゃんでしょ。何かすんごい事しでかしたらしいからね、んでその罰で追放されてるんだっけ。今度差し入れでもしてあげよ」
「そんなことよりアリス、怪我は大丈夫なのか?」
「私は怪我して日が経ってるからね。永遠亭の技術もあって体調は完璧だわ」
「よかったねー自機組に割って入れて」
「何の話?」
「何でもないよ」
「あら、そう。後で私の家に来てね」
「はい・・・」
「ほら、着いたみたいよ」
五人の目の前には鋼鉄で出来た中規模程度の建物があった。
周囲は木々で生い茂っているので、場違いで異様な雰囲気を漂わせている。
勿論ヒューマノイド以外の四人はこんなもの見たことがない。
「何これ全部鉄!?」
「すっごい高そうだぜ・・・」
「そうでもないよ?外の世界では普通にある」
「成程・・・これが外の世界の主な建物ですか・・・」
「『主な』ではないけどね。主な素材はコンクリートで・・・おっと、これ以上はよそう。幻想郷の環境を破壊しかねない。施設もこの戦いが終わったら撤去しよう」
「それは聞き捨てならんな」
施設の扉が開いた。
そして中から中年程の男性が出てくる。無精髭が何ともダンディだ。
「君がレイル君・・・」
「会うのは初めてだな。最も、これが最後だがな」
「言葉遊びは沢山だ。最後の幹部はどうした?」
「ああ、あいつか。あいつはクビにした」
「おま、仲間をクビって!」
「アザトースの出現を危惧して避難させたのかい?」
レイルは微動だにしなかった。
「そんな訳無いだろう。使えないから捨てた」
「(心が全く読めない・・・)流石に強敵だなこれは」
「礼は言っておこう」
「それじゃさっさと始めましょ」
「容赦はしません!」
「全力で行くぜ!」
「私今の所何もしてないし、名誉挽回といくわ」
「今回ばかりは私も全力だ」
「せいぜい足掻けよ雑魚共。お前らの全力、軽くあしらってくれる!!!」