東方修行僧 43
ヒューマノイドと華扇。二人の決闘は熾烈を極めた。現在までに至る戦闘技術、パワーを駆使し戦うヒューマノイドに、妖怪ならではの圧倒的な破壊力と耐久性を持って迎え撃つ華扇。二人のいた場所は木々が薙ぎ倒され、大地は抉られ、如何に修羅場であったかが垣間見える。
そして今。ヒューマノイドは片ひざをつけて何とか自分の体を支えている状態だ。
対して華扇はーー
「ごふっ!げほっ!」
「あまり動かないでそのまま寝てて下さい。やった本人が言うのもなんですが、今は安静にしておくべきです」
華扇は仰向けになって地面に寝そべっていた。
二人の死闘は、ヒューマノイドに軍配が上がった。
「アジは今終わってみたいですね」
「敬語は使わなくて良いと言った筈です」
華扇は空を見たまま念を押した。戦う前にああ言った以上、華扇は敬語を使われたくなかった。
「そうでしたね、じゃなくてそうだったね。でも急に師匠にタメ口なんてなぁ・・・」
「紳士的な振る舞いを覚えられたんだから、タメ口なんてあっという間でしょう」
「そんな辛辣な・・・」
ヒューマノイドは地面に腰を下ろした。空は気持ち良い程に晴れ晴れとしていた。
「それと、師匠じゃなくて名前で呼んでください」
「なんででs・・・なんでだい?」
「もう貴方に教える事は何もない、つまり貴方はもう門下を卒業しました。そんな貴方に師匠と呼ばれるのは少しむず痒いです」
「えー・・・」
意外と我が儘なんだなとヒューマノイドは思った。
「じゃ、じゃあ、華扇さんでいいかな?」
「何故今頃敬う必要があるのですか」
「うーん・・・じゃあ茨木?」
「県名と被るので嫌です」
「華扇ちゃん」
「華扇ちゃんですか・・・。って華扇『ちゃん』!!?」
華扇は顔を真っ赤にして、思いっきりガバッと体を起こした。先程のダメージは何処へやら。
「ちゃ・・・ちゃちゃちゃんって!!何故一気にそうなったんですか!?」
「今一瞬考えたでしょ?そーかー、『華扇ちゃん(強調)』がいいのかー」
「こんの腑抜けがっ!!」
華扇は両手の指を噛み合わせた。そしてそれを上から下へ、ヒューマノイドの頭頂部めがけて思いっきり振り下ろした。会心の一撃だっ!
「ちるのふっ!!」
意味不明の叫び声を上げてヒューマノイドは蹲った。
「貴方は本当表ばかり紳士な口ぶりで言ってる事はただの変態じゃないですか!!」
「まぁノただのリだから、ね?そこまで怒る事もないじゃない華扇ちゃ待ってもう頭はダメ本当許して下s」
ヒューマノイドの頭がカチ割れる音がした。
「分かった、華扇ね!華扇って呼べば良いんだよね!?そうするからもうこれ以上頭を叩き割るのは・・・」
「・・・いいでしょう。私も鬼じゃありませんしこのぐらいにしておきましょう」
「ありがとうございます・・・」
「さあ早く行きなさい。まだ戦いは終わってないでしょう?私は少し休憩しますから戦える人を集めて敵のボスとやらを倒してきなさい」
華扇はヒューマノイドに背を向けた。
「・・・そうだね、まだまだやることはいっぱいだ。それじゃ行くとするか」
ヒューマノイドは立ち上がり、体についた汚れを払った。
「行ってくるよ華扇。絶対帰ってくる」
「貴方みたいな男もううちに来なくていいですよ!」
「はは、そうかい。それじゃあ」
スタスタスタ・・・ヒューマノイドの足音が遠くなっていく。華扇はそれを見ずにそっぽを向いたままだった。
「お、そうだ言い忘れた」
ヒューマノイドは歩くのをやめ、振り返った。華扇は相変わらず何処かを見ている。
何か企んだヒューマノイドは敢えて足音を立てないように華扇に近付いた。距離はどんどん縮まる・・・潜入技術の無駄遣いだ。
そして距離がゼロになった途端、ヒューマノイドは華扇の頭に手を置いた。
「ぬおっ!?」
突然の事で変な声を上げる華扇。ヒューマノイドはそのまま撫で始めた。
「ななな何をして・・・っ!!」
「私だけタメ口で君は敬語なんて不公平だ。これからは親友同士ってことでどちらもタメでいかないかい?」
「し、親友・・・!?私は余計な慣れ合いは・・・」
「拒むんだったらこのままずっと撫でちゃおうかな~」
元々Sっ気のあるヒューマノイドの心に火が付く。あろうことか更に強く髪を撫で始めた。
というか強すぎて、撫でているのでは無くワシャワシャしている。
「分かりました!いや、分かったわよ!だから髪をグチャグチャにしないでっ!」
「了解デース」
ヒューマノイドはようやく手を止めた。口元がニヤ付いていてもはや変態にしか見えない。
「全く・・・セクハラですよこんなの・・・」
「ははは、すいません」
「こんなことを全ての女性にやってしまうようでは貴方も少し考え直さなきゃならないようですね」
「それはないさ。華扇だけ特別だよ」
「っ!?」
「ではそろそろ行きますよ。待っても待たなくてもどちらでも構いません」
逃げるようにヒューマノイドは歩いていった。そして十秒もしたら樹海の中に消えていった。
華扇は耳を真っ赤まで染め上げて俯いていた。
(なんですか最後の・・・、まさか私を口説いたっ!?本当にどうしようもない教え子だわ・・・)
そこで無理が祟ったのか華扇はその場に座り込んだ。
(あとで説教してやるんですから・・・だから、絶対に帰ってくるのですよ)
華扇はふっと空を見上げた。
遠くの空は霞がかっていて、今後の行く末に何か不吉なものを感じさせるようだった。