東方修行僧 36
ガシッ。
「ッ!」
今度は華扇の方が背負い投げをした。
(速いッ!)
ヒューマノイドの体が宙に舞う。そして頭から地面に・・・。
ところがヒューマノイドは思いっきり体をくねらせ、体が地面に着くギリギリのところで両足で着地した。
その衝撃は両足の周りの地面が少し抉られたほどである。
ヒューマノイドはそのまま回転し華扇の拘束を解く。華扇は左足で蹴りをいれようとしたが更にヒューマノイドは右手で回転しながら払った。
その手を地面につきヒューマノイドは足払いをかける。見切った華扇は後方に飛び退いた。
「な、なんて迫力だぜ・・・!」
近くで見ていた魔理沙はあまりの迫力に呆然としていた。
(流石師匠。しっかり動きについてきている)
「どうするヒューマ?戦況は四対二。畳み掛けるか?」
「いや・・・それは出来ない」
ヒューマノイドはリーザを見た。二人とも先程の一連の戦闘でボロボロである。
「無闇に突っ込んだらリーザちゃん。君がマインドに少しでも触れただけでその意志を乗っ取られる。そうなると戦況が三対三となってしまう」
マインドの能力は、意志の支配である。そしてそれは相手が弱い程、そして弱っていれば弱っているほど完全に支配するまでの時間は短縮される。多少の傷程度なら大悪魔であるリーザには能力は効かなかっただろうが、ヒューマノイドの分身との対決で彼女は両肩を損傷しており、更には華扇の一撃もモロに受けている。その状態ではマインドに数秒触れただけでゲームオーバーだろう。
(なるべく有利な戦況は維持したい・・・)
ヒューマノイドはマインドの方をみた。不死身とはいえ彼もかなりのダメージを負っている。
失った肉体を新しく作り替えれるヒューマノイドと違い、マインドもといワロドンは一度傷ついた部位を再度接合し直さないと失った部位を取り戻せない。その代わり彼の意志が無くても勝手に繋がるのだが。
つまり地道に攻撃していればダメージが蓄積し、次第に倒れる。耐久だけ高いゲームのボスのようなものだ。
(いけるか・・・?)
とはいえ相手には華扇もいる。マインドばかりに集中していると華扇にやられてしまい、それこそマインドの支配下になってしまう。
戦況は優勢でありながら、一歩間違えるとすぐに劣勢に陥ってしまう。まさに砂上の楼閣だ。
(出来るだけリーザは守っておきたい・・・。となるとマインドをリーザが、師匠を私が相手して魔理沙にリーザの守護及びサポートを頼んでリーザは体力を回復しつつもサポートに専念・・・)
「作戦を立てているのかヒューマノイドよ。しかし状況はいつ変わってもおかしくないぞ?」
「・・・」
マインドの揺さぶりにヒューマノイドは動じなかった。次の瞬間までは。
「例えば・・・さっきから妙な臭いがしないか?何か腐卵臭のようなものが・・・」
「この臭い!まさか!」
いち早く気付いたのは魔理沙だった。魔理沙はこの臭いの持ち主と、一度対峙したことがあった。
「まずい!一旦空中に非難するんだ!」
「魔理沙ちゃん、一体何が・・・」
「いいから早く!」
魔理沙に言われるがままに四人は空中に飛んだ。するとーー。
ゴオォォォォォォオオオオオッッ!!!
突如地面に濁流が流れ、形容し難い煙のようなものが立ち込める。
そしてその濁流の後に現れたのは更地となった森林の後だった。
「ったく、また奴は派手にやって・・・」
呆れるマインド。いつのまにかヒューマノイド達と同じ位置に退避していた。隣には華扇もいる。
やがて液体は自然消滅していった。上から見ると深い雑木林のたった一点だけ全くなにも無く、何かこの世の自然現象では起こりえないような不気味さが際立った。
そしてその正体を知る少女が一人。
「間違いない、今ので確信がついた。こんな一瞬で何もかも溶かしちまうような奴・・・!」
「おやおや、お呼びかい?全く僕があんな簡単に物語から退場するわけないじゃないか」
その正体はあっさり姿を現した。その華奢な体、不気味な笑い声、他人を嘲笑うかのような口調は魔理沙達が散々苦しめられた、敵組織の幹部だった。
彼は名をアシッドといった。