東方修行僧 33
「はっ!」
「ふんっ!」
勇儀と聖、二人の拳が交差する度に莫大な衝撃が周囲に巻き起こり、木々は皮を削がれ、土は身を抉られていく。
二人の勝負は全くの互角だった。このままでは同じタイミングで両者が倒れるか、ひょんな事からどちらか一方だけ生き残るかだった。どちらにしろ、お互いにとって芳しくない状況だった。
(全く、面倒だねえ。誰かがマインドって奴をぶちのめしてくれればいいんだが)
「流石咲夜ね。この私とこうも互角に戦えるとは」
「全く数が多い。これじゃ全員倒れる前に私が倒れちゃうわ」
しかし余計な事を考えると高密度の弾幕に容赦なく打ちのめされてしまう。三人はとりあえず目の前の敵に集中した。
「・・・!」
先に動いたのはヒューマだった。近接ならアジとリーザの絶大な力が来る前に叩けると、本能的に感じたからだ。
しかしアジは、ヒューマが近接格闘術に絶大な自信を持っている事を知っていた。
「ぬんっ!」
アジは向かってきたヒューマではなく、足元の地面を叩いた。たちまち砂埃が舞い上がる。
「っ!」
ヒューマはかなりの実力はあるが、それでも人間である事に変わりは無い。目に砂が入り、たまらずヒューマは目を閉じた。
「おらぁぁぁァァァァアッ!!」
そこをリーザは逃さなかった。自慢の大太刀でヒューマに切りかかる。
「・・・っ!!」
戦士としての勘が働いたのか、ヒューマは見えないはずの斬撃を体を反らしてかわした。
そしてヒューマは砂埃から避けようと後退する。リーザは大太刀を強く振り過ぎた為、追撃は出来なかった。
ヒューマは砂埃ゾーンから脱出する。しかし外は既に黒雲に覆われていた。
「っ!!」
砂埃で目を潰すというのはフェイクで、本当の狙いはリーザと独壇場、雷が発生する黒雲を一瞬の内に作り上げる事だった。
「すまないヒューマ、少し堪えろっ!」
辺り一面に雷が突き刺さる。雷はヒューマに直接ダメージを与えるだけでなく、ヒューマの視界を奪っていった。
「・・・っ!・・・っ!!」
何度も雷撃を受けて尚、ヒューマは倒れなかった。
「リーザ、その程度ではヒューマは倒れん!もっと強い雷をお見舞いしてやれ!」
「くっ・・・」
一瞬気持ちが抵抗したが、仕方なくリーザは本気の雷撃を落とした。
ドゴォオオォォォォォォンッッ!!という豪快な音と共に辺りは閃光に包まれる。
「どうだ・・・っ、!?」
砂埃の中から、ヒューマが立ち上がった。全身を硬化させて雷撃を受け流したのだ。
「しぶといな・・・流石というべきか」
「だがこれならいけるぞ。こちらのコンビネーションに翻弄されているようだ」
アジはチラッと、マインドの方をみた。
「貴様は戦わないのか?」
「我は汝らを倒そうとは思ってないからな。汝らが疲弊してくれればそれでいい」
「ふん。侮るなよ?」
「来るぞ、アジ!」
アジはヒューマの方に向き直った。
「・・・!」
ヒューマの体から何本ものロンズデーライトの柱が四方八方に物凄いスピードで伸びていった。先端は尖っていて、これに刺さったら流石の二人も致命傷になりかねない。
二人は弾幕を避ける要領で柱を回避する。そして徐々にヒューマとの距離を詰め・・・。
すると突然、柱から無数の針が生えた。と思ったらヒューマ自信が回転し、無数の柱がヒューマを中心に回転した。
回転のスピードはどんどん上がっていく。二人はそれ以上接近することが出来なかった。
「くそ・・・ん?」
リーザは避けながら、一瞬だけヒューマと目を合わせた。するとヒューマは目視した標的に柱を伸ばし・・・。
「あがっ!?」
伸びた柱は、リーザの両肩に刺さった。
「リーザッ!」
あのまま放っておくと間違いなくマインドに狙われる、そう踏んだアジは向かってくる柱を無視し、はたまた諸刃の勢いで壊しながら何とかリーザを救出した。
「大丈夫かっ!?」
「何とか、な。それよりあっちも大変なんじゃないか?」
その時、ヒューマが回転をやめた。
展開されてたロンズデーライトが消滅した時、ヒューマは何かに悶え苦しんでいた。
「何をしたんだ・・・?」
「俺が一瞬だけ目を合わせていた時、ヒューマは自身を硬化させてなかったんだ。ロンズデーライトの重い体じゃさっきみたいな回転力は出せないと思ったんだろう。だから伸びてきたロンズデーライトを利用し電流を伝わせた」
「・・・」
ヒューマは暫く悶えた後、動かなくなった。いや、回復を優先させたの方が正しいだろう。
「させるかっ!」
アジはすぐにそれを見抜き、回復を阻止しようとヒューマに接近した。
「しばらく寝ててもらーー」
「待て」
背後から声がした。
振り向くとリーザを拘束したマインドがいた。
「目の前の敵に目が眩んだな。・・・これ程の傷なら、精神を乗っ取る事など容易い」
「貴様・・・ッ!」
「アジ・・・!」
「友を置き去りにしてまで敵を倒しにいくとは、やはり汝は悪の化身だ」
「アジ、聞くなっ!まずはヒューマの身柄を!」
「意味は無いと思うが。一度操った者は我が朽ちるまで効果は継続される」
「くっ!」
マインドが徐々に手に力を込める。
「誇り高き悪竜よ。これで汝も終わりーー」
パァンッ!
甲高い音が鳴る。そしてマインドの心臓には、
「何・・・だと」
ぽっかりと、風穴が開いていた。
「馬鹿な・・・他の者は今足止めしてる筈・・・」
「間に合ったぜ!ほら、早くしろ!」
「その声は、魔理沙!」
そしてもう一人。
「いや~流石魔理沙ちゃん。スピードと火力重視なだけある」