東方修行僧 17
「いくよ!ルナ!スター!」
「言われた通りやるのよ?」
「心配だわ・・・」
サニー・ミルクが光を屈折させ、周りの景色を変える。
それと同時にルナ・チャイルドが周囲から『音』を奪い取った。
「何だ!?一体何が起きているっ!?」
突然の事に敵兵士は混乱する。しかしその声は隊長には届かない。更にはサニーの能力の影響で隊長の姿も見えない。
そんな事態に唯一対応出来たのは鈴仙だけだった。
波長を操ってしまう彼女の前に三妖精の能力は通用しない。三妖精が能力に用いる波長ですら、鈴仙は操れてしまうからだ。ヒューマノイドはそれを利用し、味方への能力の影響を最小限に抑えたのだ。
ヒューマノイドは最初から全て計算した上で、鈴仙を部隊長に抜擢したのだ。
後は実に簡単な話だ。隊長を失いたじろぐ兵士達に少数の妖怪達で奇襲をかける。
いかに『銃器』を持っているといっても、音も視界も奪われてしまったらただの人間に過ぎない。そしてただの人間が妖怪に敵う筈はない。
その例にならい隊長と思わしき男以外の全ての人間はまたたく間に戦闘不能になっていった。
「スター!出番よ!」
孤立状態となった隊長をスター・サファイアの能力で追跡する。鈴仙は命令通りに永遠亭に誘っていた。
「サニー、今よ!」
「了解!」
サニーが能力を解いた頃には、少年は永遠亭に迷い込んでいた。追っていたはずの鈴仙も既に行方を眩ませている。
代わりにその場にいたのは箒にまたがり空を飛ぶ白黒の魔法使いの少女だった。
「あら♪またお嬢ちゃんなの?それとこの子は?」
「あやややや。また貴女ですか・・・」
「この方が先日ヒューマさんが言っていた人ですか・・・。私の名前は魂魄妖夢。以後お見知りおきを」
射命丸文と魂魄妖夢他少数の白狼天狗が守備していた妖怪の山ではアラン率いる大部隊が到着していた。その数200人弱程度。
「これまた大勢でいらしてどうしたのですか?」
「ここを主戦場にするってボスが聞かなくって・・・。アナタのボスさんもそう言ったんじゃなくて?」
「ええ、そうですが・・・」
「それにしてわこの数はねぇ?」
アランは周りを見た。
「ざっと30人程度かしら?アイツも私を舐めすぎてるんじゃないかい?」
「・・・文、お願い」
妖夢がそういうと、文は持っていた葉団扇をひと振りした。
葉団扇とは天狗のみが所有する、風を起こすことが出来る団扇である。吹き荒れた風は妖怪の山を一周し、戻ってきたところで消滅した。
「・・・今のが合図って訳かい」
「もう少ししたら増援が来ます。貴女の部隊は一溜りもなく鎮圧されるでしょう。ですが・・・」
文は葉団扇をしまうと、柄にない生真面目な顔で告げた。
「一度貰った借りは全力で返します。貴女は、この清く正しい射命丸文が直々に倒します!」
直後、先程発生した風の何倍もの突風が吹き荒れアランの背後にいた兵士達は成す術無く飛ばされた。
「前回は油断しましたが、今回は本気でいかせてもらいますよ」
アランの前に文が立ち塞がった。
「文の邪魔はさせません。貴方達は私が相手します」
兵士達の前には妖夢と他数十名の白狼天狗が立ち塞がった。