東方修行僧 14
鈴仙・優曇華院・イナバは魔法の森にて妖精や天狗等を従えた一隊を指揮していた
*
『魔法の森は必ずといっていい程相手が通る危険性がある所だ。上空からの奇襲が困難な上に身を隠せるものが沢山ある。恐らくは相手はここに潜伏し、奇襲をかける準備をするだろう。そこで鈴仙、君には妖精や天狗を引き連れこの一帯の制圧をしてもらう』
『魔法の森?それなら魔理沙とか、アリスに頼んだ方がいいんじゃないの?』
『君は月から来たらしいね。ちょっと前に興味本位で行ってみて、お姫様姉妹に会ってきたよ』
『っ!?いつの間に!?』
『いや~君の事は高く評価していたよ、戦闘のセンスは抜きん出ていたってね。ただちょっと、臆病な面があるのが残念って・・・』
『は、恥ずかしいからやめてよ!』
『はは、ごめんごめん。んで、その君の戦闘センスと月の技術からある知識を最も使いたいのは最重要拠点となるここしかないんだよ。お願いされてくれないかな?』
『でも・・・。私・・・』
『臆病だった君はもういないはずだ。霊夢ちゃん達と出会って君は少なからず大幅に成長している。私にはそれが分かる』
『・・・』
『私の目を、信じろ』
『・・・はあ、しょうがないわね。ただやっぱり詳しい人が必要ね』
『ならアリスちゃん、君が着いていってくれ』
『分かったわ。よろしくね』
*
「ねえ、敵は見えそう?」
「ちょっと待って・・・」
鈴仙は目を閉じて精神を集中した。
彼女の能力、『狂気を操る程度の能力』は正確には『物の波長を操る能力』であって、波長をずらすことによって幻覚を見せたり、狂気に陥れたりするなど、幅広い応用力を有する。その能力を使い、人の波長を読み取っているのだ。
「真正面から向かってくるわ・・・各自散開!!適当な場所に隠れて合図を待て!!」
その声と同時に妖精、天狗はバラバラに散る。
「アリス、貴方の人形でまずは奇襲をかけて頂戴。敵が混乱した所で私が幻覚を見せるから、注意がそこに集まったら全員で襲う。いい?」
「了解。貴方、普段は雑務ばかりやってるから分からないけど意外とそういう作戦とかたてるの得意なのね」
「ははは・・・」
鈴仙はスカートのポケットに手を突っ込んだ。そこには一枚の封筒があった。
(本当はヒューマがこの紙にやるべき事を書いてくれてたのよね・・・。「孔明スタイルだよ」って)
「ん?来たわよ!」
ちょうど木の下に兵隊と思わしき人間達が通った。その数ざっと50人程度。
「この数ならやれるわね」
「そうね・・・今よアリス」
アリス・マーガトロイドの操る人形が突如上から奇襲をかける。
「敵襲だぁーー!敵は・・・に、人形!?」
アリスが手先を動かすのと連動し、凄まじい早さで人形が敵兵を翻弄する。
「今だっ!」
その瞬間に兵士達は隠れていた敵の姿を視認し、一斉掃射を始める。
しかしそれは、鈴仙が見せた幻覚であった。
そのタイミングを見計って本当の隠れていた妖精、天狗が姿を現し弾幕で攻撃を始めた。
幻覚に囚われていた敵兵は為す術もなく次々と倒れていく。
「やめっ!・・・。やった、かな?」
敵兵は全滅した。鈴仙は次の紙を取った。
「え~っと、天狗の中から一名ヒューマの元に伝令を伝えて。ここは無事占拠出来たって」
「分かりました!」
すぐさま天狗の一人が向かって行った。
「よし、取り敢えず後はここに留まれば・・・」
「鈴仙、危ない!」
突如アリスが叫んだ。そして鈴仙を押し退けた。
「アリス!?どうし・・・」
次の瞬間、アリスの体から鮮血が飛び散った。
「アリスゥゥゥウッッ!!」
鈴仙はすぐにアリスに駆け寄った。無残にも、アリスの体からは絶えず真っ赤な血が流れ出る。
「アリスっ!」
鈴仙はアリスを抱きかかえた。幸い急所は外れたものの、虚ろな目をしていて息は乱れていた。
「そんな・・・。私のせいで・・・っ!」
「あ~あ。外しちゃった」
「っ!」
鈴仙は声のする方向を向いた。そして、凍りついた。
その少年に、敵意が感じられなかったのだ。