東方修行僧 12
ヅー・・・ヅヅ・・・ヅーヅー・・・
小さな部屋の中に形容し難い雑音が鳴り響く。
もう春になるというのに懲りずにニット帽を被っている少年、ヒューマノイドは耳にあてたスライドヘッドホンのダイヤルを弄った。
カチャッ。という音と共に先程まで鳴っていた雑音が止み、電話の着信音のような音が鳴った。
「・・・。やあ。私はヒューマノイド」
静かに無線で語りかけた。
「・・・成る程。お前がこの幻想郷での我々の活動を妨害している男か」
これが敵陣営のボス。甘く、威厳のある声。無線越しでも畏怖してしまいそうな程の、聞く者を魅了するような声だなと、ヒューマノイドは感じた。
「そういうことだね」
「・・・用件は?わざわざこちらの無線に介入してきたのだから、それなりの用なんだろう?」
「簡単な事さ。この幻想郷から立ち去って欲しいんだ。この幻想郷は平和で、秩序が保たれていて、まさに『楽園』」と呼ぶに相応しい場所だ。そこに君達みたいな危険は思想を持っている輩がいると本当に迷惑なんだよ。出来れば早急にここから出て行って欲しいんだが」
「・・・黙って了承するわけないだろう。お前がどれ程の実力者であろうと俺には敵わない。よって俺はお前に従う理由もない」
「どうしてそう幻想郷に執着するんだ?『理屈を操れる』なら勝手に一人でやってればいいじゃないか」
「・・・愚問。俺がそんな問いに答える筈無かろう。ただ俺はここで最後の復讐をする。数多ある世界全てに、愚かな生命達に。終わることのない輪廻をここで断ち切る」
「仕方ない。最大の譲歩案を出そう
・・・戦争だ」
「・・・」
「武力行使で君達を止めるしかもう方法は無さそうだ」
「・・・。やって、みろ」
そこで無線が切れた。
ダイヤルを元に戻し、ヒューマノイドは部屋から出て行った。
「どうだったんですか?」
部屋から出てきたヒューマノイドに、真っ先に駆けつけたのは東風谷早苗だった。
「・・・。残念だが、相手のボスさんとの交渉は失敗だ。やはり、直接戦争しか無さそうだ」
「そうですか・・・」
東風谷早苗は顔を竦めた。ひ弱な彼女にとって、戦争なんて言葉は受理し難いものなのだろう。
「あっそ。じゃあやっぱりこの博麗の巫女が直々に赴いて、首謀者を懲らしめるしかなさそうね」
「おいまて霊夢。私も着いていくぜ!」
博麗霊夢と霧雨魔理沙がやる気に満ちた表情でスッと立ち上がった。両者共、先日負った傷が無かったように回復している。
そんな二人を見て、ヒューマノイドは安心しているのか呆れているのかよくわからない気持ちになった。
「紫、どれぐらい集まった?」
「幻想郷で名を挙げる者は殆どってとこよ。敵はかなりの大群なのでしょう?皆二つ返事で了承してくれたわ」
八雲紫の後ろには、過去に異変を起こした者や幻想郷に古くから住む妖怪等錚々たる面々が連なっていた。
「兵隊さんが遊んでくれるの?やったー!」
「フラン。これはただの遊びじゃないのよ?」
「お嬢様と妹様は私がお守り致します」
「相手がどんな武器を使おうと、全て斬り落としてみせます!」
「あら妖夢。随分やる気ね」
「あたいは最強だから、ぐんたいなんてへっちゃらなんだからね!」
「チルノちゃん・・・。心配だよ・・・」
「ははは。元気なもんだ。流石幻想郷の住民だ。さて・・・」
ヒューマノイドはゆっくり息を吸い込んだ。辺りが一斉に静まる。
「これより、幻想郷防衛ミッションを開始する!全員自分の命を大事にし、誰一人欠けることなくまたこの場に集まれるように!」
戦争を知らない者達が自らの安住の地を守る為立ち上がったーー。
「・・・。決して幻想郷の民は侮れぬ存在・・・。しかしあの男、ヒューマノイドとは・・・?あやつは俺と同じ匂いがする。十二分に警戒せねば・・・。最悪、俺に真に忠誠を誓うあの者達の出番も考えねば・・・」