東方修行僧 4
「っ!」
驚いて妖怪の方向を再度見た。すると、先程の少女がグタッと倒れている。
その後頭部には血痕が見られた。
私は直感した。奴は、何の罪も無い少女を手に掛けたと。
幸いまだ息はありそうだ。しかし、早く処置を施さないと後遺症が残るかもしれない。
私は我慢ならず、表へ飛び出した。
「すいません、もう一度その素敵な演説を最初からお願いできますか?聞きそびれてしまって」
「はぁ?聞きそびれたぁ?・・・まぁいい。そこに座れ」
「はい。早速・・・」
咄嗟にナイフを投げた。なるべく急所に当たらないように。
その弾道は腕にいき、妖怪はギリギリのところで回避した。
その間に出来た一瞬の隙を突き、足元に煙幕を投げて妖怪の視界を奪った。
咳き込む妖怪を尻目に少女を救助し、近くの人に頼んで安全な場所に避難させた。ここまでおよそ三秒。上出来だ。
煙幕が切れるまでまだ時間がある。少女が避難したのを見届け、他の人も避難させた。
そこでやっと煙幕が切れた。これで心置きなくこの妖怪と話せる。
「さて、演説の続きを聞かせてもらいましょうか」
「クソッタレ・・・」
妖怪は、こっちを睨みつけた。
「何故、こんなことをしたのですか?」
「・・・お腹が、空いたから」
聞かなくても分かっていたが、それにしても今の仕草は可愛い。
「はぁ・・・しょうがないですね」
私は、持っていたナイフで自分の腕を切った。
「くっ!」
「!?アンタ何を」
「これを食べなさい」
ア〇パンマン並にすんなり自分の体を食べるように言った。
「ア、アンタの腕はどうするのさ!?」
「心配ない」
私はそういうと、無くなったほうの腕に少し力を入れた。するとその腕があった部位に黄褐色透明の物質・・・ロンズデーライトというのだが、それが腕の代わりといったように生えてきた。
かと思ったら、今度は徐々に変色し始めて元の腕の形になった。妖怪が驚いて触ってきたが、感触も腕と何も変わらない。どうして?と妖怪は訊ねた。
何も難しい事は無い。私の能力、『ロンズデーライトを操る能力』は様々な場所にロンズデーライトを「創る」だけで無く、天然のもの(といってもまだ目視出来るほどの物は発見されてないが)でも創りだしたものでも構わず「操る」、体をロンズデーライトに「変える」といったことまで出来る。
今使った技術は、「変える」の応用である。体をロンズデーライトへと変化させた後、必要じゃなくなったら戻すことが出来る。これは体の部位を変化させることが出来る能力なら当たり前の事だが、これはその「戻す」作業を行っただけである。生命は、たとえ体の部位を失ったとしても根源の部分では腕を記憶している。いわゆる、魂という奴だ。その記憶を引用することによって、体の再生を能力を介して実現させているのだ。
妖怪は、納得した様子で帰っていった。正直、今の事を聞いて何になるのかと思ったが、知ろうとする事は大事である。そして知識となったものを客観的に見つめ、応用させることは更に大事だ。今の方法も、そういった「貪欲さ」と「客観性」によって編み出したものだ。
「勝ち誇るのもいいですが、そろそろ帰りますよ?」
突如、背後に華扇の姿があった。
「何で勝ち誇ってるって分かったんですか?」
「目が自身で満ち溢れていましたよ?」
何でそう私を観察してくるのか、もしかして脈アリか?
・・・いや、やめよう。勘違いで有頂天になったところで、後で虚しくなるだけだ。
「それにしても、やれば出来るじゃないですか。今日の一件を見てましたけど、無理して怒りを抑えた様子は無さそうでした。普通ならか弱い少女が人質に取られていたら理由はどうあれ怒りを覚える筈です。貴方、元々は出来るんじゃないですか?」
そうか成る程、と思った。
まだ私が普通の人間だった頃、憧れだったサッカー選手が「どんなことでも腹を立てない事、それが心の余裕に繋がり、心に余裕に余裕があると試合中周りがよく見え落ち着いたプレーが出来る」と記していたのに感動し、必死にそのメンタルコントロールを真似ていた事を思い出した。今では当然のように出来ているが、その為にその言葉を忘れいつからかそのメンタルコントロールが疎かになってしまっていたのだろう。
すっかり日が暮れ、辺りはほんの少しの肌寒さと、僅かな光に支配された。そんな黄昏時はもう家に帰れと言わんばかりに烏が鳴いていた。